今日も、由井くんに憑けられています…!

碧月あめり

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8.約束してくれますか。

由井 周・2

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 学校から家に帰る途中の乗り換え駅。その日も中条たちに嫌がらせを受けたおれは、ホームの3両目の乗り場の一番前の列に立って、ぼんやりと電車を待っていた。

 反対車線の電車が、ゴーッと音をたてて駅に入ってくる。

 電車のライトがパーッと目にまぶしくて、頭が少しフラフラする。

 電車のライトを見ていると、すぅーっと線路のほうに吸い込まれてしまいそうな心地がしてきて、足が片方前に出る。

 気付けばおれはホームの白線の外側に立っていた。

 このまま、ホームの向こう側に行けば……。

 その日のおれは、ひどく疲れていて、ふと思いついた自分の考えが魅惑的なものに思えた。

 さらに一歩足が前に出て、ゆらり、身体が動く。

 靴のつま先がホームの外側に少しはみ出しかけたとき、急に自分の行動に背筋が凍り、足がすくんだ。

 おれ、何しようとしてた……?

 ホームからはみ出しかけていた足を、一歩引く。

 頭が少し冷静になると、どっと恐怖が襲ってきて。膝からガクンと力が抜けた。

 その場にうずくまると、身体がガクガクと震え始める。


「大丈夫ですか……?」

 しゃがみ込んで動けなくなってしまったおれに声をかけてくれたのは、その駅にある公立高校の制服を着た女の子だった。

 なんの面識もないはずのおれの手に、そっと手を重ねた彼女は、ゆっくりとした口調で話しかけてきた。


「君は嫌かもしれないけど、離せないよ。あっちに座って、なにか飲み物でも飲もうよ」

 線路に落ちるかもしれないすれすれのところでうずくまっていたおれのことを、彼女がどんなふうに思ったのかはわからない。

 だけどおれは、膝を抱えて震えていた手を握ってくれた彼女の手の温もりに救われた。

 それ以降、よく電車で彼女を見かけるようになった。

 もしかしたら前から同じ電車を利用していたのかもしれないけど、助けてもらったあの日から、彼女はおれの中で特別になった。

 でも、彼女のほうは、たまに電車で乗り合わせるおれのことに気付いていないみたいだった。

 助けてもらったときに、ろくにお礼も言えなかったし。見た目がダサくて地味な自分が、彼女の視界に入れてもらえるはずもない。

 だからいつも、少し離れたところから彼女のことをそっと見ていた。

 中条たちの嫌がらせは続いていたけれど、たまに電車で見かける彼女の存在が、おれの心を救ってくれていた。

 彼女の名前は、偶然電車に乗り合わせたときに彼女と一緒にいた男が「衣奈」と呼んでいるのを聞いて、初めて知った。

 その男は、背が高くて、日に焼けた肌が健康的で、明るい笑顔の爽やか高校生だった。

 彼氏なのかな……。

 面識のないおれなんかを助けてくれた衣奈ちゃんは優しいし、かわいい。

 彼氏がいたっておかしくない。

 だけどそう思うと、胸の中が苦しくてぐちゃぐちゃに掻き乱された。
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