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6.君のためならなんでもできます。
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しおりを挟む由井くんは、何してるんだろう。
不思議に思って見ていると、由井くんがアキちゃんの目の前からパッと手を離す。その瞬間、アキちゃんの瞳が暗く翳った。
さっきまでしっかりと目を合わせていたはずなのに、アキちゃんがどこか焦点の合わない目でわたしのことをぼんやりと見てくる。
「え、アキちゃん……?」
急に、どうしちゃったの?
ミルクティーの缶を置いて、わたしも立ち上がる。
「アキちゃん、どうしたの?」
心配になってアキちゃんの顔を覗き込むと、彼の後ろにゆらりと立った由井くんが、唇の端をピクリと痙攣らせた。
「衣奈ちゃん。カノジョから奪うなら、今がチャンスだよ」
「奪う?」
「だって衣奈ちゃん、好きなんでしょ。こいつのこと」
うっすらと微笑む由井くんの目は、少しも笑っていなくて怖かった。
焦点の合わない目で、わたしを通り越してどこか遠くを見ているようなアキちゃんも、その後ろで妖しく微笑む由井くんも、どちらも異様な雰囲気を醸し出していて怖い。
「ねえ、ふたりとも、どうしちゃったの……?」
顔を引き攣らせながら一歩、二歩と後ずさると、アキちゃんと由井くんも、同じだけ距離を詰めてくる。
ほんとうに、どうしちゃったんだろう。
さっき、由井くんがアキちゃんに目隠しのようなことをしてたけど……。そのあとから、様子が変だ。
由井くんは、これまでにわたしを金縛りに合わせたり、自転車で事故りそうになったわたしを助けてくれたり……。霊力なのか、なんだかわからないけど、たまに不思議な力を発動する。
もしかしたら、由井くんがアキちゃんになにかした……?
きっとそうだ。それ以外考えられない。
「由井くん、アキちゃんに何したの!?」
由井くんに向かって叫んだ、まさにそのタイミングで、アキちゃんがわたしのほうに手を伸ばしてきた。
「衣奈」
咄嗟のことで逃げきれず、かなり強い力でアキちゃんに腕をつかまれる。
「アキちゃん、痛い……」
顔を歪めて訴えたけど、アキちゃんはわたしの腕を離すどころか、つかむ手にぐぐっと力を入れてきた。
焦点の合わない目でこちらを見つめるアキちゃんに、わたしの声がちゃん届いているのか、かなり怪しい。
「アキちゃん、どうしちゃったの?」
それでも必死に声をかけると、アキちゃんが唇の端をむりやりにつり上げるようにして、歪に笑いかけてきた。
「衣奈。俺、たった今、自分のほんとうの気持ちに気付いたよ」
「アキちゃん、何言ってるの?」
「衣奈、俺と付き合おう」
アキちゃんの話し方は、さっきから台本を読まされているような棒読みで。少しおかしい。
これも、由井くんが操作してるの――?
アキちゃんの後ろにいる由井くんを見ると、彼はうっすらと妖しい笑みを浮かべたままでいる。
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