今日も、由井くんに憑けられています…!

碧月あめり

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5.それは、デートってことですか?

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『おれ、衣奈ちゃんの優しいとこが好き』

 やわらかな口調で紡がれた由井くんの言葉が、わたしの心音を少し高鳴らせる。

 別に、優しいとかじゃない。おせっかいなわたしは、目の前で困っている人がほうっておけないだけなのに。

 由井くんの言葉がわたしの心を揺さぶって、ちょっと困る。

 もしかしたらユーレイになる前の由井くんは、わたしがどこかで誰かにおせっかいを焼いていたところでも見てくれていて。そのときに、わたしに好意を持ってくれたのかな……。

 わからないけど、もしそうだとしたら、ちょっと嬉しいかもしれない。

 ちょっと、だけど……。

 そのあとは、後ろからついてくる由井くんがどんな表情を浮かべているのかが妙に気になってしまって……。うまく由井くんの顔が見れなかった。

 レジでお金を払ってスーパーを出ると、外に止めて置いた自転車のカゴに荷物を入れる。

 自転車に乗ると、由井くんがまた荷台のほうに回った。


「また乗るの?」

「だって、家に着くまでがデートでしょ」

「なにそれ」

 にこりと笑いかけてくる由井くんに苦笑いで返すと、自転車のペダルに足をかける。

 誰にも見えない由井くんと二人乗りして家の近くまで帰ってきたとき、うちの近所の家から高校生くらいの男女がふたり出てくるのが見えた。

 最初は遠目でわからなかったけれど、よく見ると、男の子のほうはアキちゃんで、女の子のほうは里桜先輩だ。

 里桜先輩、アキちゃんの家に遊びに来てたのかな……。

 アキちゃんは近所に住む幼なじみなんだから、挨拶して普通に通り過ぎれば良いのかもしれない。

 だけど、アキちゃんが家にカノジョを呼んでいるのを見てしまったことが気まずくて、咄嗟に自転車にブレーキをかけてしまう。

 アキちゃんと里桜先輩は、何メートルか離れたところで自転車を止めたわたしには気付いていない。

 気付いていないからこそ、アキちゃんは、里桜先輩の手をつないで引き寄せて、おもむろにキスをした。

 ドクンと心臓が大きく脈打ち、動悸がし始める。

 アキちゃんと里桜先輩がいっしょにいるところは、これまでに何度も見ている。ふたりが付き合っているということもわかっている。

 でも、アキちゃんと里桜先輩のキスシーンを見るまで、わたしはほんとうの意味でふたりが付き合っているということが理解できていなかったのかもしれない。

 少し離れたところからしか見ていないけど、アキちゃんと里桜先輩のキスはリアルで生々しくて。

 ふたりが恋人同士なのだという現実を、はっきりと突き付けられた気がする。

 わたしは自転車をぐるっと方向転換させると、今来た道を引き返した。


「衣奈ちゃん、方向違うよ」

 家とは反対方向に逆走し始めたわたしに、由井くんが後ろから声をかけてくる。

 でも、今のわたしに、アキちゃんと里桜先輩がいるほうへと自転車を走らせるのはムリだった。

 アキちゃんへの気持ちは、あきらめるようと決めている。

 アキちゃんが本気で里桜先輩を好きなことは、相談を受けていたからよくわかっているし、好きな人には幸せになってほしいから。

 だけど、里桜先輩とのキスシーンを見て激しく動揺しているわたしは、アキちゃんのことをまだ少しもあきらめられていないのだ。

 どうしよう。こんなこと、もしアキちゃんに知られたら幻滅される。
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