今日も、由井くんに憑けられています…!

碧月あめり

文字の大きさ
30 / 80
5.それは、デートってことですか?

しおりを挟む

「由井くんって、数学得意?」

 自分の名前も覚えていないくらいだから、きっと高校で習ったことも忘れちゃってるんだろうな。

 あまり期待せずに訊ねたら、由井くんが「よく覚えてないけど……」と首をかしげて。


「理系科目のほうが好きだったような気がする……」

 なんて言い出した。


「え、そうなんだ。じゃあ、この問題わかる?」

「どれ?」

 途中で詰まってしまった応用問題を指差すと、由井くんがわたしの横から顔を近付けてくる。

 シャーペンを手に持つことができない由井くんが考えるのは、頭の中でのみ。手をつかわずに数学の問題を解くって難しそうだけど、問題を見つめる彼のまなざしは真剣だった。

 数学、好きなのかな。だとしたら、好きなことをきっかけになにか思い出したりしないかな。

 数学の問題を解いて由井くんがなにかを思い出したら、わたしの課題が片付くし、一石二鳥だ。

 期待しながら待っていると、由井くんが「あ、そっか」とつぶやいて、わたしのほうを振り向いた。


「わかったよ、解き方」

 嬉しそうににこっと笑いかけられて、一瞬、ドキリとする。


「あ、うん。教えて」

 急にすごく笑うから、ビックリした。ドキドキと鳴る胸を押さえつつ、由井くんの解説を聞くために居住まいをただす。


「あ、衣奈ちゃん、シャーペン持って。おれ、書いて説明ができないから。おれが言うとおりに書きながらやってみてね」

「わかった」

「えーっとね、まず……」

 そこからの由井くんの説明は、すごくわかりやすかった。

 途中で手が止まってしまった応用問題はあっという間に解けてしまったし、そのほかの問題も由井くんにヒントをもらうと簡単に解けてしまう。

「うわー、数学の課題がこんなに早く終わったの初めてかも。ありがとう」

「衣奈ちゃんの役に立ててよかった」

 わたしが笑顔でお礼を言うと、由井くんがちょっと照れたように、ふふっと笑う。


「理系が得意っていうのはほんとだね。由井くんの説明、すごくわかりやすかったよ。ほかに、なにか思い出したこととかある?」

 褒めついでに聞いてみると、由井くんは首をかしげながら「うーん」とうなった。

 その様子だと、特に思い出したことはないみたい。


「でも、高一の数学の問題がスラスラ解けたってことは、由井くんはもうこの単元は勉強済みだったってことだよね。てことは、由井くんの学年は高二か高三? あ、でも……。青南学院は進学校だから、授業の進み方が早いのかな。だとしたら、高一の可能性も捨てきれないよね」

 わたしの数学の課題は早く終わったけど、由井くんのことを探る手がかりは、結局なにも得られていない。

 由井くんにユーレイになる前のことを思い出してもらって、わたしから離れてもらうには、いったいどうしたらいいんだろう……。


「うーん……」

 腕を組んで悩んでいると、「衣奈ー」とお母さんに呼ばれた。


「なあに~?」

 部屋のドアを開けて階段の上から返事をすると、リビングから廊下に出てきたお母さんがわたしを見上げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

クラスで1番の美少女のことが好きなのに、なぜかクラスで3番目に可愛い子に絡まれる

グミ食べたい
青春
高校一年生の高居宙は、クラスで一番の美少女・一ノ瀬雫に一目惚れし、片想い中。 彼女と仲良くなりたい一心で高校生活を送っていた……はずだった。 だが、なぜか隣の席の女子、三間坂雪が頻繁に絡んでくる。 容姿は良いが、距離感が近く、からかってくる厄介な存在――のはずだった。 「一ノ瀬さんのこと、好きなんでしょ? 手伝ってあげる」 そう言って始まったのは、恋の応援か、それとも別の何かか。 これは、一ノ瀬雫への恋をきっかけに始まる、 高居宙と三間坂雪の、少し騒がしくて少し甘い学園ラブコメディ。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

貞操逆転世界で出会い系アプリをしたら

普通
恋愛
男性は弱く、女性は強い。この世界ではそれが当たり前。性被害を受けるのは男。そんな世界に生を受けた葉山優は普通に生きてきたが、ある日前世の記憶取り戻す。そこで前世ではこんな風に男女比の偏りもなく、普通に男女が一緒に生活できたことを思い出し、もう一度女性と関わってみようと決意する。 そこで会うのにまだ抵抗がある、優は出会い系アプリを見つける。まずはここでメッセージのやり取りだけでも女性としてから会うことしようと試みるのだった。

貢がせて、ハニー!

わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。 隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。 社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。 ※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8) ■2025.12.14 285話のタイトルを「おみやげ何にする? Ⅲ」から変更しました。 ■2025.11.29 294話のタイトルを「赤い川」から変更しました。 ■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました! ■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。 ■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。

甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。 平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは── 学園一の美少女・黒瀬葵。 なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。 冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。 最初はただの勘違いだったはずの関係。 けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。 ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、 焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。

みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん
青春
「ほんと胸がニセモノで良かったな。貧乳バンザイ!」 「離して洋子! じゃなきゃあのバカの頭をかち割れないっ!」 「お、落ちついてメイちゃんっ!? そんなバットで殴ったら死んじゃう!? オオカミくんが死んじゃうよ!?」 県立森実高校には2人の美の「女神」がいる。 頭脳明晰、容姿端麗、誰に対しても優しい聖女のような性格に、誰もが憧れる生徒会長と、天は二物を与えずという言葉に真正面から喧嘩を売って完膚なきまでに完勝している完全無敵の双子姉妹。 その名も『古羊姉妹』 本来であれば彼女の視界にすら入らないはずの少年Bである大神士狼のようなロマンティックゲス野郎とは、縁もゆかりもない女の子のはずだった。 ――士狼が彼女たちを不審者から助ける、その日までは。 そして『その日』は突然やってきた。 ある日、夜遊びで帰りが遅くなった士狼が急いで家へ帰ろうとすると、古羊姉妹がナイフを持った不審者に襲われている場面に遭遇したのだ。 助け出そうと駆け出すも、古羊姉妹の妹君である『古羊洋子』は助けることに成功したが、姉君であり『古羊芽衣』は不審者に胸元をザックリ斬りつけられてしまう。 何とか不審者を撃退し、急いで応急処置をしようと士狼は芽衣の身体を抱き上げた……その時だった! ――彼女の胸元から冗談みたいにバカデカい胸パッドが転げ落ちたのは。 そう、彼女は嘘で塗り固められた虚乳(きょにゅう)の持ち主だったのだ! 意識を取り戻した芽衣(Aカップ)は【乙女の秘密】を知られたことに発狂し、士狼を亡き者にするべく、その場で士狼に襲い掛かる。 士狼は洋子の協力もあり、何とか逃げることには成功するが翌日、芽衣の策略にハマり生徒会に強制入部させられる事に。 こうして古羊芽衣の無理難題を解決する大神士狼の受難の日々が始まった。 が、この時の古羊姉妹はまだ知らなかったのだ。 彼の蜂蜜のように甘い優しさが自分たち姉妹をどんどん狂わせていくことに。 ※【カクヨム】にて編掲載中。【ネオページ】にて序盤のみお試し掲載中。【Nolaノベル】【Tales】にて完全版を公開中。 イラスト担当:さんさん

処理中です...