38 / 80
5.それは、デートってことですか?
11
しおりを挟む
『おれ、衣奈ちゃんの優しいとこが好き』
やわらかな口調で紡がれた由井くんの言葉が、わたしの心音を少し高鳴らせる。
別に、優しいとかじゃない。おせっかいなわたしは、目の前で困っている人がほうっておけないだけなのに。
由井くんの言葉がわたしの心を揺さぶって、ちょっと困る。
もしかしたらユーレイになる前の由井くんは、わたしがどこかで誰かにおせっかいを焼いていたところでも見てくれていて。そのときに、わたしに好意を持ってくれたのかな……。
わからないけど、もしそうだとしたら、ちょっと嬉しいかもしれない。
ちょっと、だけど……。
そのあとは、後ろからついてくる由井くんがどんな表情を浮かべているのかが妙に気になってしまって……。うまく由井くんの顔が見れなかった。
レジでお金を払ってスーパーを出ると、外に止めて置いた自転車のカゴに荷物を入れる。
自転車に乗ると、由井くんがまた荷台のほうに回った。
「また乗るの?」
「だって、家に着くまでがデートでしょ」
「なにそれ」
にこりと笑いかけてくる由井くんに苦笑いで返すと、自転車のペダルに足をかける。
誰にも見えない由井くんと二人乗りして家の近くまで帰ってきたとき、うちの近所の家から高校生くらいの男女がふたり出てくるのが見えた。
最初は遠目でわからなかったけれど、よく見ると、男の子のほうはアキちゃんで、女の子のほうは里桜先輩だ。
里桜先輩、アキちゃんの家に遊びに来てたのかな……。
アキちゃんは近所に住む幼なじみなんだから、挨拶して普通に通り過ぎれば良いのかもしれない。
だけど、アキちゃんが家にカノジョを呼んでいるのを見てしまったことが気まずくて、咄嗟に自転車にブレーキをかけてしまう。
アキちゃんと里桜先輩は、何メートルか離れたところで自転車を止めたわたしには気付いていない。
気付いていないからこそ、アキちゃんは、里桜先輩の手をつないで引き寄せて、おもむろにキスをした。
ドクンと心臓が大きく脈打ち、動悸がし始める。
アキちゃんと里桜先輩がいっしょにいるところは、これまでに何度も見ている。ふたりが付き合っているということもわかっている。
でも、アキちゃんと里桜先輩のキスシーンを見るまで、わたしはほんとうの意味でふたりが付き合っているということが理解できていなかったのかもしれない。
少し離れたところからしか見ていないけど、アキちゃんと里桜先輩のキスはリアルで生々しくて。
ふたりが恋人同士なのだという現実を、はっきりと突き付けられた気がする。
わたしは自転車をぐるっと方向転換させると、今来た道を引き返した。
「衣奈ちゃん、方向違うよ」
家とは反対方向に逆走し始めたわたしに、由井くんが後ろから声をかけてくる。
でも、今のわたしに、アキちゃんと里桜先輩がいるほうへと自転車を走らせるのはムリだった。
アキちゃんへの気持ちは、あきらめるようと決めている。
アキちゃんが本気で里桜先輩を好きなことは、相談を受けていたからよくわかっているし、好きな人には幸せになってほしいから。
だけど、里桜先輩とのキスシーンを見て激しく動揺しているわたしは、アキちゃんのことをまだ少しもあきらめられていないのだ。
どうしよう。こんなこと、もしアキちゃんに知られたら幻滅される。
やわらかな口調で紡がれた由井くんの言葉が、わたしの心音を少し高鳴らせる。
別に、優しいとかじゃない。おせっかいなわたしは、目の前で困っている人がほうっておけないだけなのに。
由井くんの言葉がわたしの心を揺さぶって、ちょっと困る。
もしかしたらユーレイになる前の由井くんは、わたしがどこかで誰かにおせっかいを焼いていたところでも見てくれていて。そのときに、わたしに好意を持ってくれたのかな……。
わからないけど、もしそうだとしたら、ちょっと嬉しいかもしれない。
ちょっと、だけど……。
そのあとは、後ろからついてくる由井くんがどんな表情を浮かべているのかが妙に気になってしまって……。うまく由井くんの顔が見れなかった。
レジでお金を払ってスーパーを出ると、外に止めて置いた自転車のカゴに荷物を入れる。
自転車に乗ると、由井くんがまた荷台のほうに回った。
「また乗るの?」
「だって、家に着くまでがデートでしょ」
