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7章
109話 商談
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とはいえ、全員が心配していた屋敷生活を、当の本人は難なくやりこなしていた。マンションでやっていた炊事洗濯、家事を淡々とこなし、それ以外はそっと自室に籠っている。ただやはり、掃除やふとしたときに廊下を歩くと組員たちとすれ違い、後ろ指を指されるなりジロジロと品定めするような視線を浴びるなり、居心地の悪さがあるのも事実。
ただ、いくら篠ケ谷たちが警戒しても、最終的には組長の御加護があるのである。そんな最強の後ろ盾を壊してまで、晴柊に危害を加えよう組員が、存在するはずはなかった。仕来りゆえの衝突はあれど、琳太郎はれっきとした先代の跡継ぎなのだから。それに、常に琳太郎含め側近の誰かがこの屋敷に常駐する制度は変わっていない。常に晴柊の横にぴったりとくっついている訳ではないものの、目を光らせている中で悪さをしようなど、かなり不可能に近いのだった。
「あったかくなったなぁ。見てシルバ、桜の木だよ。大きいね。」
晴柊は庭にシルバを離し、洗濯物を干していた。大きな庭園に物干し竿を立て、ハンガーに掛けた湿った服を干していく。庭には大きな桜の気が聳え立っていた。膨らんだつぼみが付いているのが見える。季節は春を迎えようとしていた。あれから、早一年が経つのかと、晴柊は綺麗に晴れ渡る空を見上げ思った。あの日もこんな天気だったな、と、思いを馳せる。
琳太郎はこの屋敷で仕事をすることが多くなったとはいえ、仕事は仕事。忙しさには磨きがかかったし、ふとした時に顔を見れても接する機会はそれほど多くない。寧ろ、以前より減った気もする。晴柊は少々の寂しさを抱えつつも、琳太郎の頑張り時だと陰ながらサポートに徹した。とは言っても給仕と添い寝くらいしかやってあげられないのだが。
「お、俺は新妻かよっ…!」
晴柊は途端に自分の考えていることに恥ずかしくなり一人顔を赤らめた。その様子を不思議そうに見上げるシルバ。一人きゃっきゃっとする晴柊に遊んでくれるのかもと勘違いし、晴柊の服の裾を口で挟みグイグイとアピールしてくる。
「わ、わっ!ちょっと待って!洗濯物干したら構ってやるから!」
晴柊が自分の身体よりも遥かに大きく、綺麗に乾いた白いシーツを取り込もうとしたときだった。その時、シルバが勢いよく晴柊を引っ張る。晴柊は思わずバランスを崩し、尻もちをつくようにして座り込んだ。せっかく洗ったシーツも晴柊に被さるようにして落ちてくる。
「も~!だからもうちょっと待ってって言ったのに!この、悪い子め!」
晴柊は困ったように笑う。どうせ汚れたのだからもうどうとでもなれ、というように晴柊はシーツをがばっと広げると、シルバを包むようにしてわしゃわしゃと撫でる。シルバは嬉しそうに晴柊の顔を大きな舌で舐め回す。晴柊は子どもの様に楽しそうに笑っていた。
そんな晴柊たちの庭に即した縁側をある人物が歩いていた。
「…あれは?」
「ああ…組長のイロっすね。どうやってあの組長に取り入ったのか…この屋敷に連れてきて囲ってるくらいには、熱を上げているみたいです。よりにもよって男…しかも餓鬼だなんて、何考えているんだか。」
組員に案内されている一人の男は、庭でシルバと戯れる晴柊に目が止まった。組員は晴柊の存在に困ったものだと呆れている様子だった。へぇ、と男は小さく返事をする。
ああ、なんて真っ白なんだ。
白い布と、白い毛のシルバと戯れる晴柊の顔を見て男は思った。ふと、視線に気が付いたのか晴柊が男に目をやった。背が高く、高級感漂うスーツに身を纏った男性。肩にかかるくらいの髪がハーフアップにセットされているのが印象的だった。きっと、組員ではない。晴柊はすぐにそう思い、思わず会釈する。琳太郎の客であると判断したからだ。
