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4.いつも見ていた気がします。
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しおりを挟む枕元で、ピピピピッとスマホのアラームが鳴る。
最近は朝が寒くなってきて布団から出るのがつらいけど……。そろそろ起きなくちゃ。
うちの両親は、わたし達が学校に行くよりも早く仕事に出かける。だから、妹の咲奈と弟の拓を起こして朝ごはんを食べさせるのは、昔からわたしの役目なのだ。
布団の中で伸びをして、ゆっくりと目を開いた……、その瞬間。
「ぎ、ぎゃあーっ!」
わたしは思わず悲鳴をあげた。目を覚ましたわたしの隣に、制服姿の男の子が寝ていたからだ。
寝起きで死ぬほどびっくりしたけれど、良く見れば、その男の子は、昨日の放課後からわたしに憑いてきている由井くんだ。
昨日の夜。「ユーレイはどうやって寝るのか」と聞いたとき、由井くんは「眠たくないから平気」とか言っていて。
ユーレイって眠らないものなんだなと感心したのだけど、そういうわけでもないらしい。
由井くんは、人のベッドで身体を丸めてガッツリと寝ている。
「ちょっと、由井くん。起きてよ」
すやすや寝ている由井くんを起こそうと、肩に手を伸ばす。けれど、わたしの手は、実体を持たない彼の身体をするりと通り抜けてしまった。
ああ、そうか。触れないんだよね……。
目の前に見えてはいるけど、なんの感触もない。
そのことがひどく不思議で、わたしは眠っているから由井くんを見つめながら、何度も手のひらを閉じたり開いたりした。
そうしているうちに、「うーん」と小さな唸り声が聞こえてきて、由井くんが目を覚ます。
「衣奈ちゃん、おはよう」
わたしがそばにいることに気付くと、由井くんが、ふにゃりと幸せそうに寝起きの笑顔をみせた。
昨日出会ったばかりなのに、わたしに完全に気を許しているような由井くんの笑顔に、ほんの少しドキッとする。
わたしは由井くんに離れてもらいたいって思ってるのに。あんまり信用されたりなつかれたりするのは困るんだけどな……。
「おはよう。眠たくないって言ってたのに、結局寝たんだね」
「うん。昨日の夜は眠れそうになかったから、しばらくずっと衣奈ちゃんの寝顔見てたんだけど……。気づいたら、一緒に寝ちゃってたみたい」
「やめてよ。勝手に寝顔見るとか……」
「え~、でも……、眠ってる衣奈ちゃんもかわいかったよ」
にこっと笑いかけてくる由井くんの表情は爽やかだけど、夜中にずっとわたしの寝顔を見てたとか、眠ってるのがかわいかったとか……。
彼の口から飛び出す発言は、ちょいちょい変態っぽい。
「とにかく、勝手に寝顔見るのはやめて。あと、勝手にわたしのベッドで寝ないで」
「え、なんで……」
「だって、目覚めたときにびっくりするし」
お互いに触ることも触られることもできないから、寝てる間に何かされる心配はないけど……。
「由井くんと同じベッドで寝るのは、なんかやだ」
そう言うと、由井くんの顔が、あからさまにガーンッとショックを受けたような顔になる。
「衣奈ちゃんにやだって言われた……。衣奈ちゃんに嫌われたら、おれ、これからどうすれば……」
由井くんが、ズーンと肩を落としてブツブツとつぶやく。
由井くんの背中からは、ゆらりと暗いオーラが漂い始めていて。なんだか関わると、面倒臭そうだ。
出会ったときからそうだけど、由井くんは何も覚えてないくせに、わたしに対する執着だけはやたらと強い。
ユーレイになる前の由井くんとわたしに、いったいどういう関係があったっていうんだろう……。
わたしは首をひねりながら静かにベッドを降りると、由井くんからそーっと離れて部屋を出た。
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