40 / 80
6.君のためならなんでもできます。
1
しおりを挟む
次の月曜日の朝。
教室で瑞穂と話していると、アキちゃんがいつもより少し遅めに登校してきた。
「衣奈、松川さん、おはよう」
わたし達のそばを通り過ぎるとき、アキちゃんが笑顔で声をかけてくる。
「おはよう」
「お、おはよう」
笑顔でアキちゃんに挨拶を返す瑞穂のとなりで、わたしはちょっとどもってしまう。
土曜日に見てしまった、アキちゃんと里桜先輩のキス。それが、ふと脳裏によみがえって気まずかった。
今朝も、アキちゃんは駅前で待ち合わせして、里桜先輩と一緒に登校してきたのかな。
今までは、毎朝仲良く登校するふたりのことをうらやましく思っていたけど。リアルなキスシーンを見たせいで、アキちゃんの顔がまっすぐ見れない。
もちろんアキちゃんは、里桜先輩とのキスをわたしに見られていたことなんて知らない。
だから、わたしが勝手にひとりで気まずくなってるだけなんだけど……。
「衣奈、どうかした?」
不自然に目線をそらすわたしのことを不審に思ったのか、アキちゃんが少しだけ顔を近付けてきた。
アキちゃんは、基本的に人との距離が近い。
わたしのことを女子として意識してないから、アキちゃんは無防備に顔を近付けてくるのだと思うけど……。
あまり近付かれたら、アキちゃんと里桜先輩のキスを思い出してしまうからやめてほしい。
「べつに、どうもしないよ。ていうか、近いから」
「そうか?」
わたしに指摘されて、アキちゃんが一歩下がる。
「あ、そういえばさ、衣奈――」
「あ、矢本ー。そういえばさっき、サッカー部のやつがお前のこと探しに来てたよ」
アキちゃんが、ふと思い出したようになにかを言いかけたとき、少し離れたところからクラスの男子がアキちゃんに声をかけてきた。
「え~、名前誰?」
「なんだっけ。二組の背ぇ高いやつ」
「ああ……」
クラスの男子とそんな会話をしたあと、アキちゃんがわたしに向き直る。
「ごめん、衣奈。話したいことあったんだけど、またあとで」
「ああ、うん」
慌ただしくどこかに行ってしまうアキちゃんに手を振るわたしを、由井くんが無表情で見てくる。
いつもは、わたしが誰かと話すと目尻をつり上げて怖い顔をしている由井くん。その度に、彼が誰かを金縛りに合わせてしまわないかと気が気じゃないけど……。
今みたいに、無表情で生気のない目で見つめられるのもなんか怖い。
ドキッとしながら由井くんから視線をそらすと、わたしと一緒に去っていくアキちゃんの背中を見送っていた瑞穂が「ねえ」と話しかけてきた。
「矢本くんてさ、カノジョいるのに、衣奈との距離感すごく近いよね」
「そ、そうかな……。家近いし、小学生の頃から知ってるからね」
「だとしても、距離感近いよ。矢本くんて、誰とでも仲良くできるイメージだけど、衣奈とは特に仲良いよね。あんなに距離感近くて、今まで矢本くんのこと好きだな~って思ったこととかないの?」
何気なくといったふうに訊ねてきた瑞穂の言葉に、ドキリとする。
「いや、でも……。アキちゃん、カノジョいるし」
「矢本くんにカノジョできたのって、夏休みくらいでしょ。それまでのあいだで、ときめいちゃったこととかないの?」
アキちゃんに、ときめいちゃったこと……。
そんなの、何度もある。アキちゃんが里桜先輩と付き合い出して、自分の気持ちを自覚してからは特に……。
だけど、そんなこと、たとえ瑞穂にも言えるはずがない。
アキちゃんには、わたしに対して恋愛感情は一ミリも持っていないんだから。言ったところで、虚しい気持ちになるだけ。
それに、ヘタにアキちゃんへの想いを誰かに口にして、これまでの関係を壊したり、アキちゃんと里桜先輩の付き合いを邪魔したくない。
「アキちゃんにときめくとかないよ。アキちゃんとは、きょうだいみたいな感じだし」
わたしがハハッと笑うと、「きょうだいか~」と、瑞穂がなんだか不服そうな声でつぶやいた。
教室で瑞穂と話していると、アキちゃんがいつもより少し遅めに登校してきた。
「衣奈、松川さん、おはよう」
わたし達のそばを通り過ぎるとき、アキちゃんが笑顔で声をかけてくる。
「おはよう」
「お、おはよう」
笑顔でアキちゃんに挨拶を返す瑞穂のとなりで、わたしはちょっとどもってしまう。
土曜日に見てしまった、アキちゃんと里桜先輩のキス。それが、ふと脳裏によみがえって気まずかった。
今朝も、アキちゃんは駅前で待ち合わせして、里桜先輩と一緒に登校してきたのかな。
今までは、毎朝仲良く登校するふたりのことをうらやましく思っていたけど。リアルなキスシーンを見たせいで、アキちゃんの顔がまっすぐ見れない。
もちろんアキちゃんは、里桜先輩とのキスをわたしに見られていたことなんて知らない。
だから、わたしが勝手にひとりで気まずくなってるだけなんだけど……。
「衣奈、どうかした?」
不自然に目線をそらすわたしのことを不審に思ったのか、アキちゃんが少しだけ顔を近付けてきた。
アキちゃんは、基本的に人との距離が近い。
わたしのことを女子として意識してないから、アキちゃんは無防備に顔を近付けてくるのだと思うけど……。
あまり近付かれたら、アキちゃんと里桜先輩のキスを思い出してしまうからやめてほしい。
「べつに、どうもしないよ。ていうか、近いから」
「そうか?」
わたしに指摘されて、アキちゃんが一歩下がる。
「あ、そういえばさ、衣奈――」
「あ、矢本ー。そういえばさっき、サッカー部のやつがお前のこと探しに来てたよ」
アキちゃんが、ふと思い出したようになにかを言いかけたとき、少し離れたところからクラスの男子がアキちゃんに声をかけてきた。
「え~、名前誰?」
「なんだっけ。二組の背ぇ高いやつ」
「ああ……」
クラスの男子とそんな会話をしたあと、アキちゃんがわたしに向き直る。
「ごめん、衣奈。話したいことあったんだけど、またあとで」
「ああ、うん」
慌ただしくどこかに行ってしまうアキちゃんに手を振るわたしを、由井くんが無表情で見てくる。
いつもは、わたしが誰かと話すと目尻をつり上げて怖い顔をしている由井くん。その度に、彼が誰かを金縛りに合わせてしまわないかと気が気じゃないけど……。
今みたいに、無表情で生気のない目で見つめられるのもなんか怖い。
ドキッとしながら由井くんから視線をそらすと、わたしと一緒に去っていくアキちゃんの背中を見送っていた瑞穂が「ねえ」と話しかけてきた。
「矢本くんてさ、カノジョいるのに、衣奈との距離感すごく近いよね」
「そ、そうかな……。家近いし、小学生の頃から知ってるからね」
「だとしても、距離感近いよ。矢本くんて、誰とでも仲良くできるイメージだけど、衣奈とは特に仲良いよね。あんなに距離感近くて、今まで矢本くんのこと好きだな~って思ったこととかないの?」
何気なくといったふうに訊ねてきた瑞穂の言葉に、ドキリとする。
「いや、でも……。アキちゃん、カノジョいるし」
「矢本くんにカノジョできたのって、夏休みくらいでしょ。それまでのあいだで、ときめいちゃったこととかないの?」
アキちゃんに、ときめいちゃったこと……。
そんなの、何度もある。アキちゃんが里桜先輩と付き合い出して、自分の気持ちを自覚してからは特に……。
だけど、そんなこと、たとえ瑞穂にも言えるはずがない。
アキちゃんには、わたしに対して恋愛感情は一ミリも持っていないんだから。言ったところで、虚しい気持ちになるだけ。
それに、ヘタにアキちゃんへの想いを誰かに口にして、これまでの関係を壊したり、アキちゃんと里桜先輩の付き合いを邪魔したくない。
「アキちゃんにときめくとかないよ。アキちゃんとは、きょうだいみたいな感じだし」
わたしがハハッと笑うと、「きょうだいか~」と、瑞穂がなんだか不服そうな声でつぶやいた。
0
あなたにおすすめの小説
クラスで1番の美少女のことが好きなのに、なぜかクラスで3番目に可愛い子に絡まれる
グミ食べたい
青春
高校一年生の高居宙は、クラスで一番の美少女・一ノ瀬雫に一目惚れし、片想い中。
彼女と仲良くなりたい一心で高校生活を送っていた……はずだった。
だが、なぜか隣の席の女子、三間坂雪が頻繁に絡んでくる。
容姿は良いが、距離感が近く、からかってくる厄介な存在――のはずだった。
「一ノ瀬さんのこと、好きなんでしょ? 手伝ってあげる」
そう言って始まったのは、恋の応援か、それとも別の何かか。
これは、一ノ瀬雫への恋をきっかけに始まる、
高居宙と三間坂雪の、少し騒がしくて少し甘い学園ラブコメディ。
【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません
竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる