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4章 花ひらく
46話 異国のお友達
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ホテルの会場へと着く。晴柊は、琳太郎に手を差し伸べられ、エスコートされながら車を降りた。晴柊は自分の足元にまだ不安を覚えている。晴柊は9㎝ほどの黒いピンヒールを履いていたのだった。勿論、踵の高い靴など履いたことがなかったわけで、最初は歩くのもやっとであった。なんでこんな歩き辛い靴を、と、出発前リビングで練習する晴柊に琳太郎は「その方がエロい」と謎の押しをしたのだった。篠ケ谷は何故かピンヒールの知識に長けていて、晴柊に色々とレクチャーをしてくれた。
「おら、しゃんとしろ。組長に恥かかせんじゃねえぞ。」
「晴柊、寒くない?」
晴柊に喝を入れる篠ケ谷と対照的に晴柊を心配する遊馬。こんな犬猿の仲ともいえるような2人がペアで大丈夫なのだろうかと晴柊は心配したが、日下部がいることでなんとか均衡を保っている様子だった。
晴柊達一行が車から降りると、一斉に視線を浴びる。それもこれも、琳太郎の凄まじいオーラなのだろう。晴柊もいつもとはまた違う格好よさを放つ琳太郎に見惚れていたので、周囲の反応は納得できる。
しかし、視線は琳太郎の一歩後ろを歩く晴柊にも向けられていた。晴柊は守られるように左を遊馬、右を篠ケ谷、前が琳太郎に後ろが日下部と囲まれていた。まるで視界からできるだけ遠ざけようとするように。高いヒールを履いても晴柊は誰一人にも勝つことができない、それを上回る身長を持つ3人を恨めしく思った。
いくら視線を浴びようとも、琳太郎は動揺していなかった。いつもの無表情で、淡々と歩みを進めている。
エントランス部分から受付を済ませ、スタッフに案内され着いた会場は華やかなものであった。まるで裏社会とはかけ離れた様子である。晴柊は思わずキョロキョロとあたりを見回してしまう。
「す、すごい…」
たくさんのご馳走が並んだテーブルに、煌びやかなドレスを纏った人、スーツ姿の人がたくさんいた。そして、琳太郎がしきりに言っていた、「変態趣向」というのもすぐに理解できた。確かに、ほぼ裸だろうと言わんばかりに露出した服装をしている女性や、メイド服姿の人、男性なのにバニーガールのような恰好をしている人も見受けられたのだ。晴柊は確かに自分は露出が少ない方だと、空気に晒された腕と、スリットから除く自分の脚を見て思うのだった。
「あんまりジロジロ見るな。絡まれるぞ。」
琳太郎がソワソワし始めた晴柊の腰を抱き寄せるようにして引き寄せた。自分のもとから片時も離さない、これは「自分のもの」と周囲にわからせるかのような行動だった。今この状況で自分に絡んでくる勇者などいるはずがないよ、と晴柊は思うのだった。会場のあらゆる人が、琳太郎を見る。そして、後ろの遊馬や篠ケ谷、日下部にも視線が集まる。琳太郎の影にはなりきれないほど、3人の容姿も目立つ者であった。そして、晴柊も。しかし当の本人は鈍感でそれには気付かないのであった。
会場に着いて早々注目を浴びた一行は、琳太郎の腐れ縁でありこのパーティーの主催者であるという男の元へと早速案内された。晴柊は一体どんな人なのかわからないが、早く美味しいもの食べたいなぁと暢気なことを考えていた。琳太郎にとっては仕事をしに来たのであるが、晴柊にとってはそれとは無論関係はなく、ただパーティーを楽しみに来ただけなのだった。
「主催者さんと琳太郎は友達なんだろ?学生時代の同級生とか?」
