39 / 80
5.それは、デートってことですか?
12
しおりを挟む
脇目も振らずに自転車を漕いでいると、「衣奈ちゃん、前!」と由井くんがわたしの耳元で叫ぶ。
ハッとして顔を上げると、目の前に電柱が迫っていて。衝突しそうになっている。
ハンドルを横に切って、急ブレーキをかけても、最悪転倒は免れないかもしれない。
目をつぶってハンドルを左に傾けながらブレーキをかけた、その瞬間。わたしの身体がふわっとした空気にやわらかく包まれた。
自転車ごと電柱にぶつかるか、ハンドルを切り損ねて派手に転倒する。
その二択しかないと思っていたのに、自転車が電柱からわずか数センチ手前で止まる。
あれ、わたし、助かった――?
「衣奈ちゃん、大丈夫?」
自転車のハンドルを握りしめたまま、まばたきしていると、由井くんが荷台からひょいっと降りて、わたしの前まで移動してきた。
「ギリギリで止めれてよかった。ケガしてない?」
そう訊ねながら、由井くんがわたしの顔を心配そうに覗き込んでくる。
どうして助かったのか、まだ実感の持てないわたしは、無言でコクコクとうなずいた。
「急に家とは反対方向に暴走し始めたから、びっくりしたよ。気をつけなきゃ」
由井くんに、はぁーっとため息を吐かれて、ようやく少し、頭が働き始める。
「電柱にぶつかりそうになったとき、空気で守られたみたいな気がしたんだけど……。由井くんが助けてくれたの?」
「たぶん……」
「ありがとう。ユーレイって、あんな力も使えるんだね。びっくりした」
お礼を言うと、由井くんが自分の手のひらに視線を落として少し照れ臭そうに笑う。
「うん、おれもびっくり。でも、衣奈ちゃんが危ない、守らなきゃって思ったら、不思議と力が出た」
「そう、なんだ……」
「おれ、たぶん、衣奈ちゃんのためならなんでもできるんだと思う」
わたしに視線を戻した由井くんが、唇に弧を描くようにして綺麗に微笑む。その笑みの妖しいまでの美しさが、わたしをドキリとさせた。
「衣奈ちゃんが急に心を失っちゃったのは、あいつのせいだよね」
「あいつ……?」
「アキちゃんだよ。あいつと彼女がキスしてるのを見て、動揺しちゃったんでしょ」
由井くんが、わたしに微笑みかけたまま、しっかりと核心をついてくる。
「ち、がうよ。そんなんじゃない……」
すぐに否定したけど、由井くんは貼り付けたような綺麗な笑みを崩さなかった。
「できれば気付きたくなかったけど……。衣奈ちゃんは、あいつのことが好きなんだよね」
「アキちゃんは、ただの幼なじみだよ」
「ほんとうは、あいつと付き合いたかった?」
「違うってば……!」
否定すればするほど、動揺で声が震える。
笑顔でわたしを見つめる由井くんは、言葉にできないわたしの気持ちを見透かしているみたいだった。
「あいつが衣奈ちゃんに振り向くように、おれが協力しようか?」
「なに言ってるの。アキちゃんは、里桜先輩のことが好きなんだよ。それに由井くんだって、わたしがほかの人と仲良くするのはいやだって言ってたじゃない」
ゆるりと首を横に振ると、由井くんが「いやだよ」とつぶやく。
「衣奈ちゃんがほかのやつと仲良くするのはいやだ。でも、おれ、衣奈ちゃんのこと好きだから。衣奈ちゃんが望めば、おれは衣奈ちゃんのためならなんでもするよ」
口元にだけ笑みを浮かべる由井くんの目は、本気では笑っていない。
わたしを見つめる空洞みたいな目が、なんだか少し怖かった。
ハッとして顔を上げると、目の前に電柱が迫っていて。衝突しそうになっている。
ハンドルを横に切って、急ブレーキをかけても、最悪転倒は免れないかもしれない。
目をつぶってハンドルを左に傾けながらブレーキをかけた、その瞬間。わたしの身体がふわっとした空気にやわらかく包まれた。
自転車ごと電柱にぶつかるか、ハンドルを切り損ねて派手に転倒する。
その二択しかないと思っていたのに、自転車が電柱からわずか数センチ手前で止まる。
あれ、わたし、助かった――?
