狂い咲く花、散る木犀

伊藤納豆

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4章 花ひらく

47話  アルコール

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「ハルヒ、細いのにたくさん食べるねえ。」

「食べること好きだからなぁ。琳太郎のところに来てからは美味しいものいっぱい食べさせてくれるから、ちょっと太ったかも。」


晴柊はウィリアムに勧められたピックに刺さったミニハンバーグの様なものを頬張っていた。異様なパーティーに咲く2輪の花のように、晴柊とウィリアムの周りにだけお花畑が咲いている様だった。


「え、そうなの?あーでも確かに、腰とか細いけど、この辺はそれに比べたらむっちりしてるもんね。いいカラダじゃん!」

「ぅわっ!?」


そう言うと、晴柊の尻をウィリアムが鷲掴みにした。晴柊は思わず大きめの声を出し、すぐに口を抑えるようにして声を抑えた。確かに尻と太腿は肉付きが良く柔らかいのは自覚があるのだった。太るとまずその辺りに肉がつくため、晴柊は多少なりとも気にしているのだった。


しかし、晴柊はそんなコンプレックス一歩手前のことに触れられたことよりも、公衆の面前で尻を掴まれたことに恥ずかしくなり、耳までかぁっと赤くしていたのだ。外国人の距離感の詰め方といい近さに晴柊はまだ慣れないでいるのだった。


「おい餓鬼共、騒ぐんじゃねえ!!」

「そういうお前がうるさい。晴柊がコミュニケーション取ってるんだ。邪魔すんな。」

「だから琉生、テメエはこいつのこと甘やかしすぎてキメエんだよ!」


また2人が喧嘩を始めた。晴柊はごめんね、いつもこうなんだとウィリアムに苦笑いして謝った。こういうパーティーの場でも2人の仲の悪さは発揮されてしまうのであった。琳太郎がこのペアをチョイスしたことは失敗だったのではないか、と思わざるを得なかった。


「あはは、賑やかでイイね!ね、ね、晴柊!これも美味しいよ、飲んでみて!」

「あ、うん!」


喧嘩する2人をよそに、ウィリアムはピンク色の液体が入ったグラスを晴柊に渡した。僅かに泡立っていて、その可愛らしい色からも炭酸ジュースを彷彿とさせた。晴柊は甘い香りにイチゴかな?桃かも?と想像を膨らませながらウィリアムからグラスを受け取った。そして、それをゴクゴクと喉に入れた。炭酸独特の刺激と、甘さのみを予想していたが、そんな予想に反した僅かな苦みに晴柊は少し違和感を覚えた。


「美味しい?」

「うん、美味しいね!」

「でしょでしょ!こっちは違うタイプで~…」


ウィリアムが晴柊に勧めたものはアルコールだった。いわゆるシャンパンというやつである。しかし、晴柊は酒を飲んだこともないので、こういう味のジュースなのだろうと勘違いしていた。ウィリアムは勿論晴柊が酒を止められていることも、初めて飲むことも気づいておらず、悪気ナシの100%好意で晴柊に勧めていたのだった。


肝心な時に晴柊から目を離していた遊馬と篠ケ谷をよそに、晴柊が2杯、3杯とシャンパングラスを空にした。少しずつ、晴柊の身体が火照り始める。心なしか頭がクラクラとしてきたが、晴柊は身体が心地い程に身体が熱を持ち始めたことで気分は良かった。


「あ、あれ、ハルヒ、もしかしてお酒弱い…?」

「おい!!アンタ、コイツに酒飲ませたか!?」

「晴柊、危ない。捕まって。」

「え、えぇ、駄目だったの~!?ごめんなさい~!」


ウィリアムが泣きそうな顔で晴柊の異変に気付いた篠ケ谷と遊馬に謝った。2人は琳太郎に口酸っぱく目を離すなと言われていたのに言いつけを破りましてや喧嘩をして目を離して酒を飲ませたという事実に顔が青ざめていくのが分かった。これは説教コースだ、これ以上の失態は許されないと、酔っぱらう晴柊を回収するのだった。