「ああ、高校時代のな。親ぐるみで関係があるから、切っても切れない関係なんだよ。」
琳太郎がバツが悪そうに喋る。一体どんな人なんだろうなぁと晴柊が考えていると、大きな応接間のようなところに通された。スタッフがノックし挨拶をすると、室内から返答が返ってくる。
そこにいたのは、確かに琳太郎と同い年くらいに見えるソファに座る男性と、その男性の横に座る晴柊よりも小柄な男の子だった。
「久しぶりだな、琳太郎。」
「わざわざこの場所に呼び出すなと毎回言ってるだろ、蓮司。」
2人が悪態をつきながらも、まるでいつもこの調子というように会話が弾む。お互いを下の名前で呼ぶところからも、仲の良さは十分窺える。愛園蓮司(あいぞのれんじ)は琳太郎の高校の同級生で、竜胆会という明楼会と和睦協定を結んでいる組の若頭であった。愛園と琳太郎の父親同士が旧友なのである。愛園は男らしい眉を吊り上げさせ、愛想のいい表情を浮かべている。対して琳太郎は終始「気に食わないやつ」という表情であったが、仲が悪いというよりはむしろこういった関係を築いてきたのだろうと思わせるほど、その会話は心地の悪いものではなかった。
琳太郎が愛園の向かいのソファにどかりと腰を掛けると、晴柊も手を引かれ隣に座らされる。
2人が何か話しているが、晴柊は難しい仕事の話はよくわからない。そのため、隣にいる小柄な男の子のことが気になった。同い年くらいであろうか。日本人離れした綺麗なブロンドの髪と青い目が綺麗だった。どこか日本人らしさも残った顔立ちにハーフなのだろうと見当がつく。お腹周りが大胆に開いた服装で、短いホットパンツからは細い足が伸びていた。晴柊がその子を凝視していると、その子もまた、晴柊をじっと見つめていた。そしてにっこりと微笑み返された。可愛い人だなあと晴柊は思っていると、愛園がそんな晴柊の様子に目を留めた。
「そして、君が噂の晴柊クンかぁ~。俺は愛園蓮司。琳太郎とは昔から何かと縁があってね。よろしく。」
愛園がにっこりと目を細めて晴柊を見た。赤毛に近い髪の毛が似合っていた。綺麗目な琳太郎と比べ、「ワイルド」という印象が強いように思えた。晴柊はぺこりと会釈する。
「琳太郎が妙にご執心だっていうから、会いたかったよ。閉じ込めておきたい気持ちも確かにわかるなぁ。」
「だったら面倒な条件付きで呼び出してくんじゃねえよ。さっさと仕事の話済ませて俺は帰るぞ。」
「まあまあ、晴柊クンだって久しぶりの外出なんだろ。たまにはゆっくり息抜きさせてやればいいじゃないか。」
あんな豚共に観られながら息抜きなんてさせてやれるか、と琳太郎は悪態をついた。パートナー制度も、ドレスコード指定も、無論全て愛園の趣味であった。このパーティーの出席者は裏社会に通ずる芸能関係者、政府関係者、一流企業の社長などで裏の一面を持つ者ばかりである。そういった輩は大抵趣味の悪いペットやら情婦を囲っているものである。そして、そういった「見世物」的楽しみも好むような下衆野郎が多く、それを利用し愛園は楽しんでいた。勿論、それには自分も含んでいるのだった。
琳太郎は特定のパートナーを作らず、あくまでも性欲処理と言わんばかりに次々と女や男を抱いているというイメージだったが、最近ある一人にご執心だという噂を聞きつけていた。それも、まだあどけなさの残る堅気の少年だという情報も。愛園は気になって仕方なかったが、ただでは勿論お目にかかることはできなさそうだったので、このパーティーを利用して琳太郎を晴柊共々呼びつけたのだった。
「晴柊、これから少し話し込む。俺は付いて行ってやれないが、くれぐれも…」
