52 / 80
7.わかったかもしれません。
1
しおりを挟む《大野くんに、由井 周って人のことをできる限り聞いてみてほしい》
由井くんの名前がわかったわたしは、家に帰ってからすぐにアキちゃんにラインを送った。
部活が終わってからラインに気付いてくれたアキちゃんからは、既読が付いたあとに電話がかかってきて。
「なあ、ほんとうに大丈夫なの? なんか変なことに巻き込まれてない?」
心配そうな声で、何度も確認された。
「大丈夫。アキちゃんが心配することはなにもないよ。もしなにか困ったことがあったら、ちゃんと相談するから」
わたしがそう言うと、アキちゃんも最後には渋々といった感じで納得して、大野くんに連絡してくれた。
その結果、わかったのは……。
まず、由井くんが高校二年生だということ。
それから、彼の実家はうちから電車で一時間ほどのところにある由井原総合病院であるということ。
お父さんが由井原総合病院の院長と勤めていて、医学部に入った優秀なお兄さんがいるということだ。
どうやら由井くんは、なかなか裕福なお家のおぼっちゃまだったらしい。
由井くん自身は、頭はいいけれど地味であまり目立たない生徒だったみたいだ。
大野くんが話を聞いてくれた二年生の先輩の話によると、由井くんは一週間くらい前に学校帰りに交通事故に遭ったようで、しばらく学校に来ていない。
今も意識不明の重体で、お父さんが経営する由井原総合病院で入院しているというウワサだという。
由井くんはパソコンが得意で、中学のときからプログラミング部に入っていたらしいのだけど……。部活にもクラスにも特別に親しくしていた友達はいなかったらしい。
入院している彼のところにお見舞いに行ったという人の話は聞かない。先生たちも、長期間学校を休んでいる由井くんについて特に触れることはないそうだ。
「——、ってことみたいなんだけど……。なにか思い出せたことはある?」
アキちゃん経由で大野くんに聞いてもらった情報を伝えると、由井くんは眉をハの字に下げて小さく首を横に振った。
「なんとなく自分の話のような気もするけど、あんまりピンとこない」
「そっかあ」
ラインで送られてきた文章をもう一度読み直してから、わたしはスマホをベッドの布団にポイッと放り投げた。
「今度こそ、なにかわかったと思ったんだけどな……」
ぼやきながらベッドに仰向けに寝転がると、由井くんがなんだか申し訳なさそうな顔をしてわたしのそばに正座する。
「あの……、ごめんね。今日はいろいろと迷惑かけて……」
由井くんが、膝に手をついてうなだれる。今はもう黒いオーラは出ていないけれど、しょんぼりとする彼の顔は、叱られた犬みたいだった。
「迷惑とは思ってないよ。でも、ビックリはしたかな。由井くん、しばらくパニックでホームの3両目の乗り場から動かなくなっちゃったし」
「うん、ごめんね……」
高校の最寄り駅のホームで、由井くんが突然うずくまって震えだしたのは、3両目の乗り場の近くに立っていた青南学院のガラの悪そうな三人組のせいだと思う。
あの人たちのほうから、一週間前の事故のことや由井 周という名前が聞こえてきたあたりから、たぶん由井くんの様子はおかしくなった。
ホームにうずくまってしまった由井くんは、わたしがそばに言って話しかけても全然震えが治らなくて……。
青南学院の三人が電車に乗って去って行ったあとも、由井くんはずっと青ざめた顔をしていた。
0
あなたにおすすめの小説
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません
竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──
彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。
遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。
彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。
……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。
でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!?
もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー!
ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。)
略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)
クラスで1番の美少女のことが好きなのに、なぜかクラスで3番目に可愛い子に絡まれる
グミ食べたい
青春
高校一年生の高居宙は、クラスで一番の美少女・一ノ瀬雫に一目惚れし、片想い中。
彼女と仲良くなりたい一心で高校生活を送っていた……はずだった。
だが、なぜか隣の席の女子、三間坂雪が頻繁に絡んでくる。
容姿は良いが、距離感が近く、からかってくる厄介な存在――のはずだった。
「一ノ瀬さんのこと、好きなんでしょ? 手伝ってあげる」
そう言って始まったのは、恋の応援か、それとも別の何かか。
これは、一ノ瀬雫への恋をきっかけに始まる、
高居宙と三間坂雪の、少し騒がしくて少し甘い学園ラブコメディ。
隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが
akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。
毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。
そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。
数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。
平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、
幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。
笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。
気づけば心を奪われる――
幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる