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4章 花ひらく
58話 *最大の弱点
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琳太郎は晴柊の左足をソファの背もたれに掛けさせた。晴柊は否応が無しに股を広げ自ら大っぴらにしているような恰好になる。晴柊はそれに気付くと途端に恥ずかしくなり足を下ろそうとするが、琳太郎が太ももを背もたれに押し付けるようにしてくるので動かすことができないでいた。
「ねぇ、寝室行こうよ…」
晴柊が言いづらそうにしながら訴えてくる。どうやらここで最後までするのは居た堪れないらしい。晴柊が恥ずかしそうに、そして嫌そうな表情を浮かべるが、タチの悪い琳太郎にとってその表情は興奮材料そのものである。
「たまにはいいだろ。」
意地が悪いと晴柊は琳太郎を睨んだ。しかし、琳太郎の手が晴柊の内腿を撫でるようにいやらしく触ってくるお陰で、その視線にはまるで凄みが感じられないでいた。琳太郎の手が、滑るようにして下着越しに晴柊のモノに触れる。意識しただけでみるみると大きくなっていくソレに、琳太郎はきゅっと握ると一往復扱いてみる。
「ぅ、うぅっ………ね、ぇ……やっぱり、ここは嫌だ、って…!」
「嫌って言われたら余計にしたくなるな。」
琳太郎は晴柊の下着を下ろすと直接触り始めた。くちゅくちゅと音を鳴らしながら、抗っている晴柊の顔がだんだん快楽に飲み込まれていく様子を見つめる。イきたくないと思っても、はしたない自分の体勢といつもと違う場所での背徳感が晴柊の興奮を高めていく。晴柊の白い肌が僅かに赤みを帯びてくる。体温が上がってきている証拠だった。
ソファの狭さが晴柊の自由を奪う。晴柊はぎゅっと自分の着ているトレーナーの裾を握って与えられる気持ちよさに耐えていた。あまり大きな声を出しては近くの部屋にいる皆に聞こえてしまうかもしれないと晴柊は声を抑えようと試みていた。
「は、ぁ……ぁ、っ……そこ、らめっ……ひっ…!!」
琳太郎の指が晴柊の先端をくるくると撫でるようにくすぐっていた。晴柊はそれを気に入ったように言葉を漏らすと、琳太郎はより早く指を動かした。尿道の入り口をくすぐられている感覚に、晴柊はのたうち回りたい感覚に陥る。しかしそれは許されない。身体が逃れる場所を与えないまま晴柊に快楽を溜めさせる。
すると黙っていた琳太郎が急に喋りはじめる。
「そういえば晴柊。お前、急に家事なんて始めてどうした?出前は飽きたか。」
今それを聞くか?ということを晴柊が聞いてくる。琳太郎は晴柊のモノを扱きながら問い詰めてきた。晴柊は別に隠すことでもなかったが、本当のことを言うのは少し恥ずかしかった。しかし、この様子だと晴柊の答えを聞かないとイかせないとか言うまで止めないとかいいそうだと、晴柊は琳太郎の読みを当てていた。
「ぁんっ…あ、っ…なんもしないで、ぅっ…ここに、いるの…はぁ、あっ…申し訳なく、て…ぁあっ!」
何だそんなことか、と、琳太郎は思った。
「別に気にしなくて良い。俺はお前にここにいて欲しいだけだ。お前に家政婦のような真似をして欲しいわけではない。」
琳太郎の手が晴柊のモノを弄る手が止まった。晴柊は荒い呼吸を整えながら琳太郎を見た。さっき言ったことは本当であるが、他にも理由はある。その理由を伝えることを晴柊は恥ずかしがっているのである。
「……おれ…琳太郎の恋人だろ…やれることはやりたい…俺の料理食べて欲しいし…同棲してる恋人ってそういうもんだろ?」
まだ料理は練習中だけど!と晴柊は恥ずかしそうに言った。恋人が相手のために尽くすのは当たり前だと晴柊は思っていた。琳太郎は少し驚いていた。今まで琳太郎自身も特定の恋人を作ったことは無かったから、そういう発想がなかったのである。晴柊の初々しさが琳太郎には眩しかった。しかし、それは自分に望まれて当てられているものだと思うと、不思議と嬉しい気持ちが琳太郎に湧いてくる。
琳太郎は何も答えないまま誤魔化すように晴柊のモノをまた扱き始めた。どう反応したらいいのかわからなかったのである。琳太郎もまるで初々しい反応だった。晴柊はあっという間にイきそうな感覚になり、腰を振るわせた。