その男は愛想のよい笑みを浮かべたあと、そのまま琳太郎がいるのであろう客間へと通されていった。
♦
「お待たせしました。」
「こちらこそ、わざわざお越しくださいましてありがとうございます。」
広い机を挟むように座る2人。琳太郎の元に訪れたのは今伸びに伸びている企業の若手社長、八城空弧(やしろくうこ)であった。海外で育ったという彼はまだ23歳という若さで、飛び級して大学まで卒業。後に企業し今に至るらしい。
出来過ぎた話な上、琳太郎の元に来た以上、限りなくクリーンな企業というわけではない。その優秀な頭でバレないようなすり抜けをしながら、利用してきたのだろう。起業家としては優秀極まりない人物である。彼の会社は今や表の世界でもその名を馳せるほどの大成長を遂げていると話題なのだ。
それは琳太郎にとっても明楼会にとっても、この商談の意義が大きいことを意味していた。
「なるほど。概要の方は把握いたしました。ただ……やはりこの条件、こちら側に旨みが少ないように思いますね。こちらは一応表立って会社を経営していますし、万が一のリスクのことを考えるとやはり…」
「でも、単に手放すほど、マズい話でもないはずです。」
「そうですね…あと一押し。ああ、そうだ、こんなのはどうでしょう。実は、今度新事業部でアパレルブランドを立ち上げることになりましてね。そこのブランドに起用する男性モデルを決めかねていたんです。先ほど、庭で少年を見かけたのですが、彼をお借りいただけませんか?」
歯に衣着せぬ笑顔で物申す八城。琳太郎の顔が曇る。
「それはできません。何より彼は表立って行動できる人間じゃない。こちらの世界のこともお分かりでしょう。」
「勿論、顔出しはしませんし、彼の存在を公にすることもしません。あくまでも商品の考案にお手伝いして頂きたいだけなんです。社内のデザイナーも、良い素材があれば捗るでしょうし。」
「容姿が整った人ならいくらでもいるでしょう。彼にこだわる必要なんて――」
「こだわっているのは、貴方ですよね?薊さん。寧ろ彼に少々協力いただければ、この取引に応じると言っているんです。そちらにとってこんな美味しい話はないでしょう。ヤクザの組長といってもやはり、商談ごとは苦手ですかね。」
八城はわざと琳太郎を煽ることを言う。彼にとって今、仕事に関する挑発は効きすぎる、そう、同席していた日下部は思っていた。
「……彼の意志を尊重したい。返事は後日にしてもよろしいですか。」
「へぇ…随分大切に思われているんですね。熱を上げているという噂は本当のようだ。ああ、実はもうお互い――」
「彼は私の恋人です。傷ものにしよう物なら、取引相手と言えど、ただではすみませんよ。」
「怖い怖い。ただモデルとして協力してほしいって言っているだけではありませんか。私はあくまでそちら側の人間ではありませんよ。彼に危害を加えるつもりは1ミリもありません。」
2人の静かな牽制がなされ、初回の取引は終わった。帰り際、縁側に腰掛け、シルバの足を拭いている晴柊がいた。庭で一通り遊び終えたのだろう。今日の来客に合わせて、目のつかないところに居させるべきだった、まさか晴柊に噛みつかれるとはと琳太郎は後悔していた。
じっと八城がまた晴柊を見ていることに、晴柊も、彼を見つめ返す。
「それじゃぁ、また。」
また、という含みのある言葉を残し、これ以上接触すれば背後の琳太郎が口を出すだろうという空気を読み取り、八城は大人しく屋敷を後にした。
琳太郎は、晴柊のもとにすぐに戻ってくる。
「お疲れ様。取り引きか何か?随分若い人だったなぁ~。」
「……晴柊。」
琳太郎は、聞きあぐねていた。きっと、彼の協力をしてくれと自分が頼めば、晴柊は2つ返事で了承する。俺の為ならなんだってやる、そうに違いない。
「いや、なんでもない。そんな恰好で外にいたら風邪を引くぞ。まだ薄着するには早い。」
琳太郎はそれだけいうと、晴柊を置いて書斎としている部屋へと引いていった。同じ空間にいて、同じ場所にいないということに晴柊はまだ慣れないでいた。あのマンションにいるときは、とにかくずっと隣に居たのである。琳太郎がいつもより近いはずなのに、どこか遠く感じた。
事情を知っている日下部は、自分が助言を出すべきか悩んでいた。日下部は昔から一番近くで琳太郎を支えてきた側近である。先代が急逝した今が大事な時期なのは日下部も痛い程わかっていた。今回の商談を成功させることができれば、少なからず今へそを曲げている幹部たちをねじ伏せることができる。琳太郎を認めて欲しい、珍しく、冷静な日下部が私欲で動きかけようとしていた。
「何かありました?」
何か言いたげに立ち尽くす日下部に晴柊は縁側に腰掛けた状態のまま、見上げて聞く。
「珍しい。日下部さんはいつも気難しい顔してるけど、そんな思い悩んでる顔はしてないから。ふふ、意外と隠し事下手なんですね。」
晴柊はくすくすと笑っている。伝えあぐねている自分を気遣うように助け舟をだした彼の優しさに、甘えてしまいそうだ。日下部は晴柊の横に膝まづくようにして口を開いた。
「先ほどの男は、ウチと大きな取引を抱えている商談相手です。同業者ではなく、どちらかというと表立った会社の社長です。彼が、取引の条件に晴柊さんを提示してきました。新事業のモデルに協力してほしい、と。組長は勿論断ろうとしたのですが……今のこの状況で、正直、逃したくない案件で……その…」
珍しく口を濁す日下部。いつも淡々と喋るからこそ、日下部自身の戸惑いがひしひしと伝わる。
「そういうことかぁ。琳太郎、今頑張ってますもんね。俺にできることなら、なんだってしますよ。」
日下部は伝えてしまった、と、発言してからまた後悔しているようだった。
「そんな顔しないでください。俺がズルい聞き方しちゃいましたね。琳太郎からは俺から言います。琳太郎にも、皆の為にもなれるんなら喜んで引き受けます。」
ただ、いくら篠ケ谷たちが警戒しても、最終的には組長の御加護があるのである。そんな最強の後ろ盾を壊してまで、晴柊に危害を加えよう組員が、存在するはずはなかった。仕来りゆえの衝突はあれど、琳太郎はれっきとした先代の跡継ぎなのだから。それに、常に琳太郎含め側近の誰かがこの屋敷に常駐する制度は変わっていない。常に晴柊の横にぴったりとくっついている訳ではないものの、目を光らせている中で悪さをしようなど、かなり不可能に近いのだった。
「あったかくなったなぁ。見てシルバ、桜の木だよ。大きいね。」
晴柊は庭にシルバを離し、洗濯物を干していた。大きな庭園に物干し竿を立て、ハンガーに掛けた湿った服を干していく。庭には大きな桜の気が聳え立っていた。膨らんだつぼみが付いているのが見える。季節は春を迎えようとしていた。あれから、早一年が経つのかと、晴柊は綺麗に晴れ渡る空を見上げ思った。あの日もこんな天気だったな、と、思いを馳せる。
琳太郎はこの屋敷で仕事をすることが多くなったとはいえ、仕事は仕事。忙しさには磨きがかかったし、ふとした時に顔を見れても接する機会はそれほど多くない。寧ろ、以前より減った気もする。晴柊は少々の寂しさを抱えつつも、琳太郎の頑張り時だと陰ながらサポートに徹した。とは言っても給仕と添い寝くらいしかやってあげられないのだが。
「お、俺は新妻かよっ…!」
晴柊は途端に自分の考えていることに恥ずかしくなり一人顔を赤らめた。その様子を不思議そうに見上げるシルバ。一人きゃっきゃっとする晴柊に遊んでくれるのかもと勘違いし、晴柊の服の裾を口で挟みグイグイとアピールしてくる。
