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1章 はじまり
2話 異様な車内
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「?」
あれから、晴柊は?を浮かべた顔のまま、気付けば階段を降りて、気付けば高そうな車に乗って、気付けば左にさっきの男、右に部屋にいたうちの男の1人に挟まれていた。そして車がどこかに向かって発進する。最初は今から埋められるところにでも連れていかれるのかとも考えたが、拘束も何もなければ、眠らされたりもされていない。あと暴力も振るわれていない。
「え、なんで?」
遂に声がでた。頭で処理しきれない言葉が口になって出ていた。
「今から俺の家に行く。といっても、ほぼ使っていない物置のようなところだがな。ああ、それからもう一人で外出はできないものと思えよ。一応、しばらくの間は家の中でも拘束することになるけど、いい子にしていれば直に外すことも考える。」
「いや、そうじゃなくて。」
「他に、何か?」
いや、もっとあるだろ!と叫びたくなった晴柊だったが、ぐっと堪える。先ほどは取り乱してしまったが、普段はそんなこと滅多にないのだ。晴柊は昔から、自分の我慢強さには自信がある。
「殺さないの?臓器、売るんじゃないの?」
「そのつもりだったけど、気が変わったって言っただろ。お前を飼い慣らしてみたい。俺が飽きたら殺してやるから、そんなに死にたいなら焦らなくてもいい。」
普通に考えれば非道徳的な発言極まりないのだが、そもそも相手にしてるのは道徳心をもった人間たちではなかったと思い起こす。先ほどの情報も併せて整理すると、どうやら臓器売買は見送りで、今からコイツの家に連れて行かれて監禁されるらしい。それでもまだ疑問だらけの晴柊は、更に尋ねようとする。
「あのさ、」
「テメェ、さっきから聞いてれば組長になめた口ばっか聞きやがって!この方が誰かわかって喋ってんのか!?ああ゛!?」
前方で車を運転している男が、急に大きな声を挙げた。先ほど部屋にいた一人であったが、周りに比べて細身であるのに加え、顔立ちと長髪を括るヘアスタイルがどこか中世的で、外見からの威圧は感じられないと思っていた。
が、口を開けばやはりヤクザ。組長と呼ばれるこの男にタテをつくことができた晴柊もあの時は所謂「アドレナリン放出状態」だったわけで、普段の晴柊はその辺のチンピラにも怖がるタチだ。晴柊が運転手の圧に押され思わず縮こまっていると、左に座っていたこれまた部屋にいた男のうちの1人が、目の前の運転席の座席を勢いよく蹴った。
「うるせえ。」
その衝撃で車が揺れる。晴柊は自分が原因で問題が起こることに後ろめたさを感じ、更に肩をすぼめるようにして大人しくした。そうは言われても、誰かわかってはいないのだ。この左に座っている男がどこかのヤクザの組長なのは運転手の男の発言からも出で立ちからも理解できるが、名前も、年齢も、組のことも、何も知らないのだ。すると、「組長」の男が異様な空気をまた締めるように発言した。
「騒ぐな、篠ケ谷。今日からコイツは俺の犬。つまり、俺のモノ。その意味がわかるな?」
「……うっす。」
つまり、組員にとって、晴柊は組長が手放すまで「守るべき対象」であり、「組長のお膝元」であるのだ。組長の許可なく下手な扱いはできない。晴柊自身がそれを理解してはいないが、組員達にとっては暗黙の了解である。犬、と呼ばれたことにムッとしかけた晴柊だったが変にタテをついて先ほどのような展開になるのも億劫だったので発言することをやめた。
「組長」と呼ばれる男は、窓の外をじっと見つめていて、もう片隣りの男もまた、真っ直ぐ前をみて何も言葉を発さない。篠ケ谷と呼ばれた運転手の男はバツが悪そうに落ち着かない様子で、時折バックミラー越しに晴柊を睨んでくる。この居心地の悪さに早く目的地についてくれ、と、まだ何も知らない晴柊は思うのだった。
