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6.君のためならなんでもできます。
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その日の昼休み。
お弁当を食べたあと、彼氏に会いに行くという瑞穂といっしょに教室を出た。
「衣奈、どこか行くの?」
「飲み物買いに行く」
「そっか。じゃあ、あとでね」
瑞穂の彼氏は二年生だから、教室はひとつ上の階。自動販売機があるのはひとつ下の階。
階段のところで瑞穂と別れると、後ろからついてきていた由井くんが、ふわっとわたしの横にきた。
ちらっと横目で見ると、由井くんがにこっと笑いかけてくる。
朝はものすごく無表情だったけど、今隣にいる由井くんの笑顔はいつもどおりだ。
なにかわたしに言えないことでも思い出したのかな、と心配してたけど……。わたしの思い過ごしだったのかもしれない。
人通りがあるから学校ではあまり由井くんに話しかけられないけど、飲み物を買いに行ったあと、中庭にでも行こうかな。
そこならあんまり人が来ないから、由井くんと話していても目立たない。
駆け足で階段を降りると、由井くんが同じスピードでついてくる。
学食のそばの自動販売機でホットミルクティーを買うと、あつあつの缶を伸ばしたセーターの袖の上から両手でつつむ。
「中庭行こう」
こそっと声をかけると、由井くんがパッと目を輝かせた。
「衣奈ちゃんとふたりだけで?」
嬉しそうに訊ねてくる由井くんにちょっと苦笑いで頷いた、そのとき。
「衣奈」
アキちゃんが、クラスの男子たちと一緒に学食から出てきた。
「アキちゃん」
手を振ると、アキちゃんが男子たちの輪から抜けてわたしのほうに近付いてくる。
「衣奈、今ちょっと話せる?」
「いいけど……、みんなは?」
「いいの、いいの。中庭でも行こう」
アキちゃんがそう言って、中庭のほうへと歩き出す。
「え、ちょっと……」
中庭には由井くんと行こうと思ってたのに……。間が悪い。
怒ってるかな……。
ちらっと隣の由井くんを見る。
もしかして、また黒いオーラを出しているんじゃ……。
そんなふうに思ったけど、由井くんは無表情でアキちゃんのことを見ていた。
由井くんがなにを思っているのかはわからないけど、なんとなく怒ってはいなさそう。
「由井くん、ごめんね」
わたしは小声で由井くんに謝ると、先を歩いていくアキちゃんの背中を追いかけた。
二棟の校舎に挟まれた中庭には、わたし達以外に生徒は誰もいなかった。
人の出入りが少ない中庭は、あまり手入れがされていなくて、花壇には背丈の高い雑草もたくさん生えている。
わたしとアキちゃんは、草だらけの中庭に申し訳程度に置いてあるベンチに座った。
あとからついてきた由井くんが、わたしの横にふわっと座る。
アキちゃんには見えていないけど、ふたりに挟まれるようにして座ったわたしは、なんとなく居心地の悪い気持ちでミルクティーのフタをあけた。
歩いている間に少し冷めてしまったミルクティーを飲もうとしていると、アキちゃんがおもむろに訊ねてくる。
「土曜日、青南学院に行ったんだってな。大野から連絡がきた」
「うん。大野くん、元気そうだったよ」
「みたいだな。それはいいんだけどさ、衣奈、土曜日に青南学院まで何しに行ったの? 大野は、衣奈がユイちゃんって子と待ち合わせてたみたいだって言ってたけど……。違うよな」
「違う、って?」
ドキッとしながら、鈍感なフリをして言葉を返す。そんなわたしの反応に、アキちゃんがちょっと困った顔をした。
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