「なにそれ」
にこりと笑いかけてくる由井くんに苦笑いで返すと、自転車のペダルに足をかける。
誰にも見えない由井くんと二人乗りして家の近くまで帰ってきたとき、うちの近所の家から高校生くらいの男女がふたり出てくるのが見えた。
最初は遠目でわからなかったけれど、よく見ると、男の子のほうはアキちゃんで、女の子のほうは里桜先輩だ。
里桜先輩、アキちゃんの家に遊びに来てたのかな……。
アキちゃんは近所に住む幼なじみなんだから、挨拶して普通に通り過ぎれば良いのかもしれない。
だけど、アキちゃんが家にカノジョを呼んでいるのを見てしまったことが気まずくて、咄嗟に自転車にブレーキをかけてしまう。
アキちゃんと里桜先輩は、何メートルか離れたところで自転車を止めたわたしには気付いていない。
気付いていないからこそ、アキちゃんは、里桜先輩の手をつないで引き寄せて、おもむろにキスをした。
ドクンと心臓が大きく脈打ち、動悸がし始める。
アキちゃんと里桜先輩がいっしょにいるところは、これまでに何度も見ている。ふたりが付き合っているということもわかっている。
でも、アキちゃんと里桜先輩のキスシーンを見るまで、わたしはほんとうの意味でふたりが付き合っているということが理解できていなかったのかもしれない。
少し離れたところからしか見ていないけど、アキちゃんと里桜先輩のキスはリアルで生々しくて。
ふたりが恋人同士なのだという現実を、はっきりと突き付けられた気がする。
わたしは自転車をぐるっと方向転換させると、今来た道を引き返した。
「衣奈ちゃん、方向違うよ」
家とは反対方向に逆走し始めたわたしに、由井くんが後ろから声をかけてくる。
でも、今のわたしに、アキちゃんと里桜先輩がいるほうへと自転車を走らせるのはムリだった。
アキちゃんへの気持ちは、あきらめるようと決めている。
アキちゃんが本気で里桜先輩を好きなことは、相談を受けていたからよくわかっているし、好きな人には幸せになってほしいから。
だけど、里桜先輩とのキスシーンを見て激しく動揺しているわたしは、アキちゃんのことをまだ少しもあきらめられていないのだ。
どうしよう。こんなこと、もしアキちゃんに知られたら幻滅される。
0
あなたにおすすめの小説
クラスで1番の美少女のことが好きなのに、なぜかクラスで3番目に可愛い子に絡まれる
グミ食べたい
青春
高校一年生の高居宙は、クラスで一番の美少女・一ノ瀬雫に一目惚れし、片想い中。
彼女と仲良くなりたい一心で高校生活を送っていた……はずだった。
だが、なぜか隣の席の女子、三間坂雪が頻繁に絡んでくる。
容姿は良いが、距離感が近く、からかってくる厄介な存在――のはずだった。
「一ノ瀬さんのこと、好きなんでしょ? 手伝ってあげる」
そう言って始まったのは、恋の応援か、それとも別の何かか。
これは、一ノ瀬雫への恋をきっかけに始まる、
高居宙と三間坂雪の、少し騒がしくて少し甘い学園ラブコメディ。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません
竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
貞操逆転世界で出会い系アプリをしたら
普通
恋愛
男性は弱く、女性は強い。この世界ではそれが当たり前。性被害を受けるのは男。そんな世界に生を受けた葉山優は普通に生きてきたが、ある日前世の記憶取り戻す。そこで前世ではこんな風に男女比の偏りもなく、普通に男女が一緒に生活できたことを思い出し、もう一度女性と関わってみようと決意する。
そこで会うのにまだ抵抗がある、優は出会い系アプリを見つける。まずはここでメッセージのやり取りだけでも女性としてから会うことしようと試みるのだった。
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2025.12.14 285話のタイトルを「おみやげ何にする? Ⅲ」から変更しました。
■2025.11.29 294話のタイトルを「赤い川」から変更しました。
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる