狂い咲く花、散る木犀

伊藤納豆

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4章 花ひらく

57話 (*)公開イチャイチャ

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「、ぅっ……ぁ、……あん…っ…」


晴柊は、琳太郎の下で揺さぶられていた。1週間ぶりのセックス。初めての、恋人としてのセックス。琳太郎もどこか優しかった。1週間ぶりで今すぐにでも滅茶苦茶にしてしまいたい、そういった欲を抑え込み、晴柊の気持ちいところをじんわりと責めていく。かれこれどれ程時間が経ったかわからないが、琳太郎は正常位の体勢を変えないまま晴柊を抱き続けていた。晴柊の熱を帯びた視線が琳太郎を刺した。


「晴柊。」


琳太郎が名前を呼ぶ。いつも汗1つ搔かない様子の琳太郎の額から汗が垂れている。


「……な、に…?」


晴柊は琳太郎の顔を真っ直ぐと見つめる。2人とも息が少し上がっている。琳太郎は晴柊の手を取ると、自分の口元へと持って行った。晴柊の指先に優しく口づけする。まるでおとぎ話の世界のような仕草に晴柊の心臓は高鳴った。背中一面に刺青を入れて、拳銃を常に持ち歩くようなヤクザの男が、晴柊にはまるで白馬の王子様に見えた。


「これからは何かあったら言え。俺はもうお前が俺から離れたいといっても到底離す気はないんだから、怖がるな。」


いつもセックスの最中は特に意地の悪い琳太郎が、今日は晴柊にとても甘かった。これは恋人フィルターなのだろうか。晴柊はじんわりと温かい気持ちになる。ときめきとか、そういったギラギラ輝いた類のものではない。でも、晴柊の心を満たしていく。少し前までのモヤモヤが完全に晴れていくのがわかった。



「うん……頑張る。」


晴柊はまるで色気のない返答だと自分でも思ったのだが、それ以外の言葉が思い当たらなかったので致し方なく答えた。きっと、これからも琳太郎を思うがあまり言えないことが出てくるだろう。恋人になれたからといって、不安が0になったわけでもない。けれど、琳太郎はそれまでもを受け止めてくれるだろう。晴柊はその自信があった。


晴柊のそんなフワフワとした言葉に思わず琳太郎は笑顔を零した。普段嘲笑以外であまり笑わないあの琳太郎が、柔らかい笑顔を晴柊に見せたのだった。この人はこんなに優しく笑うことができるのか、と晴柊は目を丸くした。まるで純粋無垢な少年のようだ。まだまだ晴柊の知らないことはたくさんある。でも、焦ることは無い。これからずっと一緒なのだから。


晴柊は新しい琳太郎の一面に釣られる様に笑った。そして、朝まで甘いセックスが続いた。



晴柊は珍しくキッチンに立っていた。エプロンをして、目の前の玉ねぎと1対1。まるで土俵に立った相撲のような気持ちであった。晴柊はあれから、晴れて琳太郎と正真正銘の恋人同士になれたわけだが自分はこのままでいいのだろうかと思っていた。琳太郎は外で忙しく仕事をして、自分は琳太郎の家でグータラ生活…急に自分が情けなくなったのだった。今は同居させてもらってるといっても過言ではないような状況ではあるし、晴柊は何かしてあげたかった。


そこで、晴柊は閃いたのである。家事だ。今まで篠ケ谷たちにやってもらっていたことを、自分がやろうと思い立ったのだった。まるで新妻になった感覚ではあったが、姑に教えてもらうように、晴柊は1から付き人たちにレクチャーしてもらっていた。とはいえ、掃除や洗濯は義父母の家でやっていたので問題はなかった。見たことのないハイテクな洗濯機に苦戦したくらいで、晴柊は難なくこなしていた。


最難関は、料理であった。なんせ付き人達全員料理ができないのだ。そのため毎日出前生活だったわけである。晴柊は琳太郎に頼み、包丁を始めとする一通りのキッチン用品を買い与えてもらった。そして、今、初めての料理に挑もうとしているのである。


「お前、料理とかしてそうなのに、したことねえのか?」

「家庭科の調理実習くらい……前の家では、キッチンに立たれるの嫌がられてたから…」


晴柊は苦い思い出を思い出すように、対面キッチンのカウンター側にいる篠ケ谷に向けて答えた。晴柊は義母に嫌われていたため、キッチンに立たれるのを嫌がられていた。彼女にとってキッチンはテリトリーであり荒らされたくなかったのだろう。そのため残ったご飯を分けてもらうか、カップ麺やコンビニ弁当、菓子パンが晴柊の食事のメインだった。


晴柊は人生初、一人で料理をしようとしているのであった。最初のメニューは、オムライスである。定番であろうという理由で選択したのだった。


晴柊は目の前の玉ねぎの皮をむき始めた。対面越しの篠ケ谷の視線がまるで料理長のさながらに鋭く、非常にやりづらかった。


「み、見なくていいよ…緊張する。」

「怪我されたら困る。」


変に面倒見の良さを出され、晴柊はやりづらさを我慢しながら続行した。野菜を洗い皮をむく下処理までは難なく進めることができた。いざ、入刀。晴柊は買ってもらった新品の包丁を手に取り、玉ねぎを一刀両断した。言葉のままの、一刀両断である。


