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三章 僕は彼女に知らせたい
52 計画実行 ※R
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篠崎あいらが、僕のベッドに沈み込んでいる。
「水、持ってきたよ。気分どう?」
「ありがとう。三好君、王子様だね」
また『王子』と言われたがサラっと流し、彼女の頭を撫で、額にキスをした。
そのまま自然にベッドにもぐりこみ、彼女を抱き寄せる。
柔らかな唇を吸い取った。二か月ぶりのディープキス。彼女は抵抗することなく舌を絡めてきた。
アルコールの作用か、あいらは『危険日』ということを忘れ、僕の首に両手を回してきた。
彼女の大きな胸に顔をうずめ、久しぶりに柔らかな弾力を味わう。「あ……ふふ…う……」言葉ではない囁きが、耳をくすぐった。
「へへ……赤ちゃんできちゃう……」
危険日のことを思い出したようだ。が、酔った彼女に僕の腕を阻む力はなく、なすがままだ。
「大丈夫だよ。そこまではしないから」
ごめん、あいら。今回は、何もつけないでそのまま進むよ。
その後は? 子供ができて彼女が泣きついても、僕は知らない。僕の父に助けを求めたりはしない。「宗太の子じゃないのか?」と突っぱねるだけだ。
「赤ちゃん……かわいいよね」
僕の背中を撫でまわしながら、呟いている。
そうだ、僕と君の子だ。かわいいに決まっている……でもあいら、一人で親をするのは大変だよ。僕には関係ないが。
「赤ちゃん、できるといいなあ」
僕のシャツの中に指が侵入し、胸の突起をいじり出した。久しぶりの刺激に自分を忘れ声が漏れてしまう。
「三好君のエッチな声、好き」
何かがおかしい。計画通りのはずなのに。シャツのボタンがあっという間に外された。柔らかい唇が胸に押し当てられる。
両脚が僕の腰に絡みついてきた。
おかしい。酒のせいか? 彼女はこんなに積極的だったか?
「ここで、赤ちゃんできるんだよね」
ズボンの上から膨らみをギュッと捉えられた。
不意に襲ってきた快楽! おかしい、何かが間違っている!
僕は反射的にベッドから飛び出した。
「何するんだ!」
「赤ちゃん、作らないの?」
あいらはポカンと僕を見つめていた。
「大学一年で子供作ってどーするんだよ!」
僕は、あいらを妊娠させるつもりで計画を仕組んだ。彼女を苦しめるために。が、この計画は、正しかったのか?
「がんばって大学入ったんだろ!!」
「大学の勉強、もう着いていけない……だから三好君の赤ちゃん、欲しいの」
「やめてくれ! 僕は博士になりたい!」
「大丈夫、迷惑かけないから。私ひとりでお母さんになる」
「ひとりで親なんて無理に決まってるだろ!」
「無理じゃないよ。私のお母さんと同じだもん」
篠崎あいらは、どこかおかしい。この計画は、大前提から違っていたのでは?
「本当の父の写真見たけど、カッコ良かった。先祖は江戸時代の庄屋さんで、今は地元のスーパーの社長だって……」
僕は、シャツのボタンを閉じて後ずさりする。
「本当に私、お母さんに似てる。王子様が好き」
「僕は王子じゃない!」
「ううん、王子様。私の話、いっぱい聞いてくれたもん。嬉しかった。私をわかろうとしてくれたんだね。でもね……」
その先は、聞きたくない。聞くべきではない。が、僕はドアの前で立ち尽くすしかなかった。
「すごいタイミングなの。赤ちゃんできるチャンスと思った。ひどいよね、私」
僕は復讐のための計画を練った。計画は順調に進んだ。
そう、順調すぎるほど順調だった。
なぜなら彼女も妊娠を望んでいたから。
「三好君の赤ちゃんなら、かわいくて頭いいよね。その子と二人で生きていくの……お父さん、すごいイケメンで優しい人だよって教えてあげる……」
あいらはベッドから起き上がった。ゆっくりゆっくりと僕に近づいてくる。
「雅春君……」
下の名前を聞くのは二度目だろうか。堀口宗太のことは、下の名で呼び捨てにしているくせに。
「最後の思い出欲しいなあ」
