今日も、由井くんに憑けられています…!

碧月あめり

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8.約束してくれますか。

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 日曜日の朝。ダイニングでトーストにバターを塗っていると、クレイが「シャーッ」と牙を剥いてきた。

 クレイが今日も警戒しているのは、わたしの後ろにいる由井くんだ。

 由井くんに憑かれたばかりの頃は、顔を合わせる度に毛を逆立てて怒るクレイの姿に落ち込んだけど、毎日のように牙を向けられているうちに、こっちが日常のように感じ始めているから怖い……。

 家族のみんなも、ちょっと前までは、わたしに牙を剥くクレイを見て首をかしげていたのに、最近はもうなにも言わない。

 由井くんを睨んで毛を逆立てるクレイを横目に見ながら、トーストをかじる。

 わたしがゆっくりと朝食を食べていると、いつもはクレイに近付きたくない由井くんから「早く食べて……!」と急かされるのだけど……。

 今日の由井くんは、おとなしい。

 今日だけじゃなく、昨日も一昨日も。

 由井くんはクレイに「シャーッ」と唸られても、聞こえていないみたいにぼんやりとしている。

 何日か前にうちに来たアキちゃんから、自分が自殺しようとしていたのかもしれないという話を聞いて以来、由井くんはずっと落ち込んでいるみたいなのだ。

 学校でも家でも、由井くんの本体が入院している病院でも、肩を落として暗ーい顔をしている彼と一緒にいると、わたしまで憂鬱な気分になってくる。

 トーストとミルク多めのカフェオレ。

 そんな簡単な朝食を終えてリビングを出ると、由井くんがフラ~、フラ~と、今にも倒れるんじゃないかと思うくらいの頼りなさでついてきた。

 部屋に戻って机の上に置いていたスマホを手にとったわたしは、地図アプリを開く。


「ねえ、由井くん。今日は気分転換にどこか行こうか」

「え……?」

 わたしの提案に、由井くんが緩慢な動きで顔をあげる。


「水族館とかどうかな?」

 ペンギンの水槽が有名な、うちから一番近い水族館。そのホームページを見せると、由井くんがひさしぶりに、少し笑顔を見せてくれた。
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