「ぁ、あっ…イくぅ、っ……ん、ぁ…ィっ…あぁ!!」
晴柊はそのまま琳太郎の手の内で射精した。ここでこれ以上続ければ、晴柊の声を隣の別室に待機しているあいつ等に聞かせることとなる、と琳太郎は果てた後でぐったりした晴柊を抱き上げ寝室に移動した。
晴柊が自分のために何かをしようとしてくれている。それだけで琳太郎はすべての疲れが取れたように嬉しかった。同時に、前に晴柊が「恋人らしいこと何もしていなかった」と言っていたことを思い出す。晴柊が恋人らしいことをしてくれている。俺も何か――。
♦
「最近の晴柊は幸せそうだな。」
「そ、そうかな…?」
鍋の中の味噌汁をかき混ぜている晴柊に遊馬が話しかけた。晴柊は恥ずかしそうに顔を赤くしている。最初は包丁を握ることすらままならなかった晴柊だが、簡単な物は作れるほどに慣れてはいた。あらゆる料理本、料理番組を熱心に見ていた晴柊の努力の賜物であった。遊馬は琳太郎のために健気に奮闘する姿に、可愛いと思いつつ琳太郎を羨んでいたのだった。
「…組長も、幸せそうだ。」
とこか悲しそうな表情を浮かべる遊馬に晴柊は気が付いた。味噌汁の横ではジュワジュワと音を立てながら唐揚げが揚がっている。すでに紙が敷かれた皿の上には無数の揚がった唐揚げが置かれていた。晴柊と琳太郎2人分以上の量である。晴柊はまるで耳と尻尾が生えていたらだらんと垂れているのだろうな、と想像できる様子の遊馬に、揚がった唐揚げを箸で口の中に突っ込んだ。
「どう?美味しい?…料理も洗濯も掃除も、琳太郎のためだけじゃなくて琉生くん達のためでもあるよ。いつもありがとう。」
もぐもぐと強制的に突っ込まれた唐揚げを頬張る遊馬に晴柊が微笑みかけた。天使だ…と遊馬は晴柊を抱きしめたくなったが、火の元だったのでぐっと堪える。晴柊にもはや恋心に近しいものを感じている遊馬にとって、忠誠を誓う琳太郎との正式な交際誓言は僅かながらに堪えるものがあった。しかし、遊馬は決して一線を越えない。琳太郎もそれをよく理解しているため、晴柊の付き人を辞めさせることは敢えてしなかった。遊馬もまた、晴柊と会うことで仕事のモチベーションを上げるタイプなので、仕事がプラスに働くのならと多少は多めにみているところもあった。
「美味しい。上手。晴柊、もっと食べたい。食べさせて。」
「琉生くんは甘えん坊だな。もうちょっとで出来るから、イイ子にして待ってて。」
晴柊はくすくす笑いながら唐揚げを揚げている。晴柊はその鈍感さゆえに、遊馬が恋愛的な意味での好意を寄せてくることには気付いてはいない。ただ懐いてくれていて、自分に優しくしてくれる兄の様でもあり弟の様でもあると思っているのだった。晴柊と遊馬のそんなキッチンのやり取りは、まるで親子のようにさえ見える。
そんな中、リビングの扉が開く。今日は20時ごろには帰れると言っていた琳太郎。時計を見ると、ちょうど20時を回ったところだった。期待通り、顔を見せたのは琳太郎だった。お付きの天童もいる。
「おかえりなさい~。今日は早かったな。」
「今日は唐揚げ作って待ってるって言ってただろ。早く終わらせてきた。」
まっすぐキッチンにやってくる琳太郎は、晴柊の額に周りの視線関係なしにちゅっちゅっとキスを落とす。終わらせてきたというよりは、半ば強引に日下部を押し切って来たのだったが。遊馬はまた、そんな2人の様子を近くで見せられて少しむくれた様子だったが、琳太郎はお構いなしである。唐揚げそんなに楽しみだったのか…と違うところが気になっていた晴柊は、すぐ出来るから離れて!と無理やり琳太郎を引っぺがしたのだった。
直ぐに今日の晩御飯が出来上がる。時間的にも、ちょうど夕食の時間である。一緒にいた天童と遊馬もテーブルに座ってもらい、晴柊はご飯をふるまった。今日は味噌汁、唐揚げ、ライス、ポテトサラダという立派な唐揚げ定食である。
こうして琳太郎もいるなかみんなと食卓を囲むことは珍しかった。大体は晴柊とその日の当番2人で食べることが多い。琳太郎は朝昼夜、返ってきたときに晴柊の作り置きを食べるような生活が多かった。当初は付き人たちが琳太郎と同席して晴柊の手料理を食べることは遠慮していたのだが、自分と琳太郎だけ食べるのも嫌だと思った晴柊の願いで、同席するようにしていた。
