今日も、由井くんに憑けられています…!

碧月あめり

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2.憑いていっちゃダメですか?

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「お願い、逃げないで」

「嫌です、ムリです……!」

 首を横に振って強く拒絶すると、イケメンユーレイがショックを受けたように、ズーンと肩を落としてうなだれた。


「おれ、衣奈ちゃんに嫌われてるんだ……」

 ブツブツとつぶやくイケメンユーレイから、今度はただならぬ気配の負のオーラが漂い始める。気のせいかもしれないけど、周囲の温度が少し下がったような気がする。

 ぷるっと震えると、イケメンユーレイが右手の親指の爪をガリッと噛みながら、虚ろな瞳でわたしを見てきた。

「どうしたらいいんだろう……。おれにはもう、衣奈ちゃんしかいないのに……」

 暗い表情を浮かべてぼそぼそとつぶやく彼は、情緒不安定になっている様子だ。

 白く青ざめた綺麗な顔には悲壮感か漂っていて、今にも倒れてしまいそう……。(ユーレイだから、倒れるも何もないのか……)

 正体不明のユーレイなんかに、絶対情けをかけちゃだめ。

 それはちゃんとわかっているのに、わたしのおせっかいな部分が、やっぱりちょっとかわいそう……? なんて思ってしまう。


「あ、の……。そもそも、どうしてわたしに話しかけてきたんですか……?」

 警戒しながら、恐る恐る声をかけると、イケメンユーレイがゆっくりと視線をあげた。

 奥二重の切長の目が、わたしのことをじっと見つめる。憂いを帯びたまなざしに、思わずドキリと胸が鳴る。その瞬間、彼が言った。


「だって、おれ、衣奈ちゃんのことが好きってことしか覚えてないから」

 彼が発した言葉が、頭の中でうまく理解できないままに流れていく。


「え、今、なんて?」

 思わず聞き返すと、イケメンユーレイが「だから……」と、ちょっと恥ずかしそうに眉根を寄せた。


「おれ、衣奈ちゃんが好きってこと以外、何も覚えてないんだ」

 聞き直しても、返ってきた答えは変わらない。

 え、ちょっと待って。

 わたしを好きってことしか覚えてないって、どういう意味……?

 わたしはこの人のこと、1ミリも知らないんだけど。

 混乱して額を押さえていると、イケメンユーレイが不安そうな目をしてわたしの顔を覗き込んできた。

 びっくりして後ずさると、彼が少し傷付いたような顔をする。


「お願い、怖がらないで。自分でもよくわからないけど、おれ、衣奈ちゃんのことがすっごく好きなんだ。だから、しばらく憑いてっちゃダメ?」

 上目遣いにわたしを見つめる彼の目が、同情を誘うように潤む。

 しばらく憑いてっちゃダメ?、って。

 まさか彼は、わたしがその質問に「いいよ」と笑って答えるとでも思っているのだろうか。

 わたしは、どちらかというとおせっかいで面倒見がいいほうだと思う。


 だけど、さすがにユーレイは困る……。

 ものすごく、困る……。
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