「とりあえず組長のとこ戻るぞ!」

「え、もう?やら……まだシュワシュワしたやつのみたぃ……」

「もう駄目だ。我慢しよう。」

「やだぁ~~~~~!!」


呂律の回っていない晴柊が、まるで赤ちゃん返りしたかのように泣き始める。これではまともに歩いてもくれなさそうだと判断した遊馬は、履きなれないヒールで今にでも転びそうな晴柊を姫抱きすると、そのまま篠ケ谷と急いで応接間で商談をする琳太郎の元へ向かった。そろそろ時間的にも終わる頃合いであろう。ウィリアムとそのボディーガード達も心配するように後をついてきていた。


晴柊をあやすためにとりあえず持たせたその辺のグラスを、晴柊は大事そうに両手で持っていた。飲もうとするともう駄目だと篠ケ谷に止められたのだが、晴柊からグラスを奪おうとするとまたぐずって泣き始めるので、篠ケ谷は仕方なく持たせたまま、それでもこれ以上は飲ませずに応接間へと向かうのだった。晴柊は自分を抱いた遊馬が走り気味に動くので、その疾走感から今度は子供の様にはしゃぎ始めていた。この場で楽しそうなのは晴柊だけである。


「し、失礼します……」

「りんたろぉ~!!」


琳太郎の顔が見られないというように、篠ケ谷が俯き気味に入った。入口付近に立っていた日下部がギョッとしていた。そして明らかに酔っぱらって上機嫌な遊馬に抱えられた晴柊の姿は、篠ケ谷と遊馬が明らかに失態を犯したことが一目瞭然だった。


琳太郎もその様子を見るや否や、どういうことだと言わんばかりに睨みを利かせている。丁度商談は終わったらしく、これが商談中だったと思うと肝が冷えた。


「すいません……ちょっと目を離した隙に…」

「お前らは、お守り一つもまともにできないのか?いっぺん死んどくか。」

「ご、ごめんリンタロウ…!ボクがハルヒに飲ませちゃったんだ…!」


ウィリアムが必死に謝る。愛園は楽しそうにその様子を見ていた。晴柊は自分のことでこんな状況になっているとはまるで思っていないように、ヘラヘラと笑っていた。謝る遊馬から半ば奪い返すように琳太郎は晴柊を抱いた。


「まぁまぁ、何もなかったんだし良いじゃないか。これも社会勉強だ。それにウィルとも仲良くしてくれたみたいだしさ。ホラ、詫びにこれやるよ。せっかくなんだし楽しんで来いよ。」


愛園が場を和ますように琳太郎に何かを投げて渡した。それはこのホテルの部屋のルームキーであった。琳太郎の腕の中で一人楽しそうに笑っている晴柊の頬を赤く染まり、心なしか身体も赤みを帯びているように見える。少し呼吸が浅く、まるで事後のようだった。そして何より、普段よりも素直で色気の増している晴柊に興奮しないわけはなかった。


「りんたろう、おれ、楽しかったよ……おいしいものもいっぱい食べれたし、ウィルともね、なかよくなれたから…えへへ…連れてきてくれてありあと…」


晴柊がへらぁっと力が抜けたような笑顔で琳太郎を見た。この場で晴柊だけが満足そうにしているのだった。心底楽しかったのだろうと、いつになく上機嫌な晴柊をみてこれ以上この可愛い姿を自分以外の人に見せたくないと琳太郎は晴柊を抱いたまま立ち上がると、愛園を見た。


「お前はこういうところには変に気が回るな。有難く使わせてもらうぞ。篠ケ谷、遊馬、お前らは帰ったら説教だ。ここで殺されてなかったこと、晴柊に感謝しろよ。」


それだけ言うと、琳太郎は晴柊を連れ部屋へと向かって行った。愛園が渡したキーの部屋は見事にスイートルームだった。だだっ広い部屋に、高級感のあるシャンデリアがぶら下がっている。豪勢なソファに、都内を一望できる大きな窓ガラス。ネオンが綺麗に輝いていた。


