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2.憑いていっちゃダメですか?
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どうして彼がわたしのことを知っているのかはわからないけど、関わっちゃダメだ。
青南学院のイケメンのユーレイ(たぶん)なんて見えていないフリをして、2両目の乗り場のほうへと足を向ける。
そんなわたしの背中に、「待ってよ、衣奈ちゃん」というイケメンユーレイの悲痛な声が届いた。
「おれ、昨日からずっと、ここを動けないんだ。でも、衣奈ちゃんのことしか覚えてなくて……。だからお願い。助けてよ」
「助けて」という、切羽詰まったような彼の叫びに、ダメだと思うのにわたしの足が止まる。
誰だかわからないけど、助けを求めてるのにムシするのはひどいよね……。
わたしにしか視えていなくて、なぜかわたしのことしか覚えていないという彼を見捨てたら……。
何人もの通行人が彼の身体をすり抜けていっていたのを思い出して、胸がチクリとなる。
得体のしれないユーレイなんてほっとけばいいのに。それがユーレイであっても、助けを求められたらほっとけないような気持ちになるなんて。
わたしはなんて、お人好しでおせっかいなんだろう……。
振り向いて二歩近づくと、イケメンユーレイが、ふわっと、そのまま溶けて消えちゃうんじゃないかと思うくらい嬉しそうに笑う。
「やっと、衣奈ちゃんがまともにおれの声を聞いてくれた」
心臓がドクンと鳴って、彼の笑顔に惹きつけられて動けなくなる。
彼がわたしのほうに手を伸ばしてきて。その瞬間、何十キロもの錘がのしかかったみたいに、急に肩が重くなった。
ついでに、ぐらりと、なんだか立ちくらみまでする。
なんかヘンかも。でも、こんなところで倒れたら……。
手で額を押さえようとして、ふと、自分がイケメンユーレイの両腕に包まれているとこに気付く。
もしかして、急に肩が重たくなったのは彼のせい……?
びっくりして恐々視線をあげると、色白のイケメンユーレイが、十センチにも満たないくらいの至近距離で微笑みかけてきた。その笑みをどう言い表したらいいだろう。
艶のある黒い髪、奥二重の切れ長目。弓状にしならせた形のよい薄い唇。
近くで見た彼はなんというか。妖しいくらいに美しかった。あんまり綺麗で、ゾクリとするほどだ。
目の前の彼を見つめたまま動けずにいると、彼の両腕がわたしをぎゅーっと締めつけてくる。
と言っても、彼の腕の感覚があるわけではなく、見えない縄で縛られてるみたいな感覚だけがあるのだ。
なにこれ。これってもしかして、金縛り……?
体が全然動かせない。
初めての感覚に怯えていると、はぁーっという彼の息遣いとともに、冷たい風が耳を掠めた。
「ああ、ホンモノの衣奈ちゃん……」
ぐふっというくぐもった笑い声とともに聞こえてきたのは、イケメンユーレイの少し荒い息遣い。
正面から抱きしめられているせいで彼の顔はよく見えないけど……。
髪の毛の匂いを嗅がれているのか、すーはーという息の音に合わせて、首筋に冷たい風がかかる。
な、何これ。怖い……。
わたし、このままだと取り憑かれちゃう……!?
途端に心臓がバクバクと早鐘を打ちはじめ、手のひらが変な汗でじとっと湿る。
ちょっとかわいそうだな、なんて。中途半端な同情で情けなんてかけちゃダメだった。
やばい。やばい。やばい!
逃げないと……!
わたしは肩に重しのようにのしかかってくるイケメンユーレイの腕を無我夢中で振り払うと、ドアが閉まりかけようとしている電車に飛び込んだ。
青南学院のイケメンのユーレイ(たぶん)なんて見えていないフリをして、2両目の乗り場のほうへと足を向ける。
そんなわたしの背中に、「待ってよ、衣奈ちゃん」というイケメンユーレイの悲痛な声が届いた。
「おれ、昨日からずっと、ここを動けないんだ。でも、衣奈ちゃんのことしか覚えてなくて……。だからお願い。助けてよ」
「助けて」という、切羽詰まったような彼の叫びに、ダメだと思うのにわたしの足が止まる。
誰だかわからないけど、助けを求めてるのにムシするのはひどいよね……。
わたしにしか視えていなくて、なぜかわたしのことしか覚えていないという彼を見捨てたら……。
何人もの通行人が彼の身体をすり抜けていっていたのを思い出して、胸がチクリとなる。
得体のしれないユーレイなんてほっとけばいいのに。それがユーレイであっても、助けを求められたらほっとけないような気持ちになるなんて。
わたしはなんて、お人好しでおせっかいなんだろう……。
振り向いて二歩近づくと、イケメンユーレイが、ふわっと、そのまま溶けて消えちゃうんじゃないかと思うくらい嬉しそうに笑う。
「やっと、衣奈ちゃんがまともにおれの声を聞いてくれた」
心臓がドクンと鳴って、彼の笑顔に惹きつけられて動けなくなる。
彼がわたしのほうに手を伸ばしてきて。その瞬間、何十キロもの錘がのしかかったみたいに、急に肩が重くなった。
ついでに、ぐらりと、なんだか立ちくらみまでする。
なんかヘンかも。でも、こんなところで倒れたら……。
手で額を押さえようとして、ふと、自分がイケメンユーレイの両腕に包まれているとこに気付く。
もしかして、急に肩が重たくなったのは彼のせい……?
びっくりして恐々視線をあげると、色白のイケメンユーレイが、十センチにも満たないくらいの至近距離で微笑みかけてきた。その笑みをどう言い表したらいいだろう。
艶のある黒い髪、奥二重の切れ長目。弓状にしならせた形のよい薄い唇。
近くで見た彼はなんというか。妖しいくらいに美しかった。あんまり綺麗で、ゾクリとするほどだ。
目の前の彼を見つめたまま動けずにいると、彼の両腕がわたしをぎゅーっと締めつけてくる。
と言っても、彼の腕の感覚があるわけではなく、見えない縄で縛られてるみたいな感覚だけがあるのだ。
なにこれ。これってもしかして、金縛り……?
体が全然動かせない。
初めての感覚に怯えていると、はぁーっという彼の息遣いとともに、冷たい風が耳を掠めた。
「ああ、ホンモノの衣奈ちゃん……」
ぐふっというくぐもった笑い声とともに聞こえてきたのは、イケメンユーレイの少し荒い息遣い。
正面から抱きしめられているせいで彼の顔はよく見えないけど……。
髪の毛の匂いを嗅がれているのか、すーはーという息の音に合わせて、首筋に冷たい風がかかる。
な、何これ。怖い……。
わたし、このままだと取り憑かれちゃう……!?
途端に心臓がバクバクと早鐘を打ちはじめ、手のひらが変な汗でじとっと湿る。
ちょっとかわいそうだな、なんて。中途半端な同情で情けなんてかけちゃダメだった。
やばい。やばい。やばい!
逃げないと……!
わたしは肩に重しのようにのしかかってくるイケメンユーレイの腕を無我夢中で振り払うと、ドアが閉まりかけようとしている電車に飛び込んだ。
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