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4.いつも見ていた気がします。
4
しおりを挟むトイレとお風呂と着替えのときは、さすがに部屋のドア一枚挟んで向こう側にいてくれる由井くんだけど……。
わたしからあまり距離をとることはできないらしく、あたりまえみたいに学校にも憑いてきた。
通学時間帯の電車は、押し潰されるほどにぎゅーぎゅー詰めってことはないけれど、一度立ち位置を決めてしまえば身動きがとれなくなるくらいには混んでいる。
わたしは吊り革に捕まって揺れる電車の中でバランスを崩さないように必死だけれど、実体のない由井くんは電車の中でもずいぶんと余裕そうだ。
駅で電車が止まって乗客が入れ替わるたび、由井くんの胸や腕をいろんな人がすり抜けていくけど、彼自身は痛くも痒くもないので、わたしの隣で機嫌よさそうににこにこしている。
朝の満員電車なんて、99.9%の人が眠さと不快感でしかめっ面なのに。この車内で朝からにこにこしてるのは、たぶん由井くんだけだろう。
なにがそんなに楽しいのかと思って見ていたら、わたしの視線に気付いた由井くんがにこっと笑いかけてきた。
「いつも離れたところから見てるだけだった衣奈ちゃんと一緒に通学できるなんて、夢みたい」
由井くんが嬉しそうに話すのを聞いて「ん?」と思う。
「いつも離れたところから見てたってどういう意味? なにか思い出したの?」
ひそひそ声で訊ねたら、由井くんが「え?」と首をひねる。
「なにか思い出したってわけではないんだけど、なんか、ふっと、いつもはもう少し離れたところから衣奈ちゃんを見てたなって思ったんだよね……」
「え?」
由井くんの話に、ピクリと頬がひきつる。
いつもはもう少し離れたところから見てた、って。それ、どういう意味?
ユーレイになる前の由井くんは、毎朝電車の中で、どこからかわたしを見てたってこと……?
わたしは、彼のことを知らなかったのに――?
しかも、わたしを好きだったってことしか覚えてないみたいだし。
なんか、嫌な予感がするな。
満員電車の中で精いっぱいに由井くんから距離をとろうとすると、彼がにこっと笑いかけてくる。邪気のないその笑顔に、なんだかわたしの気が抜けた。
男の子から直接的な好意を向けられたことってあまりないけど、由井くんの笑顔やまなざしからは、どんなに鈍くてもわかるくらいに純粋な「好き」って感情が伝わってくる。
好意って、ふつう、こんなにもまぶしいくらいに真っ直ぐに向けられるものなのだろうか。それとも、由井くんはわたしのことしか覚えてないから、余計にそんなふうに感じられるのだろうか。
いろいろとよくわからないことが多いけど、由井くんはどうしてわたしのことが好きなんだろう。
ユーレイになる前、通学中のわたしを見かけて好き……、になってくれたのかな。
だとしても、やっぱりどうしてわたしなんだろうという疑問が沸いてくる。
化粧映えして華やかな顔立ちの瑞穂や、癒し系美人の里桜先輩と違って、わたしはどっちかっていうと平凡顔だ。
知らない人から話しかけられるのは道を聞かれるときくらいだし。どう考えても、話したこともない人に一目惚れされるような見た目じゃない。
それに由井くんみたいな顔立ちの整ったイケメンは、一目惚れするよりはむしろ、される側なんじゃないかと思う。
満員電車で揺られながら考えているうちに、わたしの高校の最寄り駅に到着した。
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