「……お前にこれやる。」
「え、何?」
ご飯を食べている晴柊に、琳太郎が何やら箱を取り出して渡してきた。手のひら大くらいのサイズの白い箱に、黒いリボンがラッピングされている。包装からみても、明らかに贈り物であることには間違いがない。晴柊は開けていいの?と聞くと頷く琳太郎。なんだろうか、と晴柊はドキドキしながらリボンを解いた。誰かからこんなサプライズプレゼントをもらったことは無かったので、ソワソワしてしまう。
「わぁ、コレ…!」
そこには、黒色の高級そうな生地でできたチョーカーが入っていた。キラキラと輝くダイヤモンドが、真ん中に主張しすぎないようにと言わんばかりに付いている。
「…せいぜい今できる「恋人」っぽいこと。…指輪とかは柄じゃねえしな。」
晴柊は驚いていた。琳太郎が自分にプレゼントをしてくれた。最近晴柊が琳太郎に尽くそうと頑張っている姿に、琳太郎も何かしてあげたくなったのだった。デートもままならない琳太郎にとって、今できる必死の恋人扱いがプレゼントであった。晴柊は嬉しそうに早速チョーカーを首に付けている。脱着も軽々できる仕様で、そのスマートな出で立ちは、前に晴柊を繋いでいた武骨頂な首輪とは似ても似つかなかった。晴柊は嬉しそうに顔を綻ばせると、琳太郎の方を向いた。
「ありがとう!すっごい嬉しい!……どう、似合ってる?へへ、俺初めてだよこんなの…大切にする。」
晴柊はまるで恥ずかしさを誤魔化すように唐揚げを食べている琳太郎に笑って見せた。遊馬は目の前で2人の幸せそうな姿を見せつけられ嫉妬したのか、横に座る天童の唐揚げを無言で横取りしていた。自分が贈った物を首に付けている晴柊の姿を見て、琳太郎もまた「晴柊は自分のものだ」と主張できているようで嬉しくなった。
2人の関係は、まるで裏社会にいる人間とは思えないほど普通のカップルの様に見えた。眩しく、暖かい。しかし、そんな2人に嫌と言ってもこの世界の闇の部分は降りかかってくるであろう。それは、残酷な現実であった。少しでもその危険から晴柊を守るのである。それが、薊琳太郎を、明楼会を守る術であった。
―――晴柊は、薊琳太郎の最大の弱点なのだから。
「ねぇ、寝室行こうよ…」
晴柊が言いづらそうにしながら訴えてくる。どうやらここで最後までするのは居た堪れないらしい。晴柊が恥ずかしそうに、そして嫌そうな表情を浮かべるが、タチの悪い琳太郎にとってその表情は興奮材料そのものである。
「たまにはいいだろ。」
意地が悪いと晴柊は琳太郎を睨んだ。しかし、琳太郎の手が晴柊の内腿を撫でるようにいやらしく触ってくるお陰で、その視線にはまるで凄みが感じられないでいた。琳太郎の手が、滑るようにして下着越しに晴柊のモノに触れる。意識しただけでみるみると大きくなっていくソレに、琳太郎はきゅっと握ると一往復扱いてみる。
「ぅ、うぅっ………ね、ぇ……やっぱり、ここは嫌だ、って…!」
「嫌って言われたら余計にしたくなるな。」
琳太郎は晴柊の下着を下ろすと直接触り始めた。くちゅくちゅと音を鳴らしながら、抗っている晴柊の顔がだんだん快楽に飲み込まれていく様子を見つめる。イきたくないと思っても、はしたない自分の体勢といつもと違う場所での背徳感が晴柊の興奮を高めていく。晴柊の白い肌が僅かに赤みを帯びてくる。体温が上がってきている証拠だった。
ソファの狭さが晴柊の自由を奪う。晴柊はぎゅっと自分の着ているトレーナーの裾を握って与えられる気持ちよさに耐えていた。あまり大きな声を出しては近くの部屋にいる皆に聞こえてしまうかもしれないと晴柊は声を抑えようと試みていた。
「は、ぁ……ぁ、っ……そこ、らめっ……ひっ…!!」
琳太郎の指が晴柊の先端をくるくると撫でるようにくすぐっていた。晴柊はそれを気に入ったように言葉を漏らすと、琳太郎はより早く指を動かした。尿道の入り口をくすぐられている感覚に、晴柊はのたうち回りたい感覚に陥る。しかしそれは許されない。身体が逃れる場所を与えないまま晴柊に快楽を溜めさせる。
