狂い咲く花、散る木犀

伊藤納豆

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7章

115話 *同情と甘え

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「おかえり。お出かけかい?」

「ああ、まぁ。社長ってのも意外と暇なんだな。」


晴柊は上着を脱ぎながら、リビングでコーヒーを嗜んでいる八城に悪態をつく。


「失礼だなぁ。今は働き方も多様性が求められる時代ですよ。これ一台あれば、いくらでも。」


八城は薄型のタブレットを晴柊に見せびらかすように示す。晴柊はふーん、と興味なさげに反応し、リビングのソファに座った。


「晴柊君。」


晴柊がテレビを点けようとしたとき、八城は晴柊の名を呼ぶ。琳太郎よりも高く、柔らかい声。


「来なさい。」


晴柊は大人しく、リモコンを置く。そして八城の座っている椅子の傍に立った。


「脱いで。」


晴柊は大人しく八城の言うことを聞く。脅されているからでも、何でもない。全て晴柊の意志だった。


晴柊と八城の取引の内容に、セックスは求められていない。八城の条件はあくまでも、「琳太郎の元を離れ、自分を選ぶこと」。そもそも、八城は晴柊のことを好きでも愛してもいない。ただただ、琳太郎にとって大事で仕方が無い晴柊だから奪い取ったのである。その理由は――。


だから最初は、八城がこうしてわざわざ晴柊を抱く意味が晴柊にはわからなかった。


しかし、八城は晴柊を殴るでも、苦しめるでもない。ただただ、優しく、ぐずぐずに溶かすように抱くのだ。まるで、幼子が母親の愛情に溺れるように。


そんな彼を、晴柊は突っぱねられなかった。今更自分の身体を大切にしようなんて思いはない。晴柊はシャツを脱ぎ、ズボンも靴下も脱ぐ。


「ソレを残していいとは言っていませんよ。」


八城は晴柊の下着を指さす。晴柊はため息を付き下着に手を掛けた。リビングで一人、一糸纏わぬ姿となる。


「自慰行為してみせなさい。座ってはいけませんよ。」


八城は良く晴柊に辱めた命令をする。反抗しない晴柊を面白がっているのか、悪趣味な楽しみ方である。晴柊は八城の言う通り自らの手で自身を握った。八城の狐のような目線が、晴柊の焦燥感を煽った。


「ん、っ……は、ぁ………んん…」

「視線はこちらに。相変わらず、良い顔をしますね。」

「ぁ……ぅ、ん…!」


自分の気持ちいところ、触り方、全てを見られている様で身体が強張る。しゅっしゅっと健気に自分のモノを立たせていく。ああ、自分は何をやっているんだ。虚しい。いいや、これもすべて、琳太郎が「幸せ」になるためだ。見失うな。


段々と快感が込み上がってくる。膝がガクガクと震え始め、座ってしまいたい感覚になる。


「くう、こ……すわりた、いっ……ぁ……も、う…」

「駄目ですよ。そのまま。さぁ、早くイッてしまいなさい。」

「ん、んっ……ぁあ、……っ、ん゛っ…!!」


八城の合図と共に晴柊は射精し、そのまま床を散らかした。足腰に限界が来たのか晴柊は床にへたり込むようにして座った。肩で息をして、僅かに色づいた肌が晴柊の色気を立たせる。八城は晴柊を抱き上げるようにして、そのまま寝室へと連れて行った。


ベッドに晴柊をそっと降ろし、八城は晴柊の首に舌を這わせる。少しずつ下へ、下へ。八城の舌は晴柊の乳首を包むように舐める。生温かく、ザラついた感触が晴柊の乳首を責めていく。


