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6.君のためならなんでもできます。
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しおりを挟む「なんで、ちょっとつまらなそうなの」
「だって、衣奈が全然好きな人とかカレシ作らないのって、密かに幼なじみの矢本くんに恋してるからなのかな~ってちょっと思ってたから」
「いやいや、ないって」
笑って顔の前で手を振りながら、口の端がひきつりそうなのがちゃんと誤魔化せているかな……、と思う。
話してなかったのに、瑞穂にはうっすらとバレてたんだな。わたしの気持ち……。
アキちゃんは鈍いから大丈夫だと思うけど、気付かれないように気をつけなきゃ。
瑞穂の前でひきつり笑いをしていると、横顔に視線を感じる。
見ると、由井くんはまだ無表情でわたしのことを見つめていて。やっぱり、少し怖かった。
どうしたんだろう。
考えてみれば、土曜日にふたりで青南学院に行って帰ってきたあとから、由井くんは少し様子がおかしい。
青南学院に行って、帰りにスーパーに寄ったときまでは「デートだ」って喜びながらわたしについてきていたのに。
家に帰ってからは、今みたいに無表情でわたしのことを見ている瞬間が多くなって。クレイから、今まで以上に敵意の牙を向けられていた。
もしかして……。青南学院の前に行ったことで、なにか思い出したことでもあったのかな。
学校の前ではなにも思い出している気配はなかったけど、時差でなにか思い出すことがあったのかもしれない。
それをわたしに言えなくて、困ってる……、とか?
だとしたら、少し心配。
気になってジッと見つめると、わたしの心配のまなざしに気づいた由井くんが、ハッとしたように表情を緩めた。
「衣奈ちゃん?」
わたしにだけ聞こえる声で名前を呼んだ由井くんの唇の端が弓状に引き上がる。
わずかに目を細めて微笑む由井くんが、教室に差し込む朝の太陽の光に透けて綺麗で。ドキリとした。
さっきまで、わたしはアキちゃんのことを考えていたはずなのに。
ちょっと笑いかけられたくらいで由井くんに心を揺さぶられるなんて、気が多すぎ……。
自分の優柔不断さに反省しつつ、由井くんから顔をそらす。
わたしはべつに、由井くんのことはなんとも思ってない。
突然、視えるようになって。なにも覚えてないけど、わたしのことが好きだ、って言われて。つきまとわれて。そのせいでクレイには牙を向けられてて、困ってる。
なんとかして、わたしから離れてもらわなきゃって思ってる。
だけど、ときどき由井くんにドキリさせられてしまうのは、彼の見せる表情が、瞬間的にとても綺麗だから。
ただ、それだけだ。
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