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4.いつも見ていた気がします。
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しおりを挟むアキちゃんとは同じクラスだから、どうせ教室でまた顔を合わすし。ただの幼なじみでしかないわたしが、アキちゃんと友達の会話に入っていくのもおこがましい。
階段に向かって廊下を歩いていると、学校に着くまでわたしとアキちゃんの話を黙って聞いていた由井くんが、すーっと隣にやってきた。
「そういえば衣奈ちゃん、前まではよく、アイツと一緒に電車に乗ってたよね」
由井くんの言葉に、ドキッとする。
「なんで、由井くんがそんなこと知ってるの?」
「わからない……。けど、なんかそんな気がした」
由井くんが眉をハの字に下げて、自信なさそうに小さく首を横に振る。
わからないと言う割には、『アイツと一緒に電車に乗ってた』って、結構ハッキリと断言していた気がするけど……。べつになにかを思い出したってわけでもないらしい。
由井くんの中に潜在的に残っている記憶が、ふとした瞬間に言葉になってこぼれたのだろうか。
由井くんが言ったように、高校生になってからしばらくのあいだ、わたしとアキちゃんは朝の同じ時間帯の電車に乗って通学していた。
家が近所のアキちゃんと朝一緒に登校するのは、小学校の頃から続いている習慣みたいなものだったのだ。
だけど、アキちゃんが里桜先輩と付き合い出してから、わたしは電車の時間を一本ずらした。
里桜先輩と付き合えたアキちゃんの邪魔はしたくなかったし、ただの幼なじみのわたしが、毎朝彼女持ちのアキちゃんと一緒に登校するのはよくない気がしたから。
「おれ、アイツが『衣奈』って呼ぶのを聞いて、君の名前を知ったのかも……」
「え?」
「ごめん、やっぱり違うかな。自分でもよくわからない……」
由井くんが、立ち止まって両手で頭を抱え込む。
「え、ちょっと、大丈夫……?」
そのままうずくまってしまった彼の肩に手を伸ばすと、なんの感触もつかめないままに、手のひらだけが彼の体をすり抜けた。
「あ……」とつぶやくわたしのことを、たまたま通りすがった生徒が不思議そうな顔で見てくる。
由井くんの姿はわたしにしか見えていない。だから、廊下の途中で立ち止まって宙に手を伸ばしたわたしの行動は、ハタから見ればおかしかっただろう。
突然頭を抱えてうずくまってしまった由井くんが心配だけど、人通りの多い廊下で、ヘタに動くことも話すこともできない。
しばらく見守っていると、由井くんがゆっくりと顔をあげた。
「今ちょっと、なにかを思い出したような気がしたんだけど……。頭が痛くてダメだった。ごめんね……」
しょんぼりとした顔で謝られて、わたしは無言で首を横に振った。
思い出そうとして頭が痛くなるってことは、由井くんの中で記憶を思い出したくないっていう拒絶反応が起きているのかもしれない。そんな状態で無理やり思い出させるのは、危険かも。
由井くんが今まで言っていたことから推測すると、彼がわたしのことを知ったのは、高校生になってからアキちゃんが里桜先輩と付き合うまでのあいだ。
そのときに、電車の中で会っている――、もしくは、由井くんから見られて、、、、いる。
最近のことだし、もし青南学院の制服を着たイケメンが同じ電車に乗っていたなら気付きそうなものだけど……。
気付かなかったってことは、由井くんは数年前にはもうユーレイになってて、ユーレイの状態で、電車に乗っているわたしをどこかから見てたって仮説もたてられるのでは……。
そうだとしたら、ちょっとホラーだ。
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