ワンピースのボタンが一つずつゆっくりと外された。ブラに覆われた大きな胸。
ドアを背に僕はただの石像と化す。
いや、自分の両腕は脊髄反射的に伸び、彼女の乳房をブラ越しにまさぐり始めた。
誰だ? 僕の意志とは別の何かが支配し、僕を動かしている。全宇宙の物体に無限に働く万有引力。物体である以上、この例外から誰も逃れることはできない。
「あ、ああ、雅春君……もっと……して……嬉しい……」
ブラとパンティだけになったあいらが、僕の背中に両腕を伸ばし、全身を押し付けてきた。
彼女は酔っている。明日には後悔するに違いない。子供ができて苦しむのは彼女だけ。僕は関係ない。
また僕はシャツを脱がされた。胸元に唇を押し付けられる。
「へへ、お父さん、怒るかなあ? お母さんと同じことしちゃって」
――お父さん? この「お父さん」とは、あいらの実の父ではなく、育ての父だ。あいらの母の元教師で、今は不倫相手だ。
「私……貧乏でもお父さんとお母さんがいて、やっぱ楽しかった。だから、これからも大丈夫だよ」
彼女の甘美な攻撃に酔いしれながら、未来の光景がよぎる。
あいらと彼女の母がそっくりなら? 彼女に子供ができても……親一人、子一人じゃない! 別の男がいるに決まっている! あいらの母のそばに男がいるように。
――あいつだ! 堀口宗太だ! 宗太が、あいらと僕の子の三人で、本当の家族のように暮らしている……ダメだ! そんな未来は認められない!
僕の計画は、篠崎あいらを苦しめること。彼女をあんなやつと幸せになど、させるものか!
「やめろ、酔っ払ってんだろ!」
全身全霊で彼女の体を引きはがし、ドアを開けた。
「僕はもう寝る! あいらももう休むんだ!」
ふと、むき出しの僕の背中に柔らかな指先の感触を覚えるが、肩をゆすって払い落とす。
「失敗かあ。へへ、勉強ダメで、無理な人を好きになって……せめて特別な赤ちゃん、欲しかった……う、ううっ……」
彼女は床で泣き崩れているのだろうか。が、僕は誘惑を振り切るのが精いっぱいで、振りかえって慰める余裕はない。
寝室のドアを閉め、リビングのロングソファに、僕は身を沈めた。部屋からすすり泣き声が聞こえてきたので、ヘッドフォンを取り出す。
普段は見ないバズる系の動画を8Kテレビでサーフィンし、夜を明かした。
「水、持ってきたよ。気分どう?」
「ありがとう。三好君、王子様だね」
また『王子』と言われたがサラっと流し、彼女の頭を撫で、額にキスをした。
そのまま自然にベッドにもぐりこみ、彼女を抱き寄せる。
柔らかな唇を吸い取った。二か月ぶりのディープキス。彼女は抵抗することなく舌を絡めてきた。
アルコールの作用か、あいらは『危険日』ということを忘れ、僕の首に両手を回してきた。
彼女の大きな胸に顔をうずめ、久しぶりに柔らかな弾力を味わう。「あ……ふふ…う……」言葉ではない囁きが、耳をくすぐった。
「へへ……赤ちゃんできちゃう……」
危険日のことを思い出したようだ。が、酔った彼女に僕の腕を阻む力はなく、なすがままだ。
「大丈夫だよ。そこまではしないから」
ごめん、あいら。今回は、何もつけないでそのまま進むよ。
その後は? 子供ができて彼女が泣きついても、僕は知らない。僕の父に助けを求めたりはしない。「宗太の子じゃないのか?」と突っぱねるだけだ。
「赤ちゃん……かわいいよね」
僕の背中を撫でまわしながら、呟いている。
そうだ、僕と君の子だ。かわいいに決まっている……でもあいら、一人で親をするのは大変だよ。僕には関係ないが。
「赤ちゃん、できるといいなあ」
僕のシャツの中に指が侵入し、胸の突起をいじり出した。久しぶりの刺激に自分を忘れ声が漏れてしまう。
「三好君のエッチな声、好き」
何かがおかしい。計画通りのはずなのに。シャツのボタンがあっという間に外された。柔らかい唇が胸に押し当てられる。
両脚が僕の腰に絡みついてきた。
おかしい。酒のせいか? 彼女はこんなに積極的だったか?
「ここで、赤ちゃんできるんだよね」
ズボンの上から膨らみをギュッと捉えられた。
不意に襲ってきた快楽! おかしい、何かが間違っている!
