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3.離れられないみたいです。
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◇
当然のようにわたしのあとをついてくるイケメンユーレイを部屋に招き入れると、二階の廊下に誰もいないことを確認してから静かにドアを閉める。
「やっぱり、あなたがわたしから離れられる方法をちゃんと真剣に考えよう」
真面目に話し合おうと思って振り向くと、さっきまでわたしの後ろにいたはずの彼の姿が見えない。
あれ……、どこ行った? もしかして、自然に消えた?
あんまり心配することなかったのかも。
だけど、そんなふうに安心して喜べたのは、ほんの一瞬だけだった。
「はぁ、ここが衣奈ちゃんの部屋……」
ぐふっとくぐもった笑い声が聞こえてきて視線を巡らすと、イケメンユーレイが窓際に置かれたベッドにうつ向けに寝そべっている。
実際には、ベッドの掛け布団の上に微妙に浮いてる感じなんだけど。
「衣奈ちゃんの匂いがする……」なんて、実体もないくせに、スーハーと人の枕の匂いを嗅いでいる彼の姿は……。
ユーレイというより、変態……?
そういえばこの人、駅でも人の髪の匂い嗅いでたな。
あのときは取り憑かれたという恐怖心で、うっかり変態行為を見過ごしたけど。
彼の顔が良くなければ……。
いや、ちがう。彼がユーレイじゃなければ、即通報案件だ。
「あの、ユーレイはどこに通報したら逮捕してもらえるかわかります?」
スマホを片手に真顔でそう言うと、わたしのベッドに寝そべっていた彼が飛び上がる。
「あ、ご、ごめん。衣奈ちゃんの部屋に来られて、ついテンションが上がってしまって」
「つい、じゃない」
「はい……」
わたしから冷たいまなざしを向けられたイケメンユーレイが、ベッドの上で正座する。
こちらの反応を窺うように見上げてくる彼をしばらく見つめてから、わたしはため息を吐いた。
「それで……。さっきわたしが言ったことは、ちゃんと聞いてくれてた?」
「さっき言ったこと?」
「あなたがわたしから離れる方法を、真剣に考えようって話だよ」
「ああ、そっか……。そうだね、うん……」
わたしの話に頷くイケメンユーレイは、なんだか浮かない顔をしている。
わたしから離れるって提案にあまり乗り気じゃないのかもしれない。
もし乗り気じゃなかったとしても、彼にこのままついてこられるのは困る。
わたしはベッドの下で正座して、彼を少し見上げるカタチで向かい合った。
「まずは、落ち着いて状況確認させてね。あなたは、わたしのこと(正確にはわたしを好きってことしか)覚えてないって言ってたけど……。ほんとうに、ほかのことは何にも覚えてないの?」
問いかけると、彼が困った顔でわたしを見つめてきた。
「ほんとうに、何も覚えてない。気付いたときには、さっきの駅のホームにひとりで立ってたんだけど……。自分が誰なのか、いつからあそこに立ってたのかもわからなくて……。しばらくぼんやり立ってたら、急に衣奈ちゃんの顔が頭に浮かんできて。ああ、おれ、この子のことが好きだったって思い出したんだ。それからはずっと、早く衣奈ちゃんに会いたくて待ってたよ」
わたしのことを好きだってことしか覚えていない。
そういうイケメンユーレイの主張は、やっぱりブレない。
記憶喪失で、自分の名前も恋人のことも忘れちゃった……、なんて話は見たことあるけど。
好きだった人の顔と名前しか覚えてない記憶喪失って、そんなこともあるのかな……?