すると黙っていた琳太郎が急に喋りはじめる。
「そういえば晴柊。お前、急に家事なんて始めてどうした?出前は飽きたか。」
今それを聞くか?ということを晴柊が聞いてくる。琳太郎は晴柊のモノを扱きながら問い詰めてきた。晴柊は別に隠すことでもなかったが、本当のことを言うのは少し恥ずかしかった。しかし、この様子だと晴柊の答えを聞かないとイかせないとか言うまで止めないとかいいそうだと、晴柊は琳太郎の読みを当てていた。
「ぁんっ…あ、っ…なんもしないで、ぅっ…ここに、いるの…はぁ、あっ…申し訳なく、て…ぁあっ!」
何だそんなことか、と、琳太郎は思った。
「別に気にしなくて良い。俺はお前にここにいて欲しいだけだ。お前に家政婦のような真似をして欲しいわけではない。」
琳太郎の手が晴柊のモノを弄る手が止まった。晴柊は荒い呼吸を整えながら琳太郎を見た。さっき言ったことは本当であるが、他にも理由はある。その理由を伝えることを晴柊は恥ずかしがっているのである。
「……おれ…琳太郎の恋人だろ…やれることはやりたい…俺の料理食べて欲しいし…同棲してる恋人ってそういうもんだろ?」
まだ料理は練習中だけど!と晴柊は恥ずかしそうに言った。恋人が相手のために尽くすのは当たり前だと晴柊は思っていた。琳太郎は少し驚いていた。今まで琳太郎自身も特定の恋人を作ったことは無かったから、そういう発想がなかったのである。晴柊の初々しさが琳太郎には眩しかった。しかし、それは自分に望まれて当てられているものだと思うと、不思議と嬉しい気持ちが琳太郎に湧いてくる。
琳太郎は何も答えないまま誤魔化すように晴柊のモノをまた扱き始めた。どう反応したらいいのかわからなかったのである。琳太郎もまるで初々しい反応だった。晴柊はあっという間にイきそうな感覚になり、腰を振るわせた。
「ぁ、あっ…イくぅ、っ……ん、ぁ…ィっ…あぁ!!」
晴柊はそのまま琳太郎の手の内で射精した。ここでこれ以上続ければ、晴柊の声を隣の別室に待機しているあいつ等に聞かせることとなる、と琳太郎は果てた後でぐったりした晴柊を抱き上げ寝室に移動した。
晴柊が自分のために何かをしようとしてくれている。それだけで琳太郎はすべての疲れが取れたように嬉しかった。同時に、前に晴柊が「恋人らしいこと何もしていなかった」と言っていたことを思い出す。晴柊が恋人らしいことをしてくれている。俺も何か――。
♦
「最近の晴柊は幸せそうだな。」
「そ、そうかな…?」
鍋の中の味噌汁をかき混ぜている晴柊に遊馬が話しかけた。晴柊は恥ずかしそうに顔を赤くしている。最初は包丁を握ることすらままならなかった晴柊だが、簡単な物は作れるほどに慣れてはいた。あらゆる料理本、料理番組を熱心に見ていた晴柊の努力の賜物であった。遊馬は琳太郎のために健気に奮闘する姿に、可愛いと思いつつ琳太郎を羨んでいたのだった。
「…組長も、幸せそうだ。」
とこか悲しそうな表情を浮かべる遊馬に晴柊は気が付いた。味噌汁の横ではジュワジュワと音を立てながら唐揚げが揚がっている。すでに紙が敷かれた皿の上には無数の揚がった唐揚げが置かれていた。晴柊と琳太郎2人分以上の量である。晴柊はまるで耳と尻尾が生えていたらだらんと垂れているのだろうな、と想像できる様子の遊馬に、揚がった唐揚げを箸で口の中に突っ込んだ。
「どう?美味しい?…料理も洗濯も掃除も、琳太郎のためだけじゃなくて琉生くん達のためでもあるよ。いつもありがとう。」
もぐもぐと強制的に突っ込まれた唐揚げを頬張る遊馬に晴柊が微笑みかけた。天使だ…と遊馬は晴柊を抱きしめたくなったが、火の元だったのでぐっと堪える。晴柊にもはや恋心に近しいものを感じている遊馬にとって、忠誠を誓う琳太郎との正式な交際誓言は僅かながらに堪えるものがあった。しかし、遊馬は決して一線を越えない。琳太郎もそれをよく理解しているため、晴柊の付き人を辞めさせることは敢えてしなかった。遊馬もまた、晴柊と会うことで仕事のモチベーションを上げるタイプなので、仕事がプラスに働くのならと多少は多めにみているところもあった。
「美味しい。上手。晴柊、もっと食べたい。食べさせて。」
「琉生くんは甘えん坊だな。もうちょっとで出来るから、イイ子にして待ってて。」