「お、おい危ねえな!猫の手だろ猫の手!!」


篠ケ谷がガミガミと言ってくる。自分だって料理できないくせに!と反抗したくなったが、晴柊は言うことを聞くことにした。篠ケ谷から似合わない猫の手という発言が出たことも少し面白かったからだ。


その後も口うるさい支持を受けながらも、晴柊はなんとかオムライスを完成させることができた。キッチンは荒れ放題、出来上がったオムライスの見栄えもお世辞に良いともいえない代物ではあった。一連の流れを見届け、最後皿に盛りつけたところで篠ケ谷は堪えてた笑いを我慢できないとでも言うように笑いながら晴柊に言ったのだった。


「ぶはは!へったくそだなぁ!オムライスじゃなくてスクランブルエッグの間違いだろ!」

「うるさいなぁ!じゃぁシノちゃんだって作ってみなよ!」


そんなメンドイの嫌だね~とニヤニヤしながら晴柊を見る篠ケ谷。晴柊は拗ねたような表情をして頬を膨らませた。初めての料理挑戦は天童や遊馬に見てもらうべきだったと後悔するのだった。


「もういいよ。1人で食べるし。」

「は?食わねえとは言ってねえだろうが。」


晴柊は一応篠ケ谷の分も作ったのだったが、笑われたことを根に持ち自分の物だけテーブルまで運んだ。篠ケ谷はツンデレがすぎる態度で、なんだかんだ言いながらも晴柊の作った不出来なオムライスを一緒に頬張ったのだった。



「で、俺の分は?」


夕方、晴柊の元に現れた琳太郎に、晴柊がオムライスを作ったということを報告すると、当たり前の様に聞いてきたのだった。2人はソファに並んで座りながら、夕方のニュースを眺めていた。


「な、ないよ!全然上手にできなかったって言ったろ!あんなの食べさせられないよ~。」

「篠ケ谷は食べたのに?」

「え、えぇ~?琳太郎にはちゃんと上手にできたの食べて欲しい…」

「俺はお前が作ったのだったら何でも食いたい。」


2人は大っぴらに、リビングのソファでイチャイチャし始めたのである。リビングには、榊、遊馬、篠ケ谷がいる。前とは違う光景であった。今までの2人は大体寝室に籠っているのだったが、最近は部下の前でも平気でいちゃつき始めるのだ。


「やっとちゃんと付き合ったって本当だったんだぁ~…」


榊がこそこそと篠ケ谷と遊馬に話しかけた。


「チッ…まだ前のほうがよかったな……アイツと組長がイチャコラしてんのなんて見てられねぇよ…」

「…俺も晴柊とくっつきたい。」


3人がボソボソと部屋の端の方で喋りながら2人を見ている。琳太郎と晴柊はそんなのお構いなしで楽し気である。これも付き人の役目かと飲み込んだ3人衆であったが何せ琳太郎は恋人を作ったことが無かったので、見ないでいるべきなのか、複雑な心境であるのだった。遊馬だけが晴柊を更に独占されたことに不満気である。


「俺には何もくれねぇの。」

「急にそんなこと言われても…」

「へぇ。篠ケ谷には食わせて、俺には食わせてくれねえのか。」



バカップルの様な痴話げんかを始めた2人。琳太郎が棒読みで拗ねたような態度を示すと、晴柊はオロオロとしているようだった。そして恥ずかしそうに顔を赤くした後、琳太郎の頬にキスを落とした。


「り、琳太郎としかシてないこといっぱいあるだろっ…!ご飯はまた今度!」


晴柊が顔を真っ赤にさせながら答えた。琳太郎は可愛らしい晴柊の様子に思わずそのままソファに押し倒す。晴柊からはソファの背もたれで確認できなくなったが、琳太郎は部屋の後方で立ち話している3人にギロリと睨みを利かせた。声を出しはしないものの、その視線は「どっか行け」と誰もが察する鋭い視線であった。


3人はそそくさと部屋を後にし別室に移動した。すぐに移動しなければ、殺されかねない勢いであった。


「俺としかシてないことって?どういうこと?」


琳太郎が晴柊の身体を服の上からまさぐり始める。晴柊は質問の答えをわかってはいるものの口から出すのは恥ずかしいというように答えない。


「こういうこととか?」


琳太郎がソファに押し倒した晴柊の口にキスを落とし舌を捻じ込んだ。晴柊はぎゅっと琳太郎のスーツを掴む。琳太郎以外とキスをしたことがない晴柊だったが、琳太郎がキスが上手なのはよくわかるほど、琳太郎のキスは晴柊を骨抜きにした。


「ん、……ふ、……ぅ…」


晴柊の声がリビングに響き渡り始める。いつも寝室でする行為を、皆の共同スペースのようなリビングでシていることに背徳感を感じていた。しかし、それまでもが晴柊の興奮材料である。あの3人の気配はしないし、きっと今この空間には自分たちしかいない。晴柊は見えないながらもわかってはいたが、シてはいけないところでシていることに、胸を高鳴らせていた。


琳太郎の口が糸を引かせたまま離れていく。晴柊は物足りなかった。琳太郎としかシないこと。キスと、それから――。


「…い、いっぱい触って……エッチ、なこと……」


晴柊が潤んだ瞳で琳太郎を見る。滅茶苦茶にされたい。晴柊は欲望に塗れた表情で琳太郎を無意識に煽った。
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