70 / 80
8.約束してくれますか。
由井 周・1
しおりを挟む優秀で容姿の整った兄と違って、おれは地味で消極的で口下手で、小さな頃からどちらかと言うといじめられ体質だった。
小学校低学年の頃は、同じ学校に在籍していたちょっと過保護気味な兄に守られてイジメにあうことはなかったけど、ひとたび兄が卒業すると、同級生の主に男子から、物を隠されたり、仲間はずれにされたり……、そういう嫌がらせを受けることが多くなった。
背が高くて成績やスポーツも万能だった兄と違って、おれは骨が細くて色白で、男にしては頼りない見た目だったし。他の子どもに強く言われたら、怖くていつも逆らえなかった。
だから、受験して青南学院の中等部に入ってからも、そのままエスカレーター式で高等部に進学してからも、クラスの中心人物的な生徒にはなるべく近付かないように気を付けていた。
友達はあまりいなかったけど、カースト上位の生徒に目を付けられないように気を付けていれば、それなりに平和な学校生活を送ることができる。
伸ばした前髪で顔を隠して、必要なこと以外はしゃべらず、クラスメートたちから無害だと思われるように心がけて。
そうやって、地味に、静かに、海の底で呼吸をするように過ごしてきたのに……。
高校一年の終わり頃、同級生の中条瑛士に目を付けられた。
「お前、由井原総合病院の息子なんだってな」
教室でいきなり足を引っかけられて転び、驚くおれを見下ろして、中条瑛士がニヤリと笑う。
その瞬間、頭のなかに試合終了のゴングが響き、おれが守ってきた平穏が崩れた。
青南学院は中高一貫の進学校で、おれも含めて高等部にいる生徒の7割は中学受験で入った内部組。
中条瑛士は高校から入ってきた外部組で、成績はよかったが、素行は悪かった。
中条の父親は市議会議員で、うちの学校の卒業生。母親は、PTA関係の役員。
学校にも多額の寄付をしているという中条の家は裕福だったはずだし、中条自身も特に不自由のない暮らしをしてきたはずだ。
だから、このあたりでそこそこ大きい病院の息子であるおれに目を付けたのは、きっとただの暇つぶし。
ほとんど無理やり中条と連絡先を交換させられたおれは、それ以来、中条とその仲間にしょっちゅう呼び出されて、金をとられたり、殴られたりした。
両親が病院の仕事で家を開けることが多かった分、兄の亨は面倒見が良かった。
というより、おれに対してかなり過保護で。
おれがたまにケガして帰ってくることや、親が銀行に貯めてくれていた貯金をしょっちゅうおろしていることに気が付いていた。
兄は「困ってることがあるなら言え」と、何度も言ってきたけど、おれは中条たちのことを兄には相談しなかった。
高校生になってまで、兄に守ってもらわなきゃいけないなんて情けないと思ったし、医学部に入って勉強も忙しくなった兄に迷惑をかけたくなかった。
だけど、中条たちの嫌がらせにひとりで耐え続けるのはやっぱり苦しくて……。
高二の一学期が始まって少しした頃、限界がきた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません
竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
クラスで1番の美少女のことが好きなのに、なぜかクラスで3番目に可愛い子に絡まれる
グミ食べたい
青春
高校一年生の高居宙は、クラスで一番の美少女・一ノ瀬雫に一目惚れし、片想い中。
彼女と仲良くなりたい一心で高校生活を送っていた……はずだった。
だが、なぜか隣の席の女子、三間坂雪が頻繁に絡んでくる。
容姿は良いが、距離感が近く、からかってくる厄介な存在――のはずだった。
「一ノ瀬さんのこと、好きなんでしょ? 手伝ってあげる」
そう言って始まったのは、恋の応援か、それとも別の何かか。
これは、一ノ瀬雫への恋をきっかけに始まる、
高居宙と三間坂雪の、少し騒がしくて少し甘い学園ラブコメディ。
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる