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8章
131話 搔き乱される
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晴柊は屋敷に到着するなり篠ケ谷に誘導され別室へと行く。
「……誰あの人。」
「アレはうちが仕切ってる店の№1キャストのリク。組長がまだ若頭なりたての頃、初めて組の店持たされたときからの知り合いだよ。アイツのお陰といっても過言ではないほど店は軌道に乗ったってこともあって、少なからず組長もアイツの実力を買ってる。」
「そんな人が何でここに?」
「昨日、アイツが別の組のモンに目ェ付けられたとかなんとかで、店でトラブルが起きた。大方向こうがリクを引き抜こうって話を持ち込んでリクがそれを断ったとかだろ。それが大事になってアイツの身が危なくなったから一旦一番安全なココで保護してるって訳だ。旅行に水差すのも悪いと思って連絡はしないでいた。訳はわかったか?これもあくまで仕事の一端なんだよ。」
「危ない目にあってるなら……」
晴柊が理解を見せようと飲み込もうとする。しかし、晴柊の直感が働いているのだ。彼はきっと自分の「ライバル」だと。
「いいか、俺もアイツは苦手だ。何考えてるかわかんないし、組長に変に執着してる。なんていうか……前から鼻に付くムカつく野郎だ。」
篠ケ谷が嫌そうな顔をしている。晴柊と似た者同士な篠ケ谷もまた、リクに以前から苦手意識を持っていた。琳太郎に只ならぬ忠誠心を持っているからなのか、どうなのか。篠ケ谷が晴柊に向き直り、まるで「お願い」するようにもう一度念押しする。
「とにかくだ。落ち着けばすぐにアイツは出てくし、今だけ我慢しろ。いいな?」
「はーい……。」
晴柊は少し嫌そうに返事をした。しかし、ここで駄々を捏ねても仕方が無い。人命が掛かっているのに嫉妬するから出て行けと言うほど晴柊も小さい人間ではなかった。
ただ、琳太郎を好いているものだから、晴柊には一瞬でわかった。あれは、自分と同じ気持ちを琳太郎に持っている人間だと。
♦
居間部分に顔を出すと、リクが琳太郎と親し気に話していた。事情を聞いているのであろう琳太郎の隣で密着している。その距離感の必要はあるのかと間に入りたくなったが、先ほど篠ケ谷に言われた「我慢」と「仕事だから」という言葉が晴柊にストッパーをかける。
僅かに開いた扉の前で数秒立ち止まるが、直ぐに晴柊は別の部屋へと向かった。その様子を、リクは感じ取っていた。
「琳太郎さんに固定の愛人ができたって本当だったんだぁ~。最近滅多に会いに来てくれなくなったもんね。」
「アイツは愛人じゃない。恋人だよ。」
「……へぇ~。」
リクはケロっと返事してみせる。しかしその内側はもっと黒く、ドロドロとした感情が渦巻いているのだった。
♦
晴柊が一人荷解きをしていると、後ろに人の気配を感じ、振り返る。そこにはリクが立っていた。晴柊より僅かに背が高いくらいだろうか。触り心地の良さそうなフワフワの髪の毛に、タレ目がちの目じりにある泣き黒子が特徴的だった。人気№1というだけあって、容姿も整っていれば纏う雰囲気が色っぽい。
晴柊は立ち上がり、リクを見つめ返した。
「何か用ですか。」
「”これ”が、琳太郎さんの恋人かぁ~。」
「だったら何?」
「ははっ。どんなもんかと思ってみたら、芋くさいガキじゃん。何が良いんだか。」
晴柊の部屋の入り口にもたれかかれるようにして腕を組み、まるで晴柊の全身を品定めするように視線上下に動かすリクに、晴柊はムッとした。
「用がないなら出て行ってください。」
晴柊がリクを無視して作業に戻ろうとしたとき。リクは晴柊に詰め寄り、肩を押しのける。
「あんまり調子にのるなよ。琳太郎さんを自分の物にしたと思ってるのかもしんないけど、あの人は誰のものにもならない。アンタは自分だけだって勘違いしてるなら現実教えてやるけどさ、琳太郎さんは俺のことだって何度も抱いたよ。琳太郎さんが一夜を共にした人はたくさんいたけど、俺だけは何度も何度も、繰り返し抱いてくれた。この意味が分かる?」
リクが笑顔を見せる。晴柊を挑発している笑みだった。琳太郎が、熱を入れていた男娼。晴柊と出会う前の話だと分かっていながらも、リクを抱いている琳太郎の姿の想像が過るだけで晴柊はどうにかなってしまいそうだった。
「出て行ってよ。昔のことなんかどうだっていい。最近相手にされなくてムカついてんだろ。残念だったな、今琳太郎が夢中になってるのは俺だよ。」
晴柊はあまり人に強く当たることは無い。しかし、自分にとって大切な何かを揺らがされそうになった時、晴柊の堪忍袋の緒は切れかける。
リクは「ふ~ん。」と、意味深なリアクションを取ると晴柊を挑発するようにニコニコしたままどこかへ去っていった。しかし晴柊の姿が見えなくなると舌打ちしまるで別人のような形相で廊下を歩いた。
晴柊はリクの言葉を聞いて、篠ケ谷が苦手だと言っていた理由がよく分かった気がした。
とにもかくにも、自分にとってのライバル、恋敵の登場に晴柊は不安と焦りを感じ始めていた。
「……誰あの人。」
「アレはうちが仕切ってる店の№1キャストのリク。組長がまだ若頭なりたての頃、初めて組の店持たされたときからの知り合いだよ。アイツのお陰といっても過言ではないほど店は軌道に乗ったってこともあって、少なからず組長もアイツの実力を買ってる。」
「そんな人が何でここに?」
「昨日、アイツが別の組のモンに目ェ付けられたとかなんとかで、店でトラブルが起きた。大方向こうがリクを引き抜こうって話を持ち込んでリクがそれを断ったとかだろ。それが大事になってアイツの身が危なくなったから一旦一番安全なココで保護してるって訳だ。旅行に水差すのも悪いと思って連絡はしないでいた。訳はわかったか?これもあくまで仕事の一端なんだよ。」
「危ない目にあってるなら……」
晴柊が理解を見せようと飲み込もうとする。しかし、晴柊の直感が働いているのだ。彼はきっと自分の「ライバル」だと。
「いいか、俺もアイツは苦手だ。何考えてるかわかんないし、組長に変に執着してる。なんていうか……前から鼻に付くムカつく野郎だ。」
篠ケ谷が嫌そうな顔をしている。晴柊と似た者同士な篠ケ谷もまた、リクに以前から苦手意識を持っていた。琳太郎に只ならぬ忠誠心を持っているからなのか、どうなのか。篠ケ谷が晴柊に向き直り、まるで「お願い」するようにもう一度念押しする。
「とにかくだ。落ち着けばすぐにアイツは出てくし、今だけ我慢しろ。いいな?」
「はーい……。」
晴柊は少し嫌そうに返事をした。しかし、ここで駄々を捏ねても仕方が無い。人命が掛かっているのに嫉妬するから出て行けと言うほど晴柊も小さい人間ではなかった。
ただ、琳太郎を好いているものだから、晴柊には一瞬でわかった。あれは、自分と同じ気持ちを琳太郎に持っている人間だと。
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居間部分に顔を出すと、リクが琳太郎と親し気に話していた。事情を聞いているのであろう琳太郎の隣で密着している。その距離感の必要はあるのかと間に入りたくなったが、先ほど篠ケ谷に言われた「我慢」と「仕事だから」という言葉が晴柊にストッパーをかける。
僅かに開いた扉の前で数秒立ち止まるが、直ぐに晴柊は別の部屋へと向かった。その様子を、リクは感じ取っていた。
「琳太郎さんに固定の愛人ができたって本当だったんだぁ~。最近滅多に会いに来てくれなくなったもんね。」
「アイツは愛人じゃない。恋人だよ。」
「……へぇ~。」
リクはケロっと返事してみせる。しかしその内側はもっと黒く、ドロドロとした感情が渦巻いているのだった。
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晴柊が一人荷解きをしていると、後ろに人の気配を感じ、振り返る。そこにはリクが立っていた。晴柊より僅かに背が高いくらいだろうか。触り心地の良さそうなフワフワの髪の毛に、タレ目がちの目じりにある泣き黒子が特徴的だった。人気№1というだけあって、容姿も整っていれば纏う雰囲気が色っぽい。
晴柊は立ち上がり、リクを見つめ返した。
「何か用ですか。」
「”これ”が、琳太郎さんの恋人かぁ~。」
「だったら何?」
「ははっ。どんなもんかと思ってみたら、芋くさいガキじゃん。何が良いんだか。」
晴柊の部屋の入り口にもたれかかれるようにして腕を組み、まるで晴柊の全身を品定めするように視線上下に動かすリクに、晴柊はムッとした。
「用がないなら出て行ってください。」
晴柊がリクを無視して作業に戻ろうとしたとき。リクは晴柊に詰め寄り、肩を押しのける。
「あんまり調子にのるなよ。琳太郎さんを自分の物にしたと思ってるのかもしんないけど、あの人は誰のものにもならない。アンタは自分だけだって勘違いしてるなら現実教えてやるけどさ、琳太郎さんは俺のことだって何度も抱いたよ。琳太郎さんが一夜を共にした人はたくさんいたけど、俺だけは何度も何度も、繰り返し抱いてくれた。この意味が分かる?」
リクが笑顔を見せる。晴柊を挑発している笑みだった。琳太郎が、熱を入れていた男娼。晴柊と出会う前の話だと分かっていながらも、リクを抱いている琳太郎の姿の想像が過るだけで晴柊はどうにかなってしまいそうだった。
「出て行ってよ。昔のことなんかどうだっていい。最近相手にされなくてムカついてんだろ。残念だったな、今琳太郎が夢中になってるのは俺だよ。」
晴柊はあまり人に強く当たることは無い。しかし、自分にとって大切な何かを揺らがされそうになった時、晴柊の堪忍袋の緒は切れかける。
リクは「ふ~ん。」と、意味深なリアクションを取ると晴柊を挑発するようにニコニコしたままどこかへ去っていった。しかし晴柊の姿が見えなくなると舌打ちしまるで別人のような形相で廊下を歩いた。
晴柊はリクの言葉を聞いて、篠ケ谷が苦手だと言っていた理由がよく分かった気がした。
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