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2.憑いていっちゃダメですか?
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しおりを挟むドキッとして振り向くと、少し離れたところから、イケメンユーレイが大きく目を見開いて、わたしを凝視している。
人波にうまく紛れたはずだったのに、他の乗客たちは彼にとって何の障壁でもないらしい。妖しげな光を宿した彼の双眸は、真っ直ぐに、的確にわたしだけを捉えていた。
周囲のざわつきや電車の走行音が少しずつ遠くなり、わたしだけが時間が止まったようにそこから動けなくなる。
また、金縛り……?
駅のホームでも感じたような、見えない縄でその場に縛られているみたいな感覚。
もしかしてわたし、とんでもない悪霊に取り憑かれたんじゃ……。
全身に冷や汗をかきながら恐怖に震えていると、電車のドアの近くにいたイケメンユーレイが、周囲の人をすり抜けて、スーッとわたしの前までやってきた。
「衣奈ちゃん」
名前を呼ばれて、ゾクリとする。
助けを求めたいけど、声が出ない。ハクハクと口を動かしていると、イケメンユーレイが困ったように眉尻を下げた。
「お願い、置いていかないで」
そ、そんなこと言われても……。ムリに決まっている。
だって……。怖いし、怖いし、怖い……!
断固拒否の姿勢でブンブンと首を左右に振ると、イケメンユーレイは、さっきわたしを動けなくさせたときとは一変。捨てられた子犬みたいなしおらしい目でわたしを見つめてきた。
そういう表情をすると、彼は身体が透けてるものの、普通の男子高校生にしか見えない。
眉をハの字に下げた顔はちょっと弱そうで頼りないけど、元の顔がいいから、ちょうどいいくらいのギャップになってる。
面食いの瑞穂だったら確実に高評価をつけるであろう、端正な顔立ちの綺麗目なイケメンだし、わたしも駅のホームでは彼の綺麗さに一瞬目を奪われた。
だけど、だけど……。惑わされちゃいけない。
だってわたし、もう二回も、彼の眼力による金縛りにあっている。
イケメンユーレイを精一杯、ギリリと睨め付けると、彼がますます困ったように眉尻を下げた。
「おれ、もしかして衣奈ちゃんに嫌われてる?」
彼が少し首を傾げながら、不安そうな声で訊ねてくる。
どうして彼がわたしの名前を知ってて、しつこく憑けてくるのかはわからないけど……。
こっちは彼のことを全く存じ上げないし。その時点で、嫌いとか、好きとかの次元じゃない。
わたしに縋りついてくるような上目遣いを見れば、ちょっとかわいそうかな……、なんて思うけど。
でも、ここで情けをかけてしまっては終わる気がする。
「悪いけど、他を当たってください」
小声で。だけど、頭を下げて丁重にお断りをしてから離れようとすると、イケメンユーレイもわたしについてくる。
「こ、来ないでください……!」
吊り革を持って立っている乗客たちの合間を縫って、早く隣の車両へ……と思いながら逃げる。
途中でいろんな人にスクールバッグがぶつかって嫌な顔をされたけど、そんなの構ってられない。
人波を掻き分けて、やっと隣の車両へ通じるドアを引き上げようとしたとき。
「お願い、待って」
イケメンユーレイが、スーッとやってきてドアの前で通せんぼした。
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