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8.約束してくれますか。
7
しおりを挟む「おれ、だめだった……」
「え?」
「衣奈ちゃんに釣り合うようになるために、見た目変えなきゃって頑張って……。でも、見た目変えたって中身はそのままで……。中条たちには逆らえなくて……。逃げるしかできなくて……。その途中に――」
震えながら話す由井くんが、なんのことを言っているのかわからない。
けれど、ぼそり、ぼそりと語られる言葉を聞いているうちに、由井くんがなにかを思い出しかけているのかもしれないと気付いた。
今までどんなことをしても、なにも思い出せなかったのに。どうして急に……。
もしかして、わたしを助けるために力を使ったから……?
その可能性を考えて、サーッと血の気が引いた。
わたしのせいで、由井くんの記憶がおかしなふうに戻っているんだとしたらどうしよう……。
記憶喪失だった人がなにかを思い出すときって、こんなに苦しそうになるの……?
知識がなさすぎて、わからない。
「由井くん、大丈夫だよ。ゆっくり呼吸して……」
由井くんを落ち着かせようと、耳元で声をかける。
だけど、苦しそうに息を吐く由井くんに、わたしの声が届いているのかはわからなかった。
「由井くん、大丈夫……?」
今すぐ震える由井くんの手に触れて、できればきつく握りしめたい。それなのに、どうやっても触れられないことを歯痒く思う。
駅のホームで中条瑛士たちに会ったときも、アキちゃんから話を聞かされたときもそうだった。
こんなに近くにいるのに。わたしだけが、うずくまって震える由井くんの姿が視えているのに。
なにもしてあげられない――。
「由井くん……」
どれだけ名前を呼んでも、由井くんの震えは治らない。
「由井くん、由井くん……。わたし、どうしたらいい……?」
泣きそうになりながら呼びかけていると、由井くんがゆっくりと顔をあげた。
「衣奈ちゃん――」
由井くんの唇が、わたしになにか伝えようと震える。だけど、その声はわたしの耳に届かない。
「由井くん、なに……?」
由井くんの口元に耳をよせる。
「衣奈ちゃ……、た……、けて――」
途切れ途切れに聞こえてくる由井くんの声。
「由井くん、でも、わたし――、どうすれば……」
助けを求める由井くんを泣きそうに見つめたその瞬間、由井くんの身体が目の前でぐにゃりと歪んだ。
「え……」
驚いて、息を飲み込む。
そんなわたしの目の前で、まるで煙のように、由井くんが消えた――。
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