「わかってるって!琉生君とシノちゃんから離れないし、人と喋らないし、ジュースしか飲まない。お仕事頑張ってね~。」
琳太郎が、晴柊を遊馬と篠ケ谷に預けた。晴柊を心配する様な琳太郎をよそに、晴柊はやっと美味しいものが食べられると目をキラキラさせ喜んでいた。日下部と琳太郎を応接間に残し、晴柊はルンルンという効果音が出そうなほど上機嫌にカーペットが引かれた廊下を歩いていた。
「おい餓鬼。はしゃぎすぎんなよ。」
「は~い。」
「晴柊、足元気を付けてね。何食べる?」
晴柊が明らかに浮かれている返事をした。遊馬は篠ケ谷がいることが気に食わないのか、少し機嫌が悪そうだったが、それを誤魔化すように晴柊に話しかけるのだった。篠ケ谷も何故よりによって遊馬と、と思うのだった。先ほどの大きな会場に着くと、晴柊は改めてたくさん並んでいるご馳走に喜んでいる様子だった。
「シノちゃん、琉生くん、凄いね…!あれも、あれも、食べていいの!?」
晴柊が純粋にはしゃいでる様子を見て、遊馬は愛おしそうにその姿を見る。そして、晴柊の好きそうなジュースの入ったグラスをスタッフから受け取ると、晴柊に渡した。
「ああ、どれ食べても良いんだぞ。何が食べたい?」
「えっとねえ、あ、お寿司ある!あっちにあるのはローストビーフかなあ?ケーキも食べたいし…」
「落ち着け。取ってやるから傍から離れんな。」
愛園の言う通りこうして外に出て美味しいものを食べるということ自体、晴柊には縁遠いことであったしあのマンションばかりにいたのだから、たまの息抜きに晴柊がこうして喜んでる姿は篠ケ谷にとっても悪い気はしなかった。ただ、ここにいる連中が良い人ばかりではないため篠ケ谷と遊馬は晴柊をジロジロと見る輩に睨み聞かせながら晴柊のボディーガードという仕事を全うしていた。
篠ケ谷がテキパキと皿に晴柊の食べたいものを乗せ、晴柊はそれを受け取りひたすらに食べる。晴柊は幸せだぁと顔を綻ばせて喜んでいた。両手にイケメンスーツ男を従わせて皿を持たせグラスを持たせという贅沢を味合わせている晴柊はひと際会場内で目立っていた。しかし、先ほどの琳太郎の圧のお陰で誰も寄ってこようとはしない。この世界で薊琳太郎という人物がどれほど有名でどれほど恐ろしいものなのかを象徴している様だった。
「ハルヒ!」
そんなある意味浮いている晴柊が、声を掛けられた。チキンを頬張っていた晴柊の目の前にいたのは、先ほど愛園の横にいたハーフ美少年だった。後ろに屈強なサングラスのボディーガードを連れている。琳太郎に「知らない人と話すな」と言われていたが、この人は愛園のパートナーみたいだし、琳太郎にとっても知らない人ではないから大丈夫だろうと、呼びかけに答えた。
「あ、えっと、さっきの。」
「うん、ボクはウィリアム!ウィルって呼んで。レンジはボクの恋人なんだ。よろしくね。」
人懐っこい笑顔を浮かべ、ウィリアムが晴柊の手を握った。外国人特有の距離の近さに、晴柊は圧倒される。近くで見ると、染めた髪とは違う柔らかさが残った金髪が綺麗だった。吸い込まれそうな青い瞳も、晴柊の真っ黒な髪の毛と目とは対照的だった。ウィリアムが晴柊の顔をじーっと見る。鼻先がぶつかるくらいの距離に、晴柊は思わず頬を赤くさせた。
「ハルヒは本当に可愛いねえ。そりゃぁリンタロウも離したくなくなるよね。あ、そうだ、あっちにあるやつもう食べた?すっごく美味しいんだ!」
流暢だが、少し片言交じりな喋り方がウィリアムの異国感を助長させていた。可愛いものが好きなウィリアムは晴柊のことを一目見て気に入ったようで、握っていた晴柊の手をそのまま引き行こう行こうと足早に違う料理が並ぶテーブルの方へと連れて行った。
