今日も、由井くんに憑けられています…!

碧月あめり

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8.約束してくれますか。

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「空飛んでるみたいだ……!」

「うん……」

 由井くんの声を聞きながら、気持ちよさそうに泳ぐペンギンを見上げていると、ふいに横顔に視線を感じた。

 振り向くと、由井くんと目が合って。彼が、優しく目を細めて微笑む。


「衣奈ちゃん、今日は連れてきてくれてありがとう」

「うん……」

 由井くんの言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなる。

 アキちゃんに話を聞いたあとから、自分が二度も死のうとしたかもしれないと落ち込んでいる様子の由井くんだったけど……。少しは前向きな気持ちになれてくれるといいな。

 にこりと笑い返すと、由井くんがわたしの手を繋ぐように手を伸ばしてくる。

 体温も、質感もない。だけど、その仕草だけで、彼にほんとうに触れられたような気がして胸が騒いだ。

「由井くん……?」

「衣奈ちゃん、このあと、病院に寄ってもいい?」

「え?」

「おれ、今日、衣奈ちゃんとここに来てすごく楽しかった。だから、早く自分のことちゃんと思い出して、元の身体に戻りたい。衣奈ちゃんとの次のデートは、こんな誰にも見えない身体じゃなくて、ほかの人からも衣奈ちゃんデートしてるのがちゃんとわかってもらえるようにしたい。衣奈ちゃん、おれが元に戻ったら、また一緒に水族館デートしてくれる?」

 わたしにしか聞こえない、由井くんの声。

 その声に胸が揺さぶられて、ドクドクと心音が速くなる。


「おれ、衣奈ちゃんのことだけ覚えてた理由が今、なんとなくわかったかも。おれが元の身体に戻るために、衣奈ちゃんが必要だったんだと思う」

 わずかに首をかしげながら、由井くんが微笑む。

 ペンギンの飛ぶ上空から差してくるまぶしい光が、由井くんの半透明の笑顔をゆらめかせる。

 由井くんの笑顔がとても、綺麗だった。綺麗で、綺麗すぎて、息苦しいほどにぎゅっと、胸がせつなくなった。
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