琳太郎は晴柊をそんな部屋のソファにそっと下ろした。晴柊は両手にまだお酒を持っていた。


「約束、破ったな?悪い子だ。」

「やくそく……?はるひはいい子だもん~。」


いじける様に頬を膨らませた晴柊。どうやら約束のことも覚えていなければ、自分が飲んだものがお酒でそれに「酔っぱらっている」という感覚すらわかっていないようだった。晴柊がおぼつかない手で持つグラスを琳太郎が取り上げ、テーブルに置く。


琳太郎は備え付けの冷蔵庫からペットボトルの水を取り出すと、キャップを外し晴柊の手に持たせた。


「水飲め。明日辛くなる。」


晴柊の手元が心配だったので、晴柊の手の上から琳太郎の手を重ね口元にペットボトルを持って行ってあげた。すると、主導していた晴柊の手が急に琳太郎の手に逆らってペットボトルの水をジャバジャバと自分の胸元に垂らした。晴柊の奇行に琳太郎は思わずぎょっとした。晴柊は驚く琳太郎をいつもより艶っぽい視線で見つめる。


「…濡れちゃった。……脱がせて?」


琳太郎のいつもとは違うスーツ姿に当てられた晴柊は、まるで普段の晴柊からは想像できない行動に走っていた。濡れちゃったのではなく明らかに自ら濡らしたのだが、あの晴柊が琳太郎を誘っていることに、琳太郎はそんなことどうでも良くなった。いつでも身体を求めるのは琳太郎からだったので、初めてのことに琳太郎は数秒固まる。晴柊の目が、今すぐ「抱いてほしい」と訴えるように見えた。琳太郎は、手際よく鍵を渡して「せっかくなんだから」と含みのある言い方をした愛園の真意を読み取った。なるほど、変態は本当にこういったところに気が利く。


「どこでそんな誘い方覚えてきたんだ?俺は教えた覚えはないぞ。」


チャイナ服を着て酔っ払い乱れた様子で琳太郎を誘っている目の前の晴柊を見て、琳太郎はこの好機を逃す理由は無かった。

琳太郎は抱く相手に悪趣味なものを着せて興奮する趣味は無かったはずなのだが、晴柊のおかげで何かに目覚めたようであった。晴柊のチャイナ服が水で湿っている。しかし、晴柊の要望通り脱がすことはしなかった。琳太郎はチャイナ服越しに晴柊の乳首をゆっくり指で触れてみる。


「ぅ、っ……ん……♡」

「いつもより気持ちよさそうだな。酒のお陰か?それとも、この服着てるから興奮してるのか?」


サテン生地のチャイナ服はつるつるとした肌触りのせいで、その布越しに触られると直接触られるのとはまた違った気持ちよさが晴柊を襲った。待っていた、と言わんばかりに晴柊が嬉しそうな声を漏らし始める。ソファの手すり部分に晴柊の頭を乗せるようにして、体を押し倒した。ベッドよりは狭く不自由ではあるが、今の琳太郎にはベッドに移動する時間すら惜しかった。


「今日のりんたろー、かっこいい……」


晴柊は、琳太郎の質問に答えた。どうやら、いつもと雰囲気が違う琳太郎の格好を随分気に入っている様だった。いつもより素直な晴柊に琳太郎は気分を良くし、晴柊の濡れている乳首にまだ服を脱がせないまま舌を這わせた。冷たかったはずのところにいきなり熱い舌が触れる。じんわりと熱が広がり晴柊の呼吸が乱れていく。琳太郎もまた、晴柊のチャイナ姿に煽られていた。お互いがいつもと違うお互いに興奮しているのだった。
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