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第2話
しおりを挟む翌朝。
サーフィスから婚約破棄を宣言されたせいで眠れなかったオリビエは、寝不足でふらつく頭を抱えながら朝日の昇った部屋の中荷物を整理していた。
サーフィスの婚約者でなくなった以上、ここにいることはできない。
出ていけと言われる前に荷物をまとめて城を出ようと思っていた。
ーー懐かしい、こんな時もあった。
クローゼットの中から動きやすい服を2,3着鞄に入れているとひらりと舞い降りた写真が目に入る。
それはサーフィスと二人きりで撮った写真だ。
確かまだ5歳か6歳の頃に撮ったものだった。
ーーこの時は初めてサーフィスと手を握ってもらえてすごく嬉しかったからよく覚えている。
写真の中に映る二人は、手を握っている。
オリビエの顔は嬉しそうな笑顔だが、その隣に映るサーフィスは無表情な顔だった。
「……置いていこう」
オリビエは出てきた写真をそっと寝台の上に置いておく。
必要最低限のものを鞄の中に詰め込み終わると、オリビエは慣れ親しんだ部屋を後にした。
城の中は朝焼けの静けさに包まれていて、見張りの兵士の姿が疎らに見える。
「オリビエ様?」
そのうちの一人がこちらに気付いて声をかけてきた。
「サジ、世話になりましたね。私は昨晩サーフィス様から婚約破棄を申し込まれたので城を出ます」
オリビエの言葉にサジと呼ばれた兵士は驚いたような顔をする。
サジはオリビエが城で暮らす頃になったときと同じくらいのタイミングで城にやってきた孤児だった。
親を戦争で亡くし、行き場のなかったサジは親戚のつてで王国の下級兵士として連れてこられたのだ。
オリビエとはそのころたまたま城の中で知り合った。
歳が同じくらいということもあり、二人はよく隠れて話をした。
大人になるにつれて面と向かって会話することはなくなったが、城の中で見かけると自然と互いに目で挨拶をしていた。
幼い頃下級兵士だったサジも、今では上級兵士の一人である。
目の前で重厚な甲冑を着る幼馴染をオリビエは自慢に思った。
「それは……本当ですか?」
信じられないという顔をサジがした。
「本当です。……だからサジと会うのもこれが最後です。……あなたは実力のある兵士ですから、これからも国を守ってくださいね」
それだけ言うと、オリビエはサジのもとから離れるように歩き出す。
これ以上いると無様な泣き顔をサジの前にさらしてしまいそうだったからだ。
その瞬間、腕をぎゅっと掴まれた。
驚いて顔を上げると、すぐ近くにサジの顔があった。
「……行く当てはあるんですか?」
「……家には帰らないわ、帰ったところで王子と結婚できなかった私に居場所などないから……」
「ではこの先どうするのですか?」
「……考えていない、でもここにいるよりはきっとマシよ」
サーフィスの部屋にはきっとあの子がいる。
サーフィスが心から愛した子が、あの子がいるこの城にはいたくない。
サジの手を振り切る様に歩き出す。
その手が追いかけてくることはなかった。
これでいい、これで。
サジに迷惑をかけるわけにはいかない。
そう思いながら、足早に歩き城の入り口まで到着した。その時だった。
「オリビエ、俺はお前の味方だから!何かあったら遠慮せずかえって来いよ!!」
後ろの方でサジの大きな声がした。
その声は騎士としてではなく、幼馴染のサジとしてオリビエに呼び掛けてくれていた。
振り返るとサジがこちらに手を振っている姿が見える。
それを見た瞬間、胸の奥に閉じ込めていた感情が一気に噴き出してくる。
けして泣き声はあげなかった。
オリビエは静かに涙を流しながら、遠くに見えるサジに手を振り返す。
城の入り口から一歩足を踏み出すと、
オリビエはもう振り返らずに歩き始めた。
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