今日も、由井くんに憑けられています…!

碧月あめり

文字の大きさ
14 / 80
3.離れられないみたいです。

しおりを挟む

 わたしの斜め後ろに浮かんでいるイケメンユーレイを咲奈から隠すため、横歩きで二歩移動する。

 だけど、空気の読めない彼は「あの子、衣奈ちゃんの妹?」と、わたしの肩越しにひょいっと顔を出してきた。

 どうして、このタイミングで話しかけてくるのよ……!

 無言で横目に彼を睨むと、咲奈が不審気にわたしを見てきた。

「お姉ちゃん、どうかしたの?」

 わたしの横から男子高校生のユーレイが顔を覗かせているのに何の反応も示さないってことは……。どうやら咲奈には、彼の姿が視えていないらしい。


「べつに、どうもしないよ」

 わたしが笑って首を横に振ると、咲奈がまだ不審そうな顔で「ふーん?」という。

 とりあえず、咲奈を怖がらせずに済んでよかったけど……。わたしは、彼をどうすればいいのだろう。

 買い物袋を持ってキッチンに向かうと、シンクの足元に置いてある皿の水を飲んでいたクレイがわたしの気配に気付いて顔をあげた。


 クレイは、二年前にわたしが近所の公園で拾ってきた猫だ。たぶん雑種だけど、アッシュブルーの毛と緑がかった瞳の色がなんとなくロシアンブルーっぽい。


「ただいま、クレイ」

 クレイは家族の中でもわたしに一番よくなついていて、名前を呼ぶと足に体を擦り寄せてくる。それなのに……。

 なぜか今日は、わたしを見るなり背中の毛を逆立てて、「シャーッ」と、威嚇してきた。


「どうしたの、クレイ」

 様子のおかしいクレイに近付こうとすると、クレイが数歩後退りして、わたしを見上げて歯を剥いてくる。


「クレイ、どうしたの? お姉ちゃんに威嚇するのなんて初めてじゃない?」

 コップをキッチンのシンクに置きにきた咲奈が、毛を逆立てて怒っているクレイを見て目を見開く。


「そうだよね。どうしたんだろう……」

 買い物袋を台所の床に置くと、クレイのそばに歩み寄る。そのままちょっと強引に抱き上げようとすると、クレイがわたしの手の甲にガリッと爪をたててきた。

「い、った……」

 ビックリして手を引くと、クレイが咲奈の足元へと走って逃げる。

 拾ってきたばかりの頃のクレイにはよく引っ掻かれたけど、最近ではこんなふうに爪をたてられることはなかったから、地味にショックだ。

 それに、一番懐いているはずのわたしを拒否して咲奈の足元に逃げていってしまったことも……。

 引っ掻かれた手の甲を押さえて茫然としていると、咲奈が足元に擦り寄ってきたクレイを抱き上げる。


「クレイ。どうしちゃったのー?」

 咲奈に抱かれたクレイは、きゅっと小さく体を丸めて、まだわたしのことを警戒しているふうだった。


「クレイがお姉ちゃんのこと引っ掻くとか、おかしいよね。お姉ちゃん、帰ってくる途中になにか猫の嫌う匂いでもつけてきたんじゃない?」

「猫の嫌う匂い……?」

 変な匂いをつけてきてはないと思うけど、今日のわたしは、いつもと違うモノを連れ帰ってきている。

 もしかして、クレイはわたしのそばにいるユーレイの存在を感じ取っているのだろうか。

ふと気付くと、さっきまではわたしの隣で浮かんでいた彼がわたしの背中に隠れるようにして息を潜めている。


「衣奈ちゃんの家、猫飼ってるんだね。すっごくかわいいけど……、おれ、ちょっと苦手かも……」

 彼がもともと猫が苦手なのか、ユーレイが猫が苦手なのかはわからないけど……。

 わたしの後ろで震える彼と、咲奈の腕の中でこちらを威嚇してくるクレイの相性が悪いってことは間違いないなさそうだ。

 このまま彼が憑いている限り、わたしはクレイから威嚇され続けるのだろうか……。

 このままずっとクレイのそばに近付けないままだったら……。ツヤツヤの毛を撫でることも、抱っこすることもできなくなってしまったら……。

 絶対いやだ。

 二年前に子猫だったクレイを拾ってきたときから、あの子はわたしの癒しなのに。

 こうなったら、一刻も早くイケメンユーレイにはわたしから離れていってもらわなくてはいけない。
 
 わたしはスーパーで買ってきたものを冷蔵庫に入れると、咲奈に抱かれたクレイに威嚇されながら、二階の部屋へと駆け上がった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活

まみ夜
キャラ文芸
年の差ラブコメ X 学園モノ X オッサン頭脳 様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。 子役出身の女優、芸能事務所社長、元セクシー女優なども登場し、学園の日常はハーレム展開? 第二巻は、ホラー風味です。 【ご注意ください】 ※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます ※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります ※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます 第二巻「夏は、夜」の改定版が完結いたしました。 この後、第三巻へ続くかはわかりませんが、万が一開始したときのために、「お気に入り」登録すると忘れたころに始まって、通知が意外とウザいと思われます。 表紙イラストはAI作成です。 (セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ) 題名が「(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ」から変更されております

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...