今日も、由井くんに憑けられています…!

碧月あめり

文字の大きさ
23 / 80
4.いつも見ていた気がします。

しおりを挟む
 わたし達がのっていたのは、ちょうど電車の3両目。

 降りた場所は、二日前に由井くんと初めて出会って、一日前から憑けられることになったキッカケの場所でもある。

 もしかして、最初に出会ったこの場所でなら、由井くんを引き離せるんじゃないだろうか。

 気付いたらここに立っていたってことは、ここがユーレイになる前の由井くんにとってなにか意味のある場所だった可能性が高い。

 たとえば毎日の通学ときに、いつもこの3両目の乗り場で降りて、青南学院のほうに向かう別路線の電車に乗り継いでいた……、とか。


「ねえ、わたしが学校に行っているあいだ、もう一度3両目の乗り場の前に立って待ってみたら? そうすれば、なにか忘れていたことを思い出せるかもよ」

 電車を降りたあと、由井くんにさりげなく、駅のホームに残るように誘導してみる。


「そうかな……」

 由井くんはあまり気が進まなそうだったけど、わたしだって、できることなら、学校に行くまでに彼を引き離してしまいたい。


「そうだよ。ほら、ちょっとそこに立ってしばらく待ってみて」

 由井くんを3両目の乗り場の前に立たせると、わたしは電車に乗り降りする乗客の邪魔にならない場所に避けた。

 少し離れたところから由井くんを見ると、困り顔で立っている彼の身体を通勤、通学中の会社員や学生たちが通過していく。その光景を見るのは初めてではないけれど、何度見てもやっぱり奇妙で不思議だ。

 しばらく様子を見て、適当なところで由井くんから離れられるかどうか試してみよう。

 そう思っていたら、後ろから誰かにぽんっと肩を叩かれた。


「おはよう、衣奈」

 振り向くとアキちゃんがいて、にこっと笑いかけてくる。


「アキちゃん、おはよう」

「こんなとこでぼーっと何してんの? そういえば、昨日の朝も駅のホームで立ち止まってたよな。誰か待ってるとか?」

「そういうわけではないんだけど……」

 ちらっと由井くんのほうを気にしながら答えると、アキちゃんが不思議そうに首を傾げた。


「ふーん? よくわかんないけど、誰も待ってないなら一緒に行く?」

「え……?」

 アキちゃんからの誘いに、ドキッとする。

 里桜先輩と付き合い出してからのアキちゃんは、毎朝、駅前のコンビニで待ち合わせをして彼女と一緒に登校しているのに。わたしを誘ってくるなんて、めずらしい。

 まさか、里桜先輩となにかあったのかな……。


「今日、里桜先輩は?」

 訊ねてみたら、「なんか風邪気味なんだって」と、アキちゃんが教えてくれた。


「そうなんだ……。風邪、ひどいの?」

「微熱とちょっと喉痛いって。一日休めば大丈夫だと思うとは言ってたけど」

「心配だね」

「うん。昨日は夕方からけっこう風が吹いてきて寒かったからな~。部活中、俺らはつねに走ってるからいいけど、マネージャーはあんまり動かないし体冷えちゃうんだよな」

 心配そうな顔で里桜先輩のことを話すアキちゃんのことを見ていたら、ほんの少し胸が痛む。

 里桜先輩のことを話すときのアキちゃんは、わたしが今まで見たことのない表情をしている。

 里桜先輩のことが好きで、彼女のことを大切に想ってるっていう表情かお。それはきっと、幼なじみであるわたしには一生向けてくれない表情なんだろう。そう思うと、胸がチクチクする。

 アキちゃんへの気持ちを自覚したときから叶わない恋だとわかっていたし、里桜先輩と付き合えて幸せそうにしている彼に気持ちを伝えるつもりもない。

 だけど、一度好きだと気付いた気持ちは簡単に消えないから。やっぱり、少しせつない。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

クラスで1番の美少女のことが好きなのに、なぜかクラスで3番目に可愛い子に絡まれる

グミ食べたい
青春
高校一年生の高居宙は、クラスで一番の美少女・一ノ瀬雫に一目惚れし、片想い中。 彼女と仲良くなりたい一心で高校生活を送っていた……はずだった。 だが、なぜか隣の席の女子、三間坂雪が頻繁に絡んでくる。 容姿は良いが、距離感が近く、からかってくる厄介な存在――のはずだった。 「一ノ瀬さんのこと、好きなんでしょ? 手伝ってあげる」 そう言って始まったのは、恋の応援か、それとも別の何かか。 これは、一ノ瀬雫への恋をきっかけに始まる、 高居宙と三間坂雪の、少し騒がしくて少し甘い学園ラブコメディ。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...