「あ、おい馬鹿!勝手に離れるなって!」
篠ケ谷が慌てて晴柊とウィリアムについていった。無邪気なウィリアムに、晴柊は初めて友達ができたようで嬉しかった。ウィリアムは明るく、まるで初対面とは思えないほど晴柊にたくさん喋りかけてくれ、2人の距離が縮まるのには時間はかからなかった。
「おら、しゃんとしろ。組長に恥かかせんじゃねえぞ。」
「晴柊、寒くない?」
晴柊に喝を入れる篠ケ谷と対照的に晴柊を心配する遊馬。こんな犬猿の仲ともいえるような2人がペアで大丈夫なのだろうかと晴柊は心配したが、日下部がいることでなんとか均衡を保っている様子だった。
晴柊達一行が車から降りると、一斉に視線を浴びる。それもこれも、琳太郎の凄まじいオーラなのだろう。晴柊もいつもとはまた違う格好よさを放つ琳太郎に見惚れていたので、周囲の反応は納得できる。
しかし、視線は琳太郎の一歩後ろを歩く晴柊にも向けられていた。晴柊は守られるように左を遊馬、右を篠ケ谷、前が琳太郎に後ろが日下部と囲まれていた。まるで視界からできるだけ遠ざけようとするように。高いヒールを履いても晴柊は誰一人にも勝つことができない、それを上回る身長を持つ3人を恨めしく思った。
いくら視線を浴びようとも、琳太郎は動揺していなかった。いつもの無表情で、淡々と歩みを進めている。
エントランス部分から受付を済ませ、スタッフに案内され着いた会場は華やかなものであった。まるで裏社会とはかけ離れた様子である。晴柊は思わずキョロキョロとあたりを見回してしまう。
「す、すごい…」
たくさんのご馳走が並んだテーブルに、煌びやかなドレスを纏った人、スーツ姿の人がたくさんいた。そして、琳太郎がしきりに言っていた、「変態趣向」というのもすぐに理解できた。確かに、ほぼ裸だろうと言わんばかりに露出した服装をしている女性や、メイド服姿の人、男性なのにバニーガールのような恰好をしている人も見受けられたのだ。晴柊は確かに自分は露出が少ない方だと、空気に晒された腕と、スリットから除く自分の脚を見て思うのだった。
「あんまりジロジロ見るな。絡まれるぞ。」
琳太郎がソワソワし始めた晴柊の腰を抱き寄せるようにして引き寄せた。自分のもとから片時も離さない、これは「自分のもの」と周囲にわからせるかのような行動だった。今この状況で自分に絡んでくる勇者などいるはずがないよ、と晴柊は思うのだった。会場のあらゆる人が、琳太郎を見る。そして、後ろの遊馬や篠ケ谷、日下部にも視線が集まる。琳太郎の影にはなりきれないほど、3人の容姿も目立つ者であった。そして、晴柊も。しかし当の本人は鈍感でそれには気付かないのであった。
会場に着いて早々注目を浴びた一行は、琳太郎の腐れ縁でありこのパーティーの主催者であるという男の元へと早速案内された。晴柊は一体どんな人なのかわからないが、早く美味しいもの食べたいなぁと暢気なことを考えていた。琳太郎にとっては仕事をしに来たのであるが、晴柊にとってはそれとは無論関係はなく、ただパーティーを楽しみに来ただけなのだった。
「主催者さんと琳太郎は友達なんだろ?学生時代の同級生とか?」
「ああ、高校時代のな。親ぐるみで関係があるから、切っても切れない関係なんだよ。」
琳太郎がバツが悪そうに喋る。一体どんな人なんだろうなぁと晴柊が考えていると、大きな応接間のようなところに通された。スタッフがノックし挨拶をすると、室内から返答が返ってくる。
そこにいたのは、確かに琳太郎と同い年くらいに見えるソファに座る男性と、その男性の横に座る晴柊よりも小柄な男の子だった。
「久しぶりだな、琳太郎。」