「衣奈ちゃん、大丈夫?」
自転車のハンドルを握りしめたまま、まばたきしていると、由井くんが荷台からひょいっと降りて、わたしの前まで移動してきた。
「ギリギリで止めれてよかった。ケガしてない?」
そう訊ねながら、由井くんがわたしの顔を心配そうに覗き込んでくる。
どうして助かったのか、まだ実感の持てないわたしは、無言でコクコクとうなずいた。
「急に家とは反対方向に暴走し始めたから、びっくりしたよ。気をつけなきゃ」
由井くんに、はぁーっとため息を吐かれて、ようやく少し、頭が働き始める。
「電柱にぶつかりそうになったとき、空気で守られたみたいな気がしたんだけど……。由井くんが助けてくれたの?」
「たぶん……」
「ありがとう。ユーレイって、あんな力も使えるんだね。びっくりした」
お礼を言うと、由井くんが自分の手のひらに視線を落として少し照れ臭そうに笑う。
「うん、おれもびっくり。でも、衣奈ちゃんが危ない、守らなきゃって思ったら、不思議と力が出た」
「そう、なんだ……」
「おれ、たぶん、衣奈ちゃんのためならなんでもできるんだと思う」
わたしに視線を戻した由井くんが、唇に弧を描くようにして綺麗に微笑む。その笑みの妖しいまでの美しさが、わたしをドキリとさせた。
「衣奈ちゃんが急に心を失っちゃったのは、あいつのせいだよね」
「あいつ……?」
「アキちゃんだよ。あいつと彼女がキスしてるのを見て、動揺しちゃったんでしょ」
由井くんが、わたしに微笑みかけたまま、しっかりと核心をついてくる。
「ち、がうよ。そんなんじゃない……」
すぐに否定したけど、由井くんは貼り付けたような綺麗な笑みを崩さなかった。
「できれば気付きたくなかったけど……。衣奈ちゃんは、あいつのことが好きなんだよね」
「アキちゃんは、ただの幼なじみだよ」
「ほんとうは、あいつと付き合いたかった?」
「違うってば……!」
否定すればするほど、動揺で声が震える。
笑顔でわたしを見つめる由井くんは、言葉にできないわたしの気持ちを見透かしているみたいだった。
「あいつが衣奈ちゃんに振り向くように、おれが協力しようか?」
「なに言ってるの。アキちゃんは、里桜先輩のことが好きなんだよ。それに由井くんだって、わたしがほかの人と仲良くするのはいやだって言ってたじゃない」
ゆるりと首を横に振ると、由井くんが「いやだよ」とつぶやく。
「衣奈ちゃんがほかのやつと仲良くするのはいやだ。でも、おれ、衣奈ちゃんのこと好きだから。衣奈ちゃんが望めば、おれは衣奈ちゃんのためならなんでもするよ」
口元にだけ笑みを浮かべる由井くんの目は、本気では笑っていない。
わたしを見つめる空洞みたいな目が、なんだか少し怖かった。
0
あなたにおすすめの小説
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません
竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
クラスで1番の美少女のことが好きなのに、なぜかクラスで3番目に可愛い子に絡まれる
グミ食べたい
青春
高校一年生の高居宙は、クラスで一番の美少女・一ノ瀬雫に一目惚れし、片想い中。
彼女と仲良くなりたい一心で高校生活を送っていた……はずだった。
だが、なぜか隣の席の女子、三間坂雪が頻繁に絡んでくる。
容姿は良いが、距離感が近く、からかってくる厄介な存在――のはずだった。
「一ノ瀬さんのこと、好きなんでしょ? 手伝ってあげる」
そう言って始まったのは、恋の応援か、それとも別の何かか。
これは、一ノ瀬雫への恋をきっかけに始まる、
高居宙と三間坂雪の、少し騒がしくて少し甘い学園ラブコメディ。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
貞操逆転世界で出会い系アプリをしたら
普通
恋愛
男性は弱く、女性は強い。この世界ではそれが当たり前。性被害を受けるのは男。そんな世界に生を受けた葉山優は普通に生きてきたが、ある日前世の記憶取り戻す。そこで前世ではこんな風に男女比の偏りもなく、普通に男女が一緒に生活できたことを思い出し、もう一度女性と関わってみようと決意する。
そこで会うのにまだ抵抗がある、優は出会い系アプリを見つける。まずはここでメッセージのやり取りだけでも女性としてから会うことしようと試みるのだった。
俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。
甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。
平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは──
学園一の美少女・黒瀬葵。
なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。
冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。
最初はただの勘違いだったはずの関係。
けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。
ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、
焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる