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5.それは、デートってことですか?
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しおりを挟む「由井くんって、数学得意?」
自分の名前も覚えていないくらいだから、きっと高校で習ったことも忘れちゃってるんだろうな。
あまり期待せずに訊ねたら、由井くんが「よく覚えてないけど……」と首をかしげて。
「理系科目のほうが好きだったような気がする……」
なんて言い出した。
「え、そうなんだ。じゃあ、この問題わかる?」
「どれ?」
途中で詰まってしまった応用問題を指差すと、由井くんがわたしの横から顔を近付けてくる。
シャーペンを手に持つことができない由井くんが考えるのは、頭の中でのみ。手をつかわずに数学の問題を解くって難しそうだけど、問題を見つめる彼のまなざしは真剣だった。
数学、好きなのかな。だとしたら、好きなことをきっかけになにか思い出したりしないかな。
数学の問題を解いて由井くんがなにかを思い出したら、わたしの課題が片付くし、一石二鳥だ。
期待しながら待っていると、由井くんが「あ、そっか」とつぶやいて、わたしのほうを振り向いた。
「わかったよ、解き方」
嬉しそうににこっと笑いかけられて、一瞬、ドキリとする。
「あ、うん。教えて」
急にすごく笑うから、ビックリした。ドキドキと鳴る胸を押さえつつ、由井くんの解説を聞くために居住まいをただす。
「あ、衣奈ちゃん、シャーペン持って。おれ、書いて説明ができないから。おれが言うとおりに書きながらやってみてね」
「わかった」
「えーっとね、まず……」
そこからの由井くんの説明は、すごくわかりやすかった。
途中で手が止まってしまった応用問題はあっという間に解けてしまったし、そのほかの問題も由井くんにヒントをもらうと簡単に解けてしまう。
「うわー、数学の課題がこんなに早く終わったの初めてかも。ありがとう」
「衣奈ちゃんの役に立ててよかった」
わたしが笑顔でお礼を言うと、由井くんがちょっと照れたように、ふふっと笑う。
「理系が得意っていうのはほんとだね。由井くんの説明、すごくわかりやすかったよ。ほかに、なにか思い出したこととかある?」
褒めついでに聞いてみると、由井くんは首をかしげながら「うーん」とうなった。
その様子だと、特に思い出したことはないみたい。
「でも、高一の数学の問題がスラスラ解けたってことは、由井くんはもうこの単元は勉強済みだったってことだよね。てことは、由井くんの学年は高二か高三? あ、でも……。青南学院は進学校だから、授業の進み方が早いのかな。だとしたら、高一の可能性も捨てきれないよね」
わたしの数学の課題は早く終わったけど、由井くんのことを探る手がかりは、結局なにも得られていない。
由井くんにユーレイになる前のことを思い出してもらって、わたしから離れてもらうには、いったいどうしたらいいんだろう……。
「うーん……」
腕を組んで悩んでいると、「衣奈ー」とお母さんに呼ばれた。
「なあに~?」
部屋のドアを開けて階段の上から返事をすると、リビングから廊下に出てきたお母さんがわたしを見上げた。
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