53 / 80
7.わかったかもしれません。
2
しおりを挟むホームのギリギリのところにしゃがんで動かなくなってしまった由井くんを心配していたら、わたしの行動を不審に思ったのか、駅員さんに声をかけられた。
「危ないから下がって」と言われたあと、学校や名前、そこでなにをしているのかと立て続けに質問されて、ちょっと焦った。
由井くんの姿が見えない駅員さんには、わたしが駅のホームから線路に飛び込もうとしているように見えたんだと思う。
由井くんの震えは止まらないし、駅員さんには変な疑いをかけられて親と学校に連絡されそうになるし……。ごまかすのが、いろいろと大変だった。
駅に停車した電車を何本も見送って、ようやく由井くんの震えが落ち着いたときには、わたしも心底ほっとした。
「とりあえず、由井くんと無事に帰って来れてよかったよ」
寝転んだまま由井くんを見上げて笑いかけると、彼が恥ずかしそうに少し目線を逸らした。
「よかった、って……。衣奈ちゃんは、早くおれに離れて行って欲しいんじゃないの? あのとき、駅のホームにおれを置いてってれば、離れられたかもしれないよ」
由井くんに指摘されて、ハッとする。
言われてみれば……。
あのときの由井くんは、わたしから完全に意識が逸れていたし、わたしがどれだけ声をかけても反応しなかった。
パニック状態の彼からそっと離れて電車に乗ってしまえば、もしかしたら由井くんと離れることができていたのかもしれない。
でも……。
ずっと由井くんと離れたいと思っているのに、あのときはそんな作戦、思いつきもしなかった。
「だって、あんなふうにパニックになってる状態の由井くんを置いてけないよ。わたし、そこまで非道じゃない」
「そんなこと言って……。だから衣奈ちゃん、おれみたいなのにつきまとわれちゃうんだよ……」
由井くんがふいっと横を向いて、ボソボソと何か言っている。その横顔を見つめながら思った。
「だけどひとまずは、由井くんが生きてるかもってことがわかってよかったよね」
何ヶ月か前に、電車に飛び込みそうになっているところを助けたのに。もしその人が、事故で命を奪われていたとしたらやりきれない。
ポツリとつぶやくと、由井くんがわずかに目を見開く。
事故に遭って入院しているという彼が今どういう状態にあるのかはわからないし、なぜ彼がユーレイのような状況になっているのかもわからないけど。
意識不明の状態で眠っているってことは、彼の身体はまだ生きている可能性が高いってことだ。
なんらかの理由で彼の意識だけが身体から抜けてきてしまったのだとしたら、きっと元に戻ることもできるはず……。
だけど問題は、由井くんがまだわたしを「好きだ」ってこと以外、なにも思い出せていないってことだ。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません
竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──
彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。
遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。
彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。
……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。
でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!?
もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー!
ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。)
略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
クラスで1番の美少女のことが好きなのに、なぜかクラスで3番目に可愛い子に絡まれる
グミ食べたい
青春
高校一年生の高居宙は、クラスで一番の美少女・一ノ瀬雫に一目惚れし、片想い中。
彼女と仲良くなりたい一心で高校生活を送っていた……はずだった。
だが、なぜか隣の席の女子、三間坂雪が頻繁に絡んでくる。
容姿は良いが、距離感が近く、からかってくる厄介な存在――のはずだった。
「一ノ瀬さんのこと、好きなんでしょ? 手伝ってあげる」
そう言って始まったのは、恋の応援か、それとも別の何かか。
これは、一ノ瀬雫への恋をきっかけに始まる、
高居宙と三間坂雪の、少し騒がしくて少し甘い学園ラブコメディ。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる