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8.約束してくれますか。
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水族館を出て、由井原総合病院の最寄駅に着く頃には、陽が落ちて、あたりがずいぶんと暗くなっていた。
「面会時間、大丈夫かな……?」
由井くんにスマホで時間を見せながら、つぶやく。
まだ面会は可能だと思うけど、あまり長居はできないと思う。
「今日は顔だけちらっと見て、明日また、衣奈ちゃんの学校帰りにゆっくり会いに来ようよ」
自分のお見舞いに対して、由井くんは呑気にそう言うけれど、わたしは少し気が急いていた。
今まで元の身体に戻ることにあまり意欲的でなかった由井くんが、ようやく前向きになってくれた。だから、善は急げというか……。
できるだけ由井くんが前向きな気持ちでいるうちに、由井くん本体と会わせたほうが、元に戻れる確率があがるんじゃないかと思ったのだ。
それに、わたしの気持ちにも少し変化があって。ユーレイ状態の由井くんから早く元の身体に戻ってもらいたいとう気持ちが強くなっている。
『衣奈ちゃん、おれが元に戻ったら、また一緒に水族館デートしてくれる?』
水族館を出てからもずっと、由井くんに言われた言葉がわたしの心を揺さぶり続けている。
ふと見ると、目の前の横断歩道の青信号が、チカチカと点滅し始めていた。
「急ごう、由井くん」
少しでも早く病院に辿り着きたくて、周囲も確かめずに道路へ飛び出そうとした、そのとき。
「衣奈ちゃん……!」
キキーッと耳をつんざくような音が響いて、道路に飛び出そうとした身体が風圧のようなもので歩道側に押し戻された。
びっくりして目を見開いたわたしの前で、交差点を曲がってきたトラックが横断歩道に侵入してくる。
トラックは、そこそこにスピードを出していて、風圧で押し戻されなければ、わたしは轢かれていたかもしれない。
こういうこと、前にもあった。
自転車に乗っていたとき、ぼーっとして電柱にぶつかりかけたわたしを、由井くんが不思議な霊力みたいなもので守ってくれたのだ。
また、助けられた……。
「由井くん……!」
謝ってお礼を言おうと振り向くと、後ろにいるはずの由井くんの姿が見えない。
「由井くん……?」
胸騒ぎに震えながら、きょろきょろ視線を動かすと、少し離れたところで、由井くんがしゃがんでうずくまっていた。
背中を丸めた由井くんは、ホームで中条 瑛士たちに会ったときのように、ガクガクと小刻みに震えている。
「由井くん……!」
慌てて駆け寄ると、由井くんが縋るような目でわたしのことを見てきた。
「衣奈ちゃん……」
わたしに向けて差し出された由井くんの手。震えるその手をつかもうとして、わたしの手が、すり抜ける。
「衣奈ちゃん、怖い……」
由井くんの目が、虚ろにわたしを見つめて揺れる。
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