今日も、由井くんに憑けられています…!

碧月あめり

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6.君のためならなんでもできます。

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 次の月曜日の朝。

 教室で瑞穂と話していると、アキちゃんがいつもより少し遅めに登校してきた。


「衣奈、松川さん、おはよう」

 わたし達のそばを通り過ぎるとき、アキちゃんが笑顔で声をかけてくる。


「おはよう」

「お、おはよう」

 笑顔でアキちゃんに挨拶を返す瑞穂のとなりで、わたしはちょっとどもってしまう。

 土曜日に見てしまった、アキちゃんと里桜先輩のキス。それが、ふと脳裏によみがえって気まずかった。

 今朝も、アキちゃんは駅前で待ち合わせして、里桜先輩と一緒に登校してきたのかな。

 今までは、毎朝仲良く登校するふたりのことをうらやましく思っていたけど。リアルなキスシーンを見たせいで、アキちゃんの顔がまっすぐ見れない。

 もちろんアキちゃんは、里桜先輩とのキスをわたしに見られていたことなんて知らない。

 だから、わたしが勝手にひとりで気まずくなってるだけなんだけど……。

「衣奈、どうかした?」

 不自然に目線をそらすわたしのことを不審に思ったのか、アキちゃんが少しだけ顔を近付けてきた。

 アキちゃんは、基本的に人との距離が近い。

 わたしのことを女子として意識してないから、アキちゃんは無防備に顔を近付けてくるのだと思うけど……。

 あまり近付かれたら、アキちゃんと里桜先輩のキスを思い出してしまうからやめてほしい。


「べつに、どうもしないよ。ていうか、近いから」

「そうか?」

 わたしに指摘されて、アキちゃんが一歩下がる。


「あ、そういえばさ、衣奈――」
「あ、矢本ー。そういえばさっき、サッカー部のやつがお前のこと探しに来てたよ」

 アキちゃんが、ふと思い出したようになにかを言いかけたとき、少し離れたところからクラスの男子がアキちゃんに声をかけてきた。


「え~、名前誰?」

「なんだっけ。二組の背ぇ高いやつ」

「ああ……」

 クラスの男子とそんな会話をしたあと、アキちゃんがわたしに向き直る。


「ごめん、衣奈。話したいことあったんだけど、またあとで」

「ああ、うん」

 慌ただしくどこかに行ってしまうアキちゃんに手を振るわたしを、由井くんが無表情で見てくる。

 いつもは、わたしが誰かと話すと目尻をつり上げて怖い顔をしている由井くん。その度に、彼が誰かを金縛りに合わせてしまわないかと気が気じゃないけど……。

 今みたいに、無表情で生気のない目で見つめられるのもなんか怖い。

 ドキッとしながら由井くんから視線をそらすと、わたしと一緒に去っていくアキちゃんの背中を見送っていた瑞穂が「ねえ」と話しかけてきた。


「矢本くんてさ、カノジョいるのに、衣奈との距離感すごく近いよね」

「そ、そうかな……。家近いし、小学生の頃から知ってるからね」

「だとしても、距離感近いよ。矢本くんて、誰とでも仲良くできるイメージだけど、衣奈とは特に仲良いよね。あんなに距離感近くて、今まで矢本くんのこと好きだな~って思ったこととかないの?」

 何気なくといったふうに訊ねてきた瑞穂の言葉に、ドキリとする。


「いや、でも……。アキちゃん、カノジョいるし」

「矢本くんにカノジョできたのって、夏休みくらいでしょ。それまでのあいだで、ときめいちゃったこととかないの?」

 アキちゃんに、ときめいちゃったこと……。

 そんなの、何度もある。アキちゃんが里桜先輩と付き合い出して、自分の気持ちを自覚してからは特に……。

 だけど、そんなこと、たとえ瑞穂にも言えるはずがない。

 アキちゃんには、わたしに対して恋愛感情は一ミリも持っていないんだから。言ったところで、虚しい気持ちになるだけ。

 それに、ヘタにアキちゃんへの想いを誰かに口にして、これまでの関係を壊したり、アキちゃんと里桜先輩の付き合いを邪魔したくない。


「アキちゃんにときめくとかないよ。アキちゃんとは、きょうだいみたいな感じだし」

 わたしがハハッと笑うと、「きょうだいか~」と、瑞穂がなんだか不服そうな声でつぶやいた。
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