不思議に思いながら見つめると、イケメンユーレイがニヘラッと嬉しそうに笑いかけてくる。
わたしはマジメに話し合いたいのに、どこか締まりのない彼の笑顔には全く緊張感がない。
彼がどこの誰で、どういう経緯でわたしの名前を知ったのかはわからないけれど……。
自分が誰かもわからなくて、わたしのことしか覚えてないっていう今の状態に不安はないのだろうか。
当然のようにわたしのあとをついてくるイケメンユーレイを部屋に招き入れると、二階の廊下に誰もいないことを確認してから静かにドアを閉める。
「やっぱり、あなたがわたしから離れられる方法をちゃんと真剣に考えよう」
真面目に話し合おうと思って振り向くと、さっきまでわたしの後ろにいたはずの彼の姿が見えない。
あれ……、どこ行った? もしかして、自然に消えた?
あんまり心配することなかったのかも。
だけど、そんなふうに安心して喜べたのは、ほんの一瞬だけだった。
「はぁ、ここが衣奈ちゃんの部屋……」
ぐふっとくぐもった笑い声が聞こえてきて視線を巡らすと、イケメンユーレイが窓際に置かれたベッドにうつ向けに寝そべっている。
実際には、ベッドの掛け布団の上に微妙に浮いてる感じなんだけど。
「衣奈ちゃんの匂いがする……」なんて、実体もないくせに、スーハーと人の枕の匂いを嗅いでいる彼の姿は……。
ユーレイというより、変態……?
そういえばこの人、駅でも人の髪の匂い嗅いでたな。
あのときは取り憑かれたという恐怖心で、うっかり変態行為を見過ごしたけど。
彼の顔が良くなければ……。
いや、ちがう。彼がユーレイじゃなければ、即通報案件だ。
「あの、ユーレイはどこに通報したら逮捕してもらえるかわかります?」
スマホを片手に真顔でそう言うと、わたしのベッドに寝そべっていた彼が飛び上がる。
「あ、ご、ごめん。衣奈ちゃんの部屋に来られて、ついテンションが上がってしまって」
「つい、じゃない」
「はい……」
わたしから冷たいまなざしを向けられたイケメンユーレイが、ベッドの上で正座する。
こちらの反応を窺うように見上げてくる彼をしばらく見つめてから、わたしはため息を吐いた。
「それで……。さっきわたしが言ったことは、ちゃんと聞いてくれてた?」
「さっき言ったこと?」
「あなたがわたしから離れる方法を、真剣に考えようって話だよ」
「ああ、そっか……。そうだね、うん……」
わたしの話に頷くイケメンユーレイは、なんだか浮かない顔をしている。
わたしから離れるって提案にあまり乗り気じゃないのかもしれない。
もし乗り気じゃなかったとしても、彼にこのままついてこられるのは困る。
わたしはベッドの下で正座して、彼を少し見上げるカタチで向かい合った。
「まずは、落ち着いて状況確認させてね。あなたは、わたしのこと(正確にはわたしを好きってことしか)覚えてないって言ってたけど……。ほんとうに、ほかのことは何にも覚えてないの?」
問いかけると、彼が困った顔でわたしを見つめてきた。
「ほんとうに、何も覚えてない。気付いたときには、さっきの駅のホームにひとりで立ってたんだけど……。自分が誰なのか、いつからあそこに立ってたのかもわからなくて……。しばらくぼんやり立ってたら、急に衣奈ちゃんの顔が頭に浮かんできて。ああ、おれ、この子のことが好きだったって思い出したんだ。それからはずっと、早く衣奈ちゃんに会いたくて待ってたよ」
わたしのことを好きだってことしか覚えていない。
そういうイケメンユーレイの主張は、やっぱりブレない。
記憶喪失で、自分の名前も恋人のことも忘れちゃった……、なんて話は見たことあるけど。
好きだった人の顔と名前しか覚えてない記憶喪失って、そんなこともあるのかな……?
不思議に思いながら見つめると、イケメンユーレイがニヘラッと嬉しそうに笑いかけてくる。
わたしはマジメに話し合いたいのに、どこか締まりのない彼の笑顔には全く緊張感がない。
彼がどこの誰で、どういう経緯でわたしの名前を知ったのかはわからないけれど……。
自分が誰かもわからなくて、わたしのことしか覚えてないっていう今の状態に不安はないのだろうか。
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