「わざわざこの場所に呼び出すなと毎回言ってるだろ、蓮司。」
2人が悪態をつきながらも、まるでいつもこの調子というように会話が弾む。お互いを下の名前で呼ぶところからも、仲の良さは十分窺える。愛園蓮司(あいぞのれんじ)は琳太郎の高校の同級生で、竜胆会という明楼会と和睦協定を結んでいる組の若頭であった。愛園と琳太郎の父親同士が旧友なのである。愛園は男らしい眉を吊り上げさせ、愛想のいい表情を浮かべている。対して琳太郎は終始「気に食わないやつ」という表情であったが、仲が悪いというよりはむしろこういった関係を築いてきたのだろうと思わせるほど、その会話は心地の悪いものではなかった。
琳太郎が愛園の向かいのソファにどかりと腰を掛けると、晴柊も手を引かれ隣に座らされる。
2人が何か話しているが、晴柊は難しい仕事の話はよくわからない。そのため、隣にいる小柄な男の子のことが気になった。同い年くらいであろうか。日本人離れした綺麗なブロンドの髪と青い目が綺麗だった。どこか日本人らしさも残った顔立ちにハーフなのだろうと見当がつく。お腹周りが大胆に開いた服装で、短いホットパンツからは細い足が伸びていた。晴柊がその子を凝視していると、その子もまた、晴柊をじっと見つめていた。そしてにっこりと微笑み返された。可愛い人だなあと晴柊は思っていると、愛園がそんな晴柊の様子に目を留めた。
「そして、君が噂の晴柊クンかぁ~。俺は愛園蓮司。琳太郎とは昔から何かと縁があってね。よろしく。」
愛園がにっこりと目を細めて晴柊を見た。赤毛に近い髪の毛が似合っていた。綺麗目な琳太郎と比べ、「ワイルド」という印象が強いように思えた。晴柊はぺこりと会釈する。
「琳太郎が妙にご執心だっていうから、会いたかったよ。閉じ込めておきたい気持ちも確かにわかるなぁ。」
「だったら面倒な条件付きで呼び出してくんじゃねえよ。さっさと仕事の話済ませて俺は帰るぞ。」
「まあまあ、晴柊クンだって久しぶりの外出なんだろ。たまにはゆっくり息抜きさせてやればいいじゃないか。」
あんな豚共に観られながら息抜きなんてさせてやれるか、と琳太郎は悪態をついた。パートナー制度も、ドレスコード指定も、無論全て愛園の趣味であった。このパーティーの出席者は裏社会に通ずる芸能関係者、政府関係者、一流企業の社長などで裏の一面を持つ者ばかりである。そういった輩は大抵趣味の悪いペットやら情婦を囲っているものである。そして、そういった「見世物」的楽しみも好むような下衆野郎が多く、それを利用し愛園は楽しんでいた。勿論、それには自分も含んでいるのだった。
琳太郎は特定のパートナーを作らず、あくまでも性欲処理と言わんばかりに次々と女や男を抱いているというイメージだったが、最近ある一人にご執心だという噂を聞きつけていた。それも、まだあどけなさの残る堅気の少年だという情報も。愛園は気になって仕方なかったが、ただでは勿論お目にかかることはできなさそうだったので、このパーティーを利用して琳太郎を晴柊共々呼びつけたのだった。
「晴柊、これから少し話し込む。俺は付いて行ってやれないが、くれぐれも…」
「わかってるって!琉生君とシノちゃんから離れないし、人と喋らないし、ジュースしか飲まない。お仕事頑張ってね~。」
琳太郎が、晴柊を遊馬と篠ケ谷に預けた。晴柊を心配する様な琳太郎をよそに、晴柊はやっと美味しいものが食べられると目をキラキラさせ喜んでいた。日下部と琳太郎を応接間に残し、晴柊はルンルンという効果音が出そうなほど上機嫌にカーペットが引かれた廊下を歩いていた。
「おい餓鬼。はしゃぎすぎんなよ。」
「は~い。」
