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3.離れられないみたいです。
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しおりを挟むわたしの斜め後ろに浮かんでいるイケメンユーレイを咲奈から隠すため、横歩きで二歩移動する。
だけど、空気の読めない彼は「あの子、衣奈ちゃんの妹?」と、わたしの肩越しにひょいっと顔を出してきた。
どうして、このタイミングで話しかけてくるのよ……!
無言で横目に彼を睨むと、咲奈が不審気にわたしを見てきた。
「お姉ちゃん、どうかしたの?」
わたしの横から男子高校生のユーレイが顔を覗かせているのに何の反応も示さないってことは……。どうやら咲奈には、彼の姿が視えていないらしい。
「べつに、どうもしないよ」
わたしが笑って首を横に振ると、咲奈がまだ不審そうな顔で「ふーん?」という。
とりあえず、咲奈を怖がらせずに済んでよかったけど……。わたしは、彼をどうすればいいのだろう。
買い物袋を持ってキッチンに向かうと、シンクの足元に置いてある皿の水を飲んでいたクレイがわたしの気配に気付いて顔をあげた。
クレイは、二年前にわたしが近所の公園で拾ってきた猫だ。たぶん雑種だけど、アッシュブルーの毛と緑がかった瞳の色がなんとなくロシアンブルーっぽい。
「ただいま、クレイ」
クレイは家族の中でもわたしに一番よくなついていて、名前を呼ぶと足に体を擦り寄せてくる。それなのに……。
なぜか今日は、わたしを見るなり背中の毛を逆立てて、「シャーッ」と、威嚇してきた。
「どうしたの、クレイ」
様子のおかしいクレイに近付こうとすると、クレイが数歩後退りして、わたしを見上げて歯を剥いてくる。
「クレイ、どうしたの? お姉ちゃんに威嚇するのなんて初めてじゃない?」
コップをキッチンのシンクに置きにきた咲奈が、毛を逆立てて怒っているクレイを見て目を見開く。
「そうだよね。どうしたんだろう……」
買い物袋を台所の床に置くと、クレイのそばに歩み寄る。そのままちょっと強引に抱き上げようとすると、クレイがわたしの手の甲にガリッと爪をたててきた。
「い、った……」
ビックリして手を引くと、クレイが咲奈の足元へと走って逃げる。
拾ってきたばかりの頃のクレイにはよく引っ掻かれたけど、最近ではこんなふうに爪をたてられることはなかったから、地味にショックだ。
それに、一番懐いているはずのわたしを拒否して咲奈の足元に逃げていってしまったことも……。
引っ掻かれた手の甲を押さえて茫然としていると、咲奈が足元に擦り寄ってきたクレイを抱き上げる。
「クレイ。どうしちゃったのー?」
咲奈に抱かれたクレイは、きゅっと小さく体を丸めて、まだわたしのことを警戒しているふうだった。
「クレイがお姉ちゃんのこと引っ掻くとか、おかしいよね。お姉ちゃん、帰ってくる途中になにか猫の嫌う匂いでもつけてきたんじゃない?」
「猫の嫌う匂い……?」
変な匂いをつけてきてはないと思うけど、今日のわたしは、いつもと違うモノを連れ帰ってきている。
もしかして、クレイはわたしのそばにいるユーレイの存在を感じ取っているのだろうか。
ふと気付くと、さっきまではわたしの隣で浮かんでいた彼がわたしの背中に隠れるようにして息を潜めている。
「衣奈ちゃんの家、猫飼ってるんだね。すっごくかわいいけど……、おれ、ちょっと苦手かも……」
彼がもともと猫が苦手なのか、ユーレイが猫が苦手なのかはわからないけど……。
わたしの後ろで震える彼と、咲奈の腕の中でこちらを威嚇してくるクレイの相性が悪いってことは間違いないなさそうだ。
このまま彼が憑いている限り、わたしはクレイから威嚇され続けるのだろうか……。
このままずっとクレイのそばに近付けないままだったら……。ツヤツヤの毛を撫でることも、抱っこすることもできなくなってしまったら……。
絶対いやだ。
二年前に子猫だったクレイを拾ってきたときから、あの子はわたしの癒しなのに。
こうなったら、一刻も早くイケメンユーレイにはわたしから離れていってもらわなくてはいけない。
わたしはスーパーで買ってきたものを冷蔵庫に入れると、咲奈に抱かれたクレイに威嚇されながら、二階の部屋へと駆け上がった。
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