「わ、わっ!ちょっと待って!洗濯物干したら構ってやるから!」
晴柊が自分の身体よりも遥かに大きく、綺麗に乾いた白いシーツを取り込もうとしたときだった。その時、シルバが勢いよく晴柊を引っ張る。晴柊は思わずバランスを崩し、尻もちをつくようにして座り込んだ。せっかく洗ったシーツも晴柊に被さるようにして落ちてくる。
「も~!だからもうちょっと待ってって言ったのに!この、悪い子め!」
晴柊は困ったように笑う。どうせ汚れたのだからもうどうとでもなれ、というように晴柊はシーツをがばっと広げると、シルバを包むようにしてわしゃわしゃと撫でる。シルバは嬉しそうに晴柊の顔を大きな舌で舐め回す。晴柊は子どもの様に楽しそうに笑っていた。
そんな晴柊たちの庭に即した縁側をある人物が歩いていた。
「…あれは?」
「ああ…組長のイロっすね。どうやってあの組長に取り入ったのか…この屋敷に連れてきて囲ってるくらいには、熱を上げているみたいです。よりにもよって男…しかも餓鬼だなんて、何考えているんだか。」
組員に案内されている一人の男は、庭でシルバと戯れる晴柊に目が止まった。組員は晴柊の存在に困ったものだと呆れている様子だった。へぇ、と男は小さく返事をする。
ああ、なんて真っ白なんだ。
白い布と、白い毛のシルバと戯れる晴柊の顔を見て男は思った。ふと、視線に気が付いたのか晴柊が男に目をやった。背が高く、高級感漂うスーツに身を纏った男性。肩にかかるくらいの髪がハーフアップにセットされているのが印象的だった。きっと、組員ではない。晴柊はすぐにそう思い、思わず会釈する。琳太郎の客であると判断したからだ。
その男は愛想のよい笑みを浮かべたあと、そのまま琳太郎がいるのであろう客間へと通されていった。
♦
「お待たせしました。」
「こちらこそ、わざわざお越しくださいましてありがとうございます。」
広い机を挟むように座る2人。琳太郎の元に訪れたのは今伸びに伸びている企業の若手社長、八城空弧(やしろくうこ)であった。海外で育ったという彼はまだ23歳という若さで、飛び級して大学まで卒業。後に企業し今に至るらしい。
出来過ぎた話な上、琳太郎の元に来た以上、限りなくクリーンな企業というわけではない。その優秀な頭でバレないようなすり抜けをしながら、利用してきたのだろう。起業家としては優秀極まりない人物である。彼の会社は今や表の世界でもその名を馳せるほどの大成長を遂げていると話題なのだ。
それは琳太郎にとっても明楼会にとっても、この商談の意義が大きいことを意味していた。
「なるほど。概要の方は把握いたしました。ただ……やはりこの条件、こちら側に旨みが少ないように思いますね。こちらは一応表立って会社を経営していますし、万が一のリスクのことを考えるとやはり…」
「でも、単に手放すほど、マズい話でもないはずです。」
「そうですね…あと一押し。ああ、そうだ、こんなのはどうでしょう。実は、今度新事業部でアパレルブランドを立ち上げることになりましてね。そこのブランドに起用する男性モデルを決めかねていたんです。先ほど、庭で少年を見かけたのですが、彼をお借りいただけませんか?」
歯に衣着せぬ笑顔で物申す八城。琳太郎の顔が曇る。
「それはできません。何より彼は表立って行動できる人間じゃない。こちらの世界のこともお分かりでしょう。」
「勿論、顔出しはしませんし、彼の存在を公にすることもしません。あくまでも商品の考案にお手伝いして頂きたいだけなんです。社内のデザイナーも、良い素材があれば捗るでしょうし。」
「容姿が整った人ならいくらでもいるでしょう。彼にこだわる必要なんて――」
「こだわっているのは、貴方ですよね?薊さん。寧ろ彼に少々協力いただければ、この取引に応じると言っているんです。そちらにとってこんな美味しい話はないでしょう。ヤクザの組長といってもやはり、商談ごとは苦手ですかね。」