これから約1か月間、外には出られないことも、それがきっかけとなる事件が起きることも。
あれから、晴柊は?を浮かべた顔のまま、気付けば階段を降りて、気付けば高そうな車に乗って、気付けば左にさっきの男、右に部屋にいたうちの男の1人に挟まれていた。そして車がどこかに向かって発進する。最初は今から埋められるところにでも連れていかれるのかとも考えたが、拘束も何もなければ、眠らされたりもされていない。あと暴力も振るわれていない。
「え、なんで?」
遂に声がでた。頭で処理しきれない言葉が口になって出ていた。
「今から俺の家に行く。といっても、ほぼ使っていない物置のようなところだがな。ああ、それからもう一人で外出はできないものと思えよ。一応、しばらくの間は家の中でも拘束することになるけど、いい子にしていれば直に外すことも考える。」
「いや、そうじゃなくて。」
「他に、何か?」
いや、もっとあるだろ!と叫びたくなった晴柊だったが、ぐっと堪える。先ほどは取り乱してしまったが、普段はそんなこと滅多にないのだ。晴柊は昔から、自分の我慢強さには自信がある。
「殺さないの?臓器、売るんじゃないの?」
「そのつもりだったけど、気が変わったって言っただろ。お前を飼い慣らしてみたい。俺が飽きたら殺してやるから、そんなに死にたいなら焦らなくてもいい。」
普通に考えれば非道徳的な発言極まりないのだが、そもそも相手にしてるのは道徳心をもった人間たちではなかったと思い起こす。先ほどの情報も併せて整理すると、どうやら臓器売買は見送りで、今からコイツの家に連れて行かれて監禁されるらしい。それでもまだ疑問だらけの晴柊は、更に尋ねようとする。
「あのさ、」
「テメェ、さっきから聞いてれば組長になめた口ばっか聞きやがって!この方が誰かわかって喋ってんのか!?ああ゛!?」
前方で車を運転している男が、急に大きな声を挙げた。先ほど部屋にいた一人であったが、周りに比べて細身であるのに加え、顔立ちと長髪を括るヘアスタイルがどこか中世的で、外見からの威圧は感じられないと思っていた。
が、口を開けばやはりヤクザ。組長と呼ばれるこの男にタテをつくことができた晴柊もあの時は所謂「アドレナリン放出状態」だったわけで、普段の晴柊はその辺のチンピラにも怖がるタチだ。晴柊が運転手の圧に押され思わず縮こまっていると、左に座っていたこれまた部屋にいた男のうちの1人が、目の前の運転席の座席を勢いよく蹴った。
「うるせえ。」
その衝撃で車が揺れる。晴柊は自分が原因で問題が起こることに後ろめたさを感じ、更に肩をすぼめるようにして大人しくした。そうは言われても、誰かわかってはいないのだ。この左に座っている男がどこかのヤクザの組長なのは運転手の男の発言からも出で立ちからも理解できるが、名前も、年齢も、組のことも、何も知らないのだ。すると、「組長」の男が異様な空気をまた締めるように発言した。
「騒ぐな、篠ケ谷。今日からコイツは俺の犬。つまり、俺のモノ。その意味がわかるな?」
「……うっす。」
つまり、組員にとって、晴柊は組長が手放すまで「守るべき対象」であり、「組長のお膝元」であるのだ。組長の許可なく下手な扱いはできない。晴柊自身がそれを理解してはいないが、組員達にとっては暗黙の了解である。犬、と呼ばれたことにムッとしかけた晴柊だったが変にタテをついて先ほどのような展開になるのも億劫だったので発言することをやめた。
「組長」と呼ばれる男は、窓の外をじっと見つめていて、もう片隣りの男もまた、真っ直ぐ前をみて何も言葉を発さない。篠ケ谷と呼ばれた運転手の男はバツが悪そうに落ち着かない様子で、時折バックミラー越しに晴柊を睨んでくる。この居心地の悪さに早く目的地についてくれ、と、まだ何も知らない晴柊は思うのだった。
これから約1か月間、外には出られないことも、それがきっかけとなる事件が起きることも。
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