晴柊はくすくす笑いながら唐揚げを揚げている。晴柊はその鈍感さゆえに、遊馬が恋愛的な意味での好意を寄せてくることには気付いてはいない。ただ懐いてくれていて、自分に優しくしてくれる兄の様でもあり弟の様でもあると思っているのだった。晴柊と遊馬のそんなキッチンのやり取りは、まるで親子のようにさえ見える。
そんな中、リビングの扉が開く。今日は20時ごろには帰れると言っていた琳太郎。時計を見ると、ちょうど20時を回ったところだった。期待通り、顔を見せたのは琳太郎だった。お付きの天童もいる。
「おかえりなさい~。今日は早かったな。」
「今日は唐揚げ作って待ってるって言ってただろ。早く終わらせてきた。」
まっすぐキッチンにやってくる琳太郎は、晴柊の額に周りの視線関係なしにちゅっちゅっとキスを落とす。終わらせてきたというよりは、半ば強引に日下部を押し切って来たのだったが。遊馬はまた、そんな2人の様子を近くで見せられて少しむくれた様子だったが、琳太郎はお構いなしである。唐揚げそんなに楽しみだったのか…と違うところが気になっていた晴柊は、すぐ出来るから離れて!と無理やり琳太郎を引っぺがしたのだった。
直ぐに今日の晩御飯が出来上がる。時間的にも、ちょうど夕食の時間である。一緒にいた天童と遊馬もテーブルに座ってもらい、晴柊はご飯をふるまった。今日は味噌汁、唐揚げ、ライス、ポテトサラダという立派な唐揚げ定食である。
こうして琳太郎もいるなかみんなと食卓を囲むことは珍しかった。大体は晴柊とその日の当番2人で食べることが多い。琳太郎は朝昼夜、返ってきたときに晴柊の作り置きを食べるような生活が多かった。当初は付き人たちが琳太郎と同席して晴柊の手料理を食べることは遠慮していたのだが、自分と琳太郎だけ食べるのも嫌だと思った晴柊の願いで、同席するようにしていた。
「……お前にこれやる。」
「え、何?」
ご飯を食べている晴柊に、琳太郎が何やら箱を取り出して渡してきた。手のひら大くらいのサイズの白い箱に、黒いリボンがラッピングされている。包装からみても、明らかに贈り物であることには間違いがない。晴柊は開けていいの?と聞くと頷く琳太郎。なんだろうか、と晴柊はドキドキしながらリボンを解いた。誰かからこんなサプライズプレゼントをもらったことは無かったので、ソワソワしてしまう。
「わぁ、コレ…!」
そこには、黒色の高級そうな生地でできたチョーカーが入っていた。キラキラと輝くダイヤモンドが、真ん中に主張しすぎないようにと言わんばかりに付いている。
「…せいぜい今できる「恋人」っぽいこと。…指輪とかは柄じゃねえしな。」
晴柊は驚いていた。琳太郎が自分にプレゼントをしてくれた。最近晴柊が琳太郎に尽くそうと頑張っている姿に、琳太郎も何かしてあげたくなったのだった。デートもままならない琳太郎にとって、今できる必死の恋人扱いがプレゼントであった。晴柊は嬉しそうに早速チョーカーを首に付けている。脱着も軽々できる仕様で、そのスマートな出で立ちは、前に晴柊を繋いでいた武骨頂な首輪とは似ても似つかなかった。晴柊は嬉しそうに顔を綻ばせると、琳太郎の方を向いた。
「ありがとう!すっごい嬉しい!……どう、似合ってる?へへ、俺初めてだよこんなの…大切にする。」
晴柊はまるで恥ずかしさを誤魔化すように唐揚げを食べている琳太郎に笑って見せた。遊馬は目の前で2人の幸せそうな姿を見せつけられ嫉妬したのか、横に座る天童の唐揚げを無言で横取りしていた。自分が贈った物を首に付けている晴柊の姿を見て、琳太郎もまた「晴柊は自分のものだ」と主張できているようで嬉しくなった。
2人の関係は、まるで裏社会にいる人間とは思えないほど普通のカップルの様に見えた。眩しく、暖かい。しかし、そんな2人に嫌と言ってもこの世界の闇の部分は降りかかってくるであろう。それは、残酷な現実であった。少しでもその危険から晴柊を守るのである。それが、薊琳太郎を、明楼会を守る術であった。
―――晴柊は、薊琳太郎の最大の弱点なのだから。
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