37 / 80
5.それは、デートってことですか?
10
しおりを挟むお菓子売り場には、買い物カゴやカートを押したお客さんが何人かいた。土曜日の午後だから、子連れのおとなも多い。
小さな子がいなくなったとなれば、この子のお父さん、お母さんも焦って探しているはず。
だけど、お菓子売り場には迷子の子ども探していそうなおとなはいなかった。
「お父さんかお母さん、いる?」
男の子のほうを向くと、少し姿勢を低くして話しかける。
男の子はお菓子売り場全体を見回してから、これまで以上に泣きそうな顔でプルプルと頭を振った。
「そっか。じゃあ、サービスカウンターのほうに言ってみようか」
男の子の手をひいて、お菓子売り場を離れようとしたとき。
「ハヤト……!」
抱っこ紐で赤ちゃんを抱いた女の人が、早足で近付いてきた。
「ママ!」
泣き顔だった男の子の表情がパッと明るくなり、わたしと繋いでいた手が離れる。
男の子は女の人のところに真っ直ぐに走っていくと、彼女にぎゅーっとしがみついた。
「よかったー。ごめんね、不安だったね」
男の子の頭をなでて、ぎゅーっと抱きしめ返す女の人を見て、わたしもほっとする。
よかった。お母さん、見つかって。
これで、わたしの役目はおわりだな。
そっと立ち去ろうとすると、「あの……」と男の子のお母さんに呼び止められた。
「いっしょに探してくれたんですよね。どうもありがとうございました」
男の子のお母さんが、とても丁寧に頭をさげてくれる。
「いえ、わたしはなにも……。お母さんと会えてよかったです」
恐縮しながら、わたしも頭をさげ返す。
お母さんと手をつないだ男の子は、去り際に、わたしに向かって小さな手をちょこっと振りながら、はにかむように笑ってくれた。
かわいいな。
弟の拓も、ちょっと前まであんな感じだったなあ。
男の子に手を振り返して、ふふっと笑う。
それから買い物の続きをするために別方向に歩き出すと、由井くんがふわっとわたしの横にきた。
「衣奈ちゃんは、変わらず優しいね」
「え?」
いつもは人が多いところでは由井くんに話しかけられてもスルーするのだけど……。思わず、反応してしまう。
由井くんが、変わらずと言ったのが、なんだか耳に引っかかったから。
「由井くんとわたしって――」
「おれ、衣奈ちゃんの優しいとこが好き」
由井くんの言葉に、わたしが口にしかけた言葉がかき消される。
由井くんに、そのまま溶けて消えてしまうんじゃないかと思うほど嬉しそうな顔でふわっと笑いかけられて。反応に困ったわたしは、口にしかけた言葉を飲み込んでうつむいた。
0
あなたにおすすめの小説
クラスで1番の美少女のことが好きなのに、なぜかクラスで3番目に可愛い子に絡まれる
グミ食べたい
青春
高校一年生の高居宙は、クラスで一番の美少女・一ノ瀬雫に一目惚れし、片想い中。
彼女と仲良くなりたい一心で高校生活を送っていた……はずだった。
だが、なぜか隣の席の女子、三間坂雪が頻繁に絡んでくる。
容姿は良いが、距離感が近く、からかってくる厄介な存在――のはずだった。
「一ノ瀬さんのこと、好きなんでしょ? 手伝ってあげる」
そう言って始まったのは、恋の応援か、それとも別の何かか。
これは、一ノ瀬雫への恋をきっかけに始まる、
高居宙と三間坂雪の、少し騒がしくて少し甘い学園ラブコメディ。
【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません
竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
女子ばっかりの中で孤軍奮闘のユウトくん
菊宮える
恋愛
高校生ユウトが始めたバイト、そこは女子ばかりの一見ハーレム?な店だったが、その中身は男子の思い描くモノとはぜ~んぜん違っていた?? その違いは読んで頂ければ、だんだん判ってきちゃうかもですよ~(*^-^*)
俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。
甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。
平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは──
学園一の美少女・黒瀬葵。
なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。
冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。
最初はただの勘違いだったはずの関係。
けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。
ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、
焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について
おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である
そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。
なんと、彼女は学園のマドンナだった……!
こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。
彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。
そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。
そして助けられた少女もまた……。
二人の青春、そして成長物語をご覧ください。
※中盤から甘々にご注意を。
※性描写ありは保険です。
他サイトにも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる