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3.離れられないみたいです。
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しおりを挟む「ここが衣奈ちゃんち……!」
駅から徒歩十五分の自宅に着くと、イケメンユーレイがボソリとつぶやいた。
ちらりと横目で見ると、彼がウチを見上げながら、両手を合わせて目を輝かせている。
どうしてこんなことになっちゃったんだろう……。
わたしは、電車を降りてから家に着くまでの彼とのやりとりを思い出して、深いため息をこぼした。
電車の中で『憑いてっちゃダメ?』と訊かれたとき、わたしは「困ります」と、彼のことをきっぱりと拒否したはずだ。
それなのに――。
わたしが地元の駅で電車を降りると、なぜか彼もついてきた。
駅前のスーパーで夕飯の材料と明日の朝ごはんの材料を買っているときも、買い物を済ませてスーパーを出たあとも、彼はわたしを追いかけてきて……。
「どこまでついてくるの? わたし、困りますって言ったよね?」
たまりかねて訊ねると、イケメンユーレイが申し訳なさそうに目を伏せた。
「わかってるんだけど……。どうやって衣奈ちゃんから離れたらいいかわからなくて……」
「え……?」
彼曰く、
「おれ、どれだけ頑張って動こうとしても駅のホームのあの乗り場から全然動けなかったんだ。でも、衣奈ちゃんがおれから逃げようとしたとき『離れたくない!』って強く思って……。そうしたら、衣奈ちゃんについて電車に乗れたんだ。でも、衣奈ちゃんに、憑いてきたら困るって言われたから離れようとしたんだけど……。あのホームの乗り場から離れられなかったみたいに、今度は衣奈ちゃんの近くから離れられなくなっちゃったみたい」
とのことらしい。
わたしから離れられなくなっちゃった、って。本格的にヤバいじゃん。
そう思ったわたしは、彼を撒くためにダッシュで逃げた。
だけど、どれだけ逃げても、彼はわたしの後ろをぴったり憑いてくる。
最初は彼が自分の意志でつけてきているのかと思ったけれど、そうではなくて。彼自身もよくわからない引力みたいなものに引き寄せられていて、わたしから離れられないらしい。
結局、家に着くまでにイケメンユーレイを撒くことはできず……。
不本意にも、彼を家まで連れてくることになってしまった。
玄関のドアを開けて家の中に入ると、イケメンユーレイも「お邪魔しまーす」と嬉しそうについてくる。
お邪魔していいなんて言った覚えはないんだけど……。
駅から家までの追いかけっこでわたしの体力は底をついていて、もはやつっこむ気力もない。
「あ、お姉ちゃん。おかえり~」
ぐったりとしながらリビングのドアを開けると、妹の咲奈がお茶の入ったコップを片手に振り返る。
「た、ただいま……。帰ってたんだ」
妹の咲奈はわたしも通っていた地元の中学の二年生だ。
いつもなら、部活に出て帰宅は18時半過ぎになるのに。男子高校生のユーレイを連れ帰ってしまった今日に限って、咲奈が早く帰宅していることに焦る。
今のところ、彼の姿はわたしにしか視えていないみたいだけど、咲奈はどうだろう。
もしも万が一視えてしまったら、きっと怖がらせてしまう。
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