「晴柊、足元気を付けてね。何食べる?」
晴柊が明らかに浮かれている返事をした。遊馬は篠ケ谷がいることが気に食わないのか、少し機嫌が悪そうだったが、それを誤魔化すように晴柊に話しかけるのだった。篠ケ谷も何故よりによって遊馬と、と思うのだった。先ほどの大きな会場に着くと、晴柊は改めてたくさん並んでいるご馳走に喜んでいる様子だった。
「シノちゃん、琉生くん、凄いね…!あれも、あれも、食べていいの!?」
晴柊が純粋にはしゃいでる様子を見て、遊馬は愛おしそうにその姿を見る。そして、晴柊の好きそうなジュースの入ったグラスをスタッフから受け取ると、晴柊に渡した。
「ああ、どれ食べても良いんだぞ。何が食べたい?」
「えっとねえ、あ、お寿司ある!あっちにあるのはローストビーフかなあ?ケーキも食べたいし…」
「落ち着け。取ってやるから傍から離れんな。」
愛園の言う通りこうして外に出て美味しいものを食べるということ自体、晴柊には縁遠いことであったしあのマンションばかりにいたのだから、たまの息抜きに晴柊がこうして喜んでる姿は篠ケ谷にとっても悪い気はしなかった。ただ、ここにいる連中が良い人ばかりではないため篠ケ谷と遊馬は晴柊をジロジロと見る輩に睨み聞かせながら晴柊のボディーガードという仕事を全うしていた。
篠ケ谷がテキパキと皿に晴柊の食べたいものを乗せ、晴柊はそれを受け取りひたすらに食べる。晴柊は幸せだぁと顔を綻ばせて喜んでいた。両手にイケメンスーツ男を従わせて皿を持たせグラスを持たせという贅沢を味合わせている晴柊はひと際会場内で目立っていた。しかし、先ほどの琳太郎の圧のお陰で誰も寄ってこようとはしない。この世界で薊琳太郎という人物がどれほど有名でどれほど恐ろしいものなのかを象徴している様だった。
「ハルヒ!」
そんなある意味浮いている晴柊が、声を掛けられた。チキンを頬張っていた晴柊の目の前にいたのは、先ほど愛園の横にいたハーフ美少年だった。後ろに屈強なサングラスのボディーガードを連れている。琳太郎に「知らない人と話すな」と言われていたが、この人は愛園のパートナーみたいだし、琳太郎にとっても知らない人ではないから大丈夫だろうと、呼びかけに答えた。
「あ、えっと、さっきの。」
「うん、ボクはウィリアム!ウィルって呼んで。レンジはボクの恋人なんだ。よろしくね。」
人懐っこい笑顔を浮かべ、ウィリアムが晴柊の手を握った。外国人特有の距離の近さに、晴柊は圧倒される。近くで見ると、染めた髪とは違う柔らかさが残った金髪が綺麗だった。吸い込まれそうな青い瞳も、晴柊の真っ黒な髪の毛と目とは対照的だった。ウィリアムが晴柊の顔をじーっと見る。鼻先がぶつかるくらいの距離に、晴柊は思わず頬を赤くさせた。
「ハルヒは本当に可愛いねえ。そりゃぁリンタロウも離したくなくなるよね。あ、そうだ、あっちにあるやつもう食べた?すっごく美味しいんだ!」
流暢だが、少し片言交じりな喋り方がウィリアムの異国感を助長させていた。可愛いものが好きなウィリアムは晴柊のことを一目見て気に入ったようで、握っていた晴柊の手をそのまま引き行こう行こうと足早に違う料理が並ぶテーブルの方へと連れて行った。
「あ、おい馬鹿!勝手に離れるなって!」
篠ケ谷が慌てて晴柊とウィリアムについていった。無邪気なウィリアムに、晴柊は初めて友達ができたようで嬉しかった。ウィリアムは明るく、まるで初対面とは思えないほど晴柊にたくさん喋りかけてくれ、2人の距離が縮まるのには時間はかからなかった。
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