僕は反射的にベッドから飛び出した。
「何するんだ!」
「赤ちゃん、作らないの?」
あいらはポカンと僕を見つめていた。
「大学一年で子供作ってどーするんだよ!」
僕は、あいらを妊娠させるつもりで計画を仕組んだ。彼女を苦しめるために。が、この計画は、正しかったのか?
「がんばって大学入ったんだろ!!」
「大学の勉強、もう着いていけない……だから三好君の赤ちゃん、欲しいの」
「やめてくれ! 僕は博士になりたい!」
「大丈夫、迷惑かけないから。私ひとりでお母さんになる」
「ひとりで親なんて無理に決まってるだろ!」
「無理じゃないよ。私のお母さんと同じだもん」
篠崎あいらは、どこかおかしい。この計画は、大前提から違っていたのでは?
「本当の父の写真見たけど、カッコ良かった。先祖は江戸時代の庄屋さんで、今は地元のスーパーの社長だって……」
僕は、シャツのボタンを閉じて後ずさりする。
「本当に私、お母さんに似てる。王子様が好き」
「僕は王子じゃない!」
「ううん、王子様。私の話、いっぱい聞いてくれたもん。嬉しかった。私をわかろうとしてくれたんだね。でもね……」
その先は、聞きたくない。聞くべきではない。が、僕はドアの前で立ち尽くすしかなかった。
「すごいタイミングなの。赤ちゃんできるチャンスと思った。ひどいよね、私」
僕は復讐のための計画を練った。計画は順調に進んだ。
そう、順調すぎるほど順調だった。
なぜなら彼女も妊娠を望んでいたから。
「三好君の赤ちゃんなら、かわいくて頭いいよね。その子と二人で生きていくの……お父さん、すごいイケメンで優しい人だよって教えてあげる……」
あいらはベッドから起き上がった。ゆっくりゆっくりと僕に近づいてくる。
「雅春君……」
下の名前を聞くのは二度目だろうか。堀口宗太のことは、下の名で呼び捨てにしているくせに。
「最後の思い出欲しいなあ」
ワンピースのボタンが一つずつゆっくりと外された。ブラに覆われた大きな胸。
ドアを背に僕はただの石像と化す。
いや、自分の両腕は脊髄反射的に伸び、彼女の乳房をブラ越しにまさぐり始めた。
誰だ? 僕の意志とは別の何かが支配し、僕を動かしている。全宇宙の物体に無限に働く万有引力。物体である以上、この例外から誰も逃れることはできない。
「あ、ああ、雅春君……もっと……して……嬉しい……」
ブラとパンティだけになったあいらが、僕の背中に両腕を伸ばし、全身を押し付けてきた。
彼女は酔っている。明日には後悔するに違いない。子供ができて苦しむのは彼女だけ。僕は関係ない。
また僕はシャツを脱がされた。胸元に唇を押し付けられる。
「へへ、お父さん、怒るかなあ? お母さんと同じことしちゃって」
――お父さん? この「お父さん」とは、あいらの実の父ではなく、育ての父だ。あいらの母の元教師で、今は不倫相手だ。
「私……貧乏でもお父さんとお母さんがいて、やっぱ楽しかった。だから、これからも大丈夫だよ」
彼女の甘美な攻撃に酔いしれながら、未来の光景がよぎる。
あいらと彼女の母がそっくりなら? 彼女に子供ができても……親一人、子一人じゃない! 別の男がいるに決まっている! あいらの母のそばに男がいるように。
――あいつだ! 堀口宗太だ! 宗太が、あいらと僕の子の三人で、本当の家族のように暮らしている……ダメだ! そんな未来は認められない!
僕の計画は、篠崎あいらを苦しめること。彼女をあんなやつと幸せになど、させるものか!
「やめろ、酔っ払ってんだろ!」
全身全霊で彼女の体を引きはがし、ドアを開けた。
「僕はもう寝る! あいらももう休むんだ!」
ふと、むき出しの僕の背中に柔らかな指先の感触を覚えるが、肩をゆすって払い落とす。
「失敗かあ。へへ、勉強ダメで、無理な人を好きになって……せめて特別な赤ちゃん、欲しかった……う、ううっ……」
彼女は床で泣き崩れているのだろうか。が、僕は誘惑を振り切るのが精いっぱいで、振りかえって慰める余裕はない。
寝室のドアを閉め、リビングのロングソファに、僕は身を沈めた。部屋からすすり泣き声が聞こえてきたので、ヘッドフォンを取り出す。
普段は見ないバズる系の動画を8Kテレビでサーフィンし、夜を明かした。
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