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5.それは、デートってことですか?
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しおりを挟む土曜日だから、わたしは黒の細身のパンツにグレイのパーカーっていう部屋着仕様のラフな格好だけど、由井くんはブレザーを羽織った制服姿のままだ。そのうえ、首元を緩めてはいるけど、ネクタイもしめている。
そのまま一日中過ごして、寝起きもしているけれど、由井くんの着ているものは、シワがついたり汚れたりしないから不思議だ。
一度、「ブレザーだけでも脱げないの?」って聞いたら試そうとしてくれたけど……。
脱ごうとしても、なぜかうまく脱げないらしい。ユーレイになる直前に身に付けていたものは、とろうと思ってもとれないのかもしれない。
部屋を出て階段を降りると、まず洗面所に行って顔を洗う。
そのまま由井くんを引きつれてリビングに行くと、キッチンのほうからコーヒーのほろ苦い香りが漂ってきた。
「おはよう、衣奈」
すでに起きて、ダイニングで朝ごはんを食べていた両親がわたしを振り向く。
「おはよう。咲奈たちは?」
「まだ起きてきてないわよ。衣奈の朝ごはん準備するね」
「いいよ。自分でやる」
わたしは、食べかけの朝ごはんを置いて立ち上がろうとするお母さんを止めると、キッチンに向かった。
トーストを焼くと、お母さんがコーヒーメーカーに淹れた残りのコーヒーをちょっともらって、牛乳を混ぜてカフェオレにする。
トーストのお皿とカフェオレのカップを持って食卓に座ると、ソファーのそばにいたクレイが、わたしに——、ではなく。わたしの背後に身を隠している由井くんに「シャーッ」と歯を剥いてきた。
由井くんがわたしに憑き始めて一週間経っても、彼に対するクレイの警戒心は緩まない。
それどころか、日を追うごとにひどくなっているような気がする。
可愛いクレイに怖い顔で睨まれながら、今日も切ない気持ちで朝ごはんを食べていると、お母さんとお父さんが不思議そうに首をかしげた。
「クレイってば、さっきまでソファーでおとなしく寝てたのに。最近、衣奈に対してだけ態度が変よね」
「どうしちゃったんだろうな」
両親も、わたしに一番なついていたクレイの態度がここ一週間で豹変したことが不可解みたいだ。
わたしはなるべく急いで朝ごはんを食べると、「部屋で勉強いなきゃいけないから」と言ってリビングを出た。
両親が仕事が休みの週末は、できるだけふたりとゆっくり話したいけど……。
わたし(と、由井くん)がリビングにいると、クレイが怒ってくるから、早く部屋に戻るより仕方がない。由井くんのことで、クレイに過度なストレスを与えるとかわいそうだ。
部屋に戻ると、わたしは少しスマホを触って、それから学校の数学の問題集を開いた。
週明けに課題の提出があるから、勉強をしないといけないというのはウソじゃないのだ。
「衣奈ちゃん、勉強するの?」
マジメに机に向かうわたしに、由井くんが横から話しかけてくる。
「うん、来週提出だから」
机の引き出しからシャーペンを出して問題を解き始めると、由井くんがわたしの斜め上からその様子をじっと見てきた。
ユーレイになる前の由井くんが高校何年生だったのかはわからないけど……。由井くんは、わたしが勉強をしていると、いつも手元を興味深そうに覗き込んでくる。
学校に行っているときも、わたしの横で真剣に授業を聞いていることが多くて。授業中にたまに居眠りしちゃうわたしよりも、よっぽどマジメだ。
頭がいい青南学院に通っていたから、勉強は好きなのかもしれない。
由井くんに見られながら数学の問題を解いていると、三問目の応用問題で解き方がわからなくなって手が止まった。
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