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4.いつも見ていた気がします。
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わたし達がのっていたのは、ちょうど電車の3両目。
降りた場所は、二日前に由井くんと初めて出会って、一日前から憑けられることになったキッカケの場所でもある。
もしかして、最初に出会ったこの場所でなら、由井くんを引き離せるんじゃないだろうか。
気付いたらここに立っていたってことは、ここがユーレイになる前の由井くんにとってなにか意味のある場所だった可能性が高い。
たとえば毎日の通学ときに、いつもこの3両目の乗り場で降りて、青南学院のほうに向かう別路線の電車に乗り継いでいた……、とか。
「ねえ、わたしが学校に行っているあいだ、もう一度3両目の乗り場の前に立って待ってみたら? そうすれば、なにか忘れていたことを思い出せるかもよ」
電車を降りたあと、由井くんにさりげなく、駅のホームに残るように誘導してみる。
「そうかな……」
由井くんはあまり気が進まなそうだったけど、わたしだって、できることなら、学校に行くまでに彼を引き離してしまいたい。
「そうだよ。ほら、ちょっとそこに立ってしばらく待ってみて」
由井くんを3両目の乗り場の前に立たせると、わたしは電車に乗り降りする乗客の邪魔にならない場所に避けた。
少し離れたところから由井くんを見ると、困り顔で立っている彼の身体を通勤、通学中の会社員や学生たちが通過していく。その光景を見るのは初めてではないけれど、何度見てもやっぱり奇妙で不思議だ。
しばらく様子を見て、適当なところで由井くんから離れられるかどうか試してみよう。
そう思っていたら、後ろから誰かにぽんっと肩を叩かれた。
「おはよう、衣奈」
振り向くとアキちゃんがいて、にこっと笑いかけてくる。
「アキちゃん、おはよう」
「こんなとこでぼーっと何してんの? そういえば、昨日の朝も駅のホームで立ち止まってたよな。誰か待ってるとか?」
「そういうわけではないんだけど……」
ちらっと由井くんのほうを気にしながら答えると、アキちゃんが不思議そうに首を傾げた。
「ふーん? よくわかんないけど、誰も待ってないなら一緒に行く?」
「え……?」
アキちゃんからの誘いに、ドキッとする。
里桜先輩と付き合い出してからのアキちゃんは、毎朝、駅前のコンビニで待ち合わせをして彼女と一緒に登校しているのに。わたしを誘ってくるなんて、めずらしい。
まさか、里桜先輩となにかあったのかな……。
「今日、里桜先輩は?」
訊ねてみたら、「なんか風邪気味なんだって」と、アキちゃんが教えてくれた。
「そうなんだ……。風邪、ひどいの?」
「微熱とちょっと喉痛いって。一日休めば大丈夫だと思うとは言ってたけど」
「心配だね」
「うん。昨日は夕方からけっこう風が吹いてきて寒かったからな~。部活中、俺らはつねに走ってるからいいけど、マネージャーはあんまり動かないし体冷えちゃうんだよな」
心配そうな顔で里桜先輩のことを話すアキちゃんのことを見ていたら、ほんの少し胸が痛む。
里桜先輩のことを話すときのアキちゃんは、わたしが今まで見たことのない表情をしている。
里桜先輩のことが好きで、彼女のことを大切に想ってるっていう表情。それはきっと、幼なじみであるわたしには一生向けてくれない表情なんだろう。そう思うと、胸がチクチクする。
アキちゃんへの気持ちを自覚したときから叶わない恋だとわかっていたし、里桜先輩と付き合えて幸せそうにしている彼に気持ちを伝えるつもりもない。
だけど、一度好きだと気付いた気持ちは簡単に消えないから。やっぱり、少しせつない。
降りた場所は、二日前に由井くんと初めて出会って、一日前から憑けられることになったキッカケの場所でもある。
もしかして、最初に出会ったこの場所でなら、由井くんを引き離せるんじゃないだろうか。
気付いたらここに立っていたってことは、ここがユーレイになる前の由井くんにとってなにか意味のある場所だった可能性が高い。
たとえば毎日の通学ときに、いつもこの3両目の乗り場で降りて、青南学院のほうに向かう別路線の電車に乗り継いでいた……、とか。
「ねえ、わたしが学校に行っているあいだ、もう一度3両目の乗り場の前に立って待ってみたら? そうすれば、なにか忘れていたことを思い出せるかもよ」
電車を降りたあと、由井くんにさりげなく、駅のホームに残るように誘導してみる。
「そうかな……」
由井くんはあまり気が進まなそうだったけど、わたしだって、できることなら、学校に行くまでに彼を引き離してしまいたい。
「そうだよ。ほら、ちょっとそこに立ってしばらく待ってみて」
由井くんを3両目の乗り場の前に立たせると、わたしは電車に乗り降りする乗客の邪魔にならない場所に避けた。
少し離れたところから由井くんを見ると、困り顔で立っている彼の身体を通勤、通学中の会社員や学生たちが通過していく。その光景を見るのは初めてではないけれど、何度見てもやっぱり奇妙で不思議だ。
しばらく様子を見て、適当なところで由井くんから離れられるかどうか試してみよう。
そう思っていたら、後ろから誰かにぽんっと肩を叩かれた。
「おはよう、衣奈」
振り向くとアキちゃんがいて、にこっと笑いかけてくる。
「アキちゃん、おはよう」
「こんなとこでぼーっと何してんの? そういえば、昨日の朝も駅のホームで立ち止まってたよな。誰か待ってるとか?」
「そういうわけではないんだけど……」
ちらっと由井くんのほうを気にしながら答えると、アキちゃんが不思議そうに首を傾げた。
「ふーん? よくわかんないけど、誰も待ってないなら一緒に行く?」
「え……?」
アキちゃんからの誘いに、ドキッとする。
里桜先輩と付き合い出してからのアキちゃんは、毎朝、駅前のコンビニで待ち合わせをして彼女と一緒に登校しているのに。わたしを誘ってくるなんて、めずらしい。
まさか、里桜先輩となにかあったのかな……。
「今日、里桜先輩は?」
訊ねてみたら、「なんか風邪気味なんだって」と、アキちゃんが教えてくれた。
「そうなんだ……。風邪、ひどいの?」
「微熱とちょっと喉痛いって。一日休めば大丈夫だと思うとは言ってたけど」
「心配だね」
「うん。昨日は夕方からけっこう風が吹いてきて寒かったからな~。部活中、俺らはつねに走ってるからいいけど、マネージャーはあんまり動かないし体冷えちゃうんだよな」
心配そうな顔で里桜先輩のことを話すアキちゃんのことを見ていたら、ほんの少し胸が痛む。
里桜先輩のことを話すときのアキちゃんは、わたしが今まで見たことのない表情をしている。
里桜先輩のことが好きで、彼女のことを大切に想ってるっていう表情。それはきっと、幼なじみであるわたしには一生向けてくれない表情なんだろう。そう思うと、胸がチクチクする。
アキちゃんへの気持ちを自覚したときから叶わない恋だとわかっていたし、里桜先輩と付き合えて幸せそうにしている彼に気持ちを伝えるつもりもない。
だけど、一度好きだと気付いた気持ちは簡単に消えないから。やっぱり、少しせつない。
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