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7章
113話 桜
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晴柊はその後もうまく立ち振る舞った。あれから4度、八城に呼び出され、服の試着やコスメのテスティングの他に、身体も捧げた。しかし、徹底して痕跡を残さずいつもと同じ様子で過ごす晴柊に、琳太郎含め誰にもバレることはなかった。
そして、今日でこの「手伝い」と称した晴柊の協力も最後らしい。晴柊は安堵していた。やっと、悪夢のようなことが終わる。これで琳太郎の仕事もうまくいく。この仕事がうまくいけば、明楼会での琳太郎の立ち位置も揺るがないでいられる。目まぐるしく働き続けている琳太郎が少しでも休めるのではないか。今まで自分がやってきたことが報われる、晴柊はその思いでいっぱいだった。
最終日。いつものように送迎してもらい、オフィスビルへと立ち入った。今日でここともおさらばである。
晴柊は意気揚々と言った様子でエレベーターに乗り込み、八城の会社が入る階で降りる。すると、いつものように八城が待っていた。
「今日もありがとう。いよいよ最後だね。」
どことなく油断した様子の晴柊を連れ、いつもの社長室に通した。そこには初日よりは減った衣服の数々が並べられていた。
「最終案だよ。最後に、着てくれるかな。それで今日はお終いだ。」
「…わかった。」
晴柊は最終日ということにどこか警戒心も強めていたが、どうやら本当に試着だけで終わるらしい。晴柊は着々と着こなし、八城の確認が入る。不用意に触られることもなければ、いつものような嫌悪感ある言葉も吐いてこない。
一通り試着が終わると、八城は何やら書類にメモを取り、衣服をハンガーに掛け直した。
「はい、終わり。ありがとう。晴柊君のお陰で満足いく立ち上げができそうです。」
八城がいつもの人当たりの良い顔を浮かべた。晴柊はどこか拍子抜けしたが、これで終わったのだと身体が軽くなるのをひしひしと感じていた。
「それじゃぁ、俺はこれで。」
「ああ、ちょっと待って。」
晴柊が社長室の扉に手を掛けた時だった。八城が晴柊を呼び留める。
「君に、話しておきたいことがあって。」
「え?」
「―――――。」
八城の言葉を聞いて、晴柊は思った。
この世に、神様なんていないのだ。
神様がいたとしたら、きっとソイツは無慈悲であるに違いない。
これ以上琳太郎を苦しめないで。
俺が、守らないと。俺が――
時期は4月、桜が満開になる季節が訪れた。
そして、今日でこの「手伝い」と称した晴柊の協力も最後らしい。晴柊は安堵していた。やっと、悪夢のようなことが終わる。これで琳太郎の仕事もうまくいく。この仕事がうまくいけば、明楼会での琳太郎の立ち位置も揺るがないでいられる。目まぐるしく働き続けている琳太郎が少しでも休めるのではないか。今まで自分がやってきたことが報われる、晴柊はその思いでいっぱいだった。
最終日。いつものように送迎してもらい、オフィスビルへと立ち入った。今日でここともおさらばである。
晴柊は意気揚々と言った様子でエレベーターに乗り込み、八城の会社が入る階で降りる。すると、いつものように八城が待っていた。
「今日もありがとう。いよいよ最後だね。」
どことなく油断した様子の晴柊を連れ、いつもの社長室に通した。そこには初日よりは減った衣服の数々が並べられていた。
「最終案だよ。最後に、着てくれるかな。それで今日はお終いだ。」
「…わかった。」
晴柊は最終日ということにどこか警戒心も強めていたが、どうやら本当に試着だけで終わるらしい。晴柊は着々と着こなし、八城の確認が入る。不用意に触られることもなければ、いつものような嫌悪感ある言葉も吐いてこない。
一通り試着が終わると、八城は何やら書類にメモを取り、衣服をハンガーに掛け直した。
「はい、終わり。ありがとう。晴柊君のお陰で満足いく立ち上げができそうです。」
八城がいつもの人当たりの良い顔を浮かべた。晴柊はどこか拍子抜けしたが、これで終わったのだと身体が軽くなるのをひしひしと感じていた。
「それじゃぁ、俺はこれで。」
「ああ、ちょっと待って。」
晴柊が社長室の扉に手を掛けた時だった。八城が晴柊を呼び留める。
「君に、話しておきたいことがあって。」
「え?」
「―――――。」
八城の言葉を聞いて、晴柊は思った。
この世に、神様なんていないのだ。
神様がいたとしたら、きっとソイツは無慈悲であるに違いない。
これ以上琳太郎を苦しめないで。
俺が、守らないと。俺が――
時期は4月、桜が満開になる季節が訪れた。
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