【R18】僕は彼女としたいだけ 微妙なリケジョに振り回される

さんかく ひかる

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二章 僕は彼女を離さない

27 来訪者の正体

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 父にインターフォンモニターの設置を頼んだが、失敗に終わった。それは初めから期待していなかった。あの男に成績が知られたことの方がきつい。
 父から誤字でめちゃくちゃなLINEトークが入ったが、以後コンタクトはなかった。もう彼に用はない。モニターがなくても、あのピンポンを鳴らした人間は、おおよそ見当がつく。

 このマンションはオートロックで、カードキーがないと入れない。キーは住民とマンションの管理人しか持っていない。
 外部の来訪者は、マンションのエントランスで部屋番号を押す。部屋の住民は来訪者とスピーカー越しに話し問題ないことを確認する。部屋の主がエントランスのロックを解除して、ようやく来訪者は中に入れるのだ。
 しかし、僕があいらと過ごしている時になったチャイムは、僕がエントランスを解除していないのに鳴った。
 エントランスのロックを解除していないのに訪れる者……マンション関係者の可能性が高い。

 マンションの管理事務所に、僕の部屋を訪ねたか問い合わせた。
 答えはノーだった。急ぎの場合は直接訪ねるが、基本は、事前に電話やメールで連絡を入れるとの答えだった。
 それなら来訪者はマンションの住民だろう。住民の中で一番可能性の高い人に、僕は会いに行った。


M>こんにちは。元気ですか(^-^)

A<こんにちは。元気ですよ(^▽^)/

M>よかった。久しぶりですね(^▽^)/

A<前期の成績はどうでした?(^-^)

M>聞かないでください(-_-;)


 馴染みの研究室をバックにして、白いゴシック文字が浮かんだ。
 僕、そして、となりの部屋にいる人の考えと気持ちが、表示される。
 LIENのトークと似たような文字の羅列だが、僕も相手も、指で文字をタップしたり、マイクに話しかけたりはしていない。
 静かに佇み、考えるだけ。口にならない思いを伝えて、口にならない思いを受けとめる。

 前期試験が終わり、僕はまた魔法使いの修業を始めた。正確には、鍛えるのは僕の魔法力ではなくコンピュータの演算力。
 カチャっと研究室のドアが開き、修士の先輩が入ってきた。この研究室の人間ならお馴染みの魔法使いのコスプレのほか、黒いグラスをかけている。

「やったねー! テレパシー実験、大成功!!」

 同じマンションに住むおばさんであり、情報工学科の葛城奈保子准教授が、手をパチパチと叩いた。


 僕は今日、研究室に入るなり、右の手のひらに3cm四方のオレンジ色のシートを貼り付けられ、黒いサングラスを掛けさせられた。脳波測定ヘッドギアも当然被らされる。
 グラスに映し出された映像は、研究室の白いテーブルと文字列。考えが文字になって現れる。言葉だけではなく心の状態が顔文字となって表現される。心の状態は、脳波だけではなく、手のひらの発汗と脈拍から数値化される。顔文字のバリエーションはまだ四パターンらしいが、今後増やしていくとか。

「ありがとう、って、いろいろあるじゃん? 本当に嬉しい時もあれば、社交辞令の時もあるよね」

 実験の後、葛城先生は准教授室でお茶を淹れてくれた。

「社交辞令だとわかったら問題ですね」

「そりゃそーさ。でもこのデバイスは、これから必要なんだ。ニコニコ『ダイジョブ』って笑ってんのに、全然ダイジョーブじゃない人がいるからね」

 先生がクイっと首を傾けた。この能天気なおばさんに似合わない、寂しそうな顔を見せる。さきほどのデバイスを使ったら、涙マークが表示されたかもしれない。
 が、僕は深入りせず、次の話題に移った。マンションの住民に確認したいことがあるのだ。

「葛城先生、僕の部屋に来たことあります?」

 先生の眼が、寂しさから疑いに変色した。


 マンションの住民で僕を訪ねる可能性が高いのは、葛城先生だ。

「あるわけないよ。君が訪ねてきたことはあったけどね」

 即座に否定された。恥ずかしい思い出を持ち出される。

「う、うわあ、あの時はすみませんでした」

 この人との出会いを思い出スト顔が赤くなる。デバイスをつけたら、汗マークが表示されただろう。
 篠崎あいらを初めて抱いた日。彼女を追いかけた帰り、マンションのカードキーを忘れたため締め出された。帰ってきたこの人のお陰で僕は部屋に入れたのだ。お礼に余ったケーキを持っていった。

「三好君、前にも言ったけど、夏休み、実家に帰った?」

「あ、え、いえ、忙しくて……」

「君んち、一時間ぐらいで帰れるんだよね? うちの大学、もっと遠くから通ってる子もいるんだよ。土日ぐらい帰ってあげなよ」

 時々実験に参加しているだけの准教授に、そこまで言われなければならない? デバイスがあれば、怒りの文字マークを投げつけてやりたいところだ。

「先生、僕は前期試験で失敗しました。もっと勉強したいので家に帰る暇ないんです」

「それならそれで、おかーさんに電話でもメールでもいいから、ちゃんと言うんだよ」

 前に研究室を訪ねたときも、この人は『親に心配かけるな』と説教をしてきた。大学とは学問追及の場であって、道徳教育を受けるところではない。これだからおばさんは、とデバイスがあったら叱られそうな言葉が浮かぶと同時に、四か月も顔を見ていない母を思い出した。

 母はマンションの住民に僕のことを頼むと挨拶した。そもそも僕があのマンションに住んでいるのは、住民に工業大学の准教授がいたからだ。母は、僕の入居時だけでなく、何度も葛城先生を訪問し「女の子を連れ込んでいないか」と尋ねていた……。

「先生、母に僕のこと、なにか言いましたか!」

 反射的に僕は立ち上がった。

「落ち着きなって! あたしはなにも言ってないって! でもさ」

 先生はポケットから自分のスマホを取り出した。

「今は、遠く離れたって、いつでも顔を見ておしゃべりできる時代なんだよ。なのに、せっかくいいデバイスがあっても使わなきゃ意味ないじゃん!」

 紫色に輝く薄い直方体を、ビシッと突きつけられた。
 来訪者の正体が判明した。
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