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4.いつも見ていた気がします。
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しおりを挟む「おはよう。クレイも朝ごはん食べる?」
足元にまとわりついてきたクレイに話しかけながら、しゃがむ。
昨日触れられなかった分まで、めいっぱい撫でよう。そう思ってクレイの頭に手を伸ばすと、クレイが身体を硬直させて、わたしのそばから跳びのいた。
「え……?」
いきなり態度を豹変させたクレイが、わたしに向かって「シャーッ」と歯を剥いて毛を逆立たせる。
「クレイ?」
名前を読んでみたけど、クレイはわたしの声など聞こえていない様子で。わたしの斜め後ろのほうを睨んで威嚇していた。
クレイが威嚇するほうを見ると、いつのまにわたしの部屋から出てきたのか、由井くんがふわりと浮いている。
青白い顔をした由井くんは、爪と毛を逆立てるクレイのことをちょっと怯えたような目で見ていた。
「え、衣奈ちゃん……。猫、遠ざけて」
遠ざけて、って……。そんなこと言われても……。
「クレイ、おいで。あっちにごはん出してあげる」
ちょっと興奮気味のクレイを落ち着かせようと手を出すと、由井くんのほうを睨んだクレイがわたしの手の甲にガリッと爪をたててきた。
「い、った……」
クレイに引っ掻かれるのは昨日に続いて二回目。昨日の傷はたいしたことなかったけど、今朝は引っ掻かれたところからうっすらと血が出ている。
「え、衣奈姉、大丈夫?」
「クレイ、昨日もお姉ちゃんのこと引っ掻いてたよね」
由井くんの姿が見えない咲奈と拓には、わたしがクレイに威嚇されているようにしか見えないらしい。
咲奈が怒っているクレイをなだめて抱き上げてわたしから引き離し、拓が救急箱からバンソウコウの箱を出してきてくれる。
咲奈がクレイを抱いて離れると、由井くんがわたしのところに飛んできて、背中の後ろにピッタリくっついてきた。そのおかげで、クレイがますますわたしのことを警戒して歯を剥いてくる。
「衣奈姉、一枚で足りる?」
「ありがとう……」
「クレイ、昨日からどうしちゃったんだろうね。お姉ちゃんには特になついてたのに」
拓が渡してくれたバンソウコウを手の甲に貼りながら、わたしはとてもショックを受けていた。
二日前まで、わたしとクレイは相思相愛だったはずなのに……。まるで、失恋した気分。
夏休み前にアキちゃんが里桜先輩と付き合い出したと知ったときもショックだったけど、クレイに嫌われるのはそれ以上にショックかもしれない……。
咲奈の腕の中でわたしに歯を剥いてくるクレイの姿に胸を痛めるわたしの背後では、由井くんが怯えて震えている。
「衣奈ちゃん、衣奈ちゃん……、早く部屋戻ろう」
由井くんがしきりに耳元に訴えかけてくるけど、拓と自分の朝ごはんを作らないといけないから、そうもいかない。
由井くんの声を無視してキッチンに向かう。
わたしがトーストと目玉焼きを焼いているあいだ、クレイはずっと警戒しっぱなしで背中の毛を逆立てていて。由井くんはわたしの背中に隠れるようにして震えていた。
動物は霊的なものに敏感だって聞いたことあるけど、本当だったんだな……。
クレイに威嚇されながら拓といっしょに朝ごはんを食べ、先に出かけるという咲奈を見送ったあと、わたしも制服に着替えて家を出た。
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