八城はわざと琳太郎を煽ることを言う。彼にとって今、仕事に関する挑発は効きすぎる、そう、同席していた日下部は思っていた。
「……彼の意志を尊重したい。返事は後日にしてもよろしいですか。」
「へぇ…随分大切に思われているんですね。熱を上げているという噂は本当のようだ。ああ、実はもうお互い――」
「彼は私の恋人です。傷ものにしよう物なら、取引相手と言えど、ただではすみませんよ。」
「怖い怖い。ただモデルとして協力してほしいって言っているだけではありませんか。私はあくまでそちら側の人間ではありませんよ。彼に危害を加えるつもりは1ミリもありません。」
2人の静かな牽制がなされ、初回の取引は終わった。帰り際、縁側に腰掛け、シルバの足を拭いている晴柊がいた。庭で一通り遊び終えたのだろう。今日の来客に合わせて、目のつかないところに居させるべきだった、まさか晴柊に噛みつかれるとはと琳太郎は後悔していた。
じっと八城がまた晴柊を見ていることに、晴柊も、彼を見つめ返す。
「それじゃぁ、また。」
また、という含みのある言葉を残し、これ以上接触すれば背後の琳太郎が口を出すだろうという空気を読み取り、八城は大人しく屋敷を後にした。
琳太郎は、晴柊のもとにすぐに戻ってくる。
「お疲れ様。取り引きか何か?随分若い人だったなぁ~。」
「……晴柊。」
琳太郎は、聞きあぐねていた。きっと、彼の協力をしてくれと自分が頼めば、晴柊は2つ返事で了承する。俺の為ならなんだってやる、そうに違いない。
「いや、なんでもない。そんな恰好で外にいたら風邪を引くぞ。まだ薄着するには早い。」
琳太郎はそれだけいうと、晴柊を置いて書斎としている部屋へと引いていった。同じ空間にいて、同じ場所にいないということに晴柊はまだ慣れないでいた。あのマンションにいるときは、とにかくずっと隣に居たのである。琳太郎がいつもより近いはずなのに、どこか遠く感じた。
事情を知っている日下部は、自分が助言を出すべきか悩んでいた。日下部は昔から一番近くで琳太郎を支えてきた側近である。先代が急逝した今が大事な時期なのは日下部も痛い程わかっていた。今回の商談を成功させることができれば、少なからず今へそを曲げている幹部たちをねじ伏せることができる。琳太郎を認めて欲しい、珍しく、冷静な日下部が私欲で動きかけようとしていた。
「何かありました?」
何か言いたげに立ち尽くす日下部に晴柊は縁側に腰掛けた状態のまま、見上げて聞く。
「珍しい。日下部さんはいつも気難しい顔してるけど、そんな思い悩んでる顔はしてないから。ふふ、意外と隠し事下手なんですね。」
晴柊はくすくすと笑っている。伝えあぐねている自分を気遣うように助け舟をだした彼の優しさに、甘えてしまいそうだ。日下部は晴柊の横に膝まづくようにして口を開いた。
「先ほどの男は、ウチと大きな取引を抱えている商談相手です。同業者ではなく、どちらかというと表立った会社の社長です。彼が、取引の条件に晴柊さんを提示してきました。新事業のモデルに協力してほしい、と。組長は勿論断ろうとしたのですが……今のこの状況で、正直、逃したくない案件で……その…」
珍しく口を濁す日下部。いつも淡々と喋るからこそ、日下部自身の戸惑いがひしひしと伝わる。
「そういうことかぁ。琳太郎、今頑張ってますもんね。俺にできることなら、なんだってしますよ。」
日下部は伝えてしまった、と、発言してからまた後悔しているようだった。
「そんな顔しないでください。俺がズルい聞き方しちゃいましたね。琳太郎からは俺から言います。琳太郎にも、皆の為にもなれるんなら喜んで引き受けます。」
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