「君は最近本当に従順ですね。出会った頃は生意気な口も言っていたのに。これも、愛の力ですか?それとも、私に対する同情?」

「ん、っ……は、ぁ………どっちも、だよ。」

「そう。それは……釈然としませんね。」

「ぅ˝っ、ぁ……!!」


八城は晴柊の答えを聞いて乳首に歯を立てた。


「私に対する同情はいりません。そんなもの、私は求めていない。私が求めているのは、ただ一つ、薊琳太郎の幸せを奪うこと。仕事の功績とか、名誉とか地位とか、そんなどうでもいいものではなくて。もっともっと、内側の、脆くて、儚いもの。彼にとっての君みたいな。まあ、晴柊君との取引でそれを実現したわけですけどね。今頃彼は喪失感に苛まれていることでしょう。ああでも、仕事はノリにノッているみたいですよ。ヤクザのプロ意識ってやつですかね?明楼会の内部亀裂も埋まりつつあるとか……良かったですね、晴柊君。君の望んでいたこともまた、実現できていますよ。私たちの取引はうまくいったというわけだ。」


そうか、琳太郎は無事うまくいっているのか。よかった。俺が居なくても寝られているだろうか。シノちゃんとか、きっと怒ってるんだろうな。勝手なことして。ああ、それどころか、裏切者として恨まれてるかも。琳太郎も、俺を憎んでいるはず。ずっと傍にいるっていう約束も果たさないでさ。


ごめんな、琳太郎。


「さあ、お喋りはここまでです。君も、セックスの時くらい忘れてしまった方が楽なのでは?」

「んっ……ぁ、あん……ひ、…」


八城のモノが、晴柊のナカに入り込む。息を吐けば肉壁が緩み、意図もたやすく挿入を許していく。僅かの抵抗心からか、晴柊は八城の身体にしがみつきたい手を、ベッドのシーツでやり過ごす。


「うん、やっぱりこっちの体勢の方が良いね。よっと……君の乱れただらしのない顔が見えないのは残念だが、この項が「彼のもの」と主張してきて気分が良い。ああ、もう跡を気にせずつけても問題ないのか。それじゃぁ、遠慮なく。」


八城は晴柊をうつ伏せの体勢に変える。バックの状態で、晴柊の背中に手を滑らせた。晴柊の綺麗な身体のラインに目をやり、身体をぐっとナカに押し込むと項に歯を立てた。晴柊の肌に歯が食い込む。薊の花の刺青に歯形が付く。八城は満足気にソレを見やった。


「あんっ……ん、ぅ……ぁ˝~~~っ、お、く、ぐるし、い˝っ、ぁああん…!!!」

「大丈夫、息を吐いて。いいですね、その綺麗な顔から下品な声が出てるってだけで興奮しちゃいますよ。」

「ぅ˝、ぁ、ん…い、ぐ……だめ、へ、ん…ああ˝、ん、へ˝ん゛な˝る˝っ…ぁああん、ひぁあ!?」


晴柊は背中を仰け反らせ身体を震わせて絶頂していた。しかし、射精はしていない。


「立派メスイキできましたねえ。生まれ持った能力なのか、それとも、彼の努力の賜物かな?美味しいところばかり取ってしまって――」

「んっ、うる、さいっ!!…黙って、腰を振ってろ、は、ぁ…んんっ…!」


晴柊が牙を向いた。琳太郎の話をまるで聞きたくないと言うように。ただただ身を粉にしてただ一人、彼に褒められるでもなく男に身体を捧げている。可哀想に。


「ねぇ、晴柊君。教えてください……彼と、どっちが気持ちいですか?やはり、彼には劣るでしょうか。それとも……私と彼は似ていますか?」


晴柊の身体がわかりやすく固まる。八城は言葉を失った晴柊にまるで答えを催促するように激しく腰を打ち付けた。晴柊の口からは答えの代わりに甘い嬌声が漏れた。


「ふふ、すごい締め付けていますよ。意識してしまいましたか?ナカがキュンキュンして、私のが抜けようとすると寂しがるように求めてくる。ほら、スパンキング好きでしょう。こうすれば、君はまるで喜ぶように痛がる。」

「ぁあん、ん、っ…やめ、あ゛っ、ひ……お˝、ぁああっ…!!」


パシンパシンという乾いた音と、ヌチャヌチャという粘着質な音が、晴柊の耳を犯した。
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