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第6話

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うちで働いてみない?




そう言ってレナードがオリビエを連れてきた街はカナンというとても大きな町だった。

レナードはオリビエをその中の一つの店に連れていくと、扉を開ける。店内はいたるところに様々な商品が展示されている。そしてその奥にカウンターがあり、一人の青年が立っていた。


「レナードさん、おかえりなさい」

青年は店の中に入ってきたレナードの顔を見ると、嬉しそうに笑った。

「戻ったよ、ルイ。店の様子はどうだい?」

「売り上げは上々ですよ、レナードさんが仕入れてくるものが良いんですね…あ、ところでそちらの人は誰ですか?」

ルイとオリビエの目が合った。

「ああ、彼女はオリビエだ。今日からうちで働いてもらうことになるから、仲良くするんだよ」

「そうなんですね…!!オリビエさん、初めまして。僕はルイ。これからよろしくお願いします!」

ルイはオリビエに向けて頭をペコリと下げる。

「あの、こちらこそ…よろしくお願いします」

「オリビエ、ここは僕の運営している店舗の一つだよ。君にはここで働いてもらおうと思う。奥に使っていない部屋があるから、そこを君の部屋にしていいよ。ルイ案内してあげて」

ルイはレナードの言葉にカウンターの中から出てくる。

「分かりました!オリビエさんこっちですよ」

ルイはオリビエに向かってにこにこと笑顔を向けながら手招きする。
オリビエはレナードに小さく会釈するとルイの後についていった。



「……うん、いい子を拾った」

店の奥へと消える二人の姿を眺めながら、レナードは小さく呟いた。



店の奥には商品が入っていると思しき箱が幾重にも積み上げられていた。その隙間を縫うように歩いていくと、二階に続く階段が見える。

「ルイ…でしたっけ?二階に部屋があるのかしら」

目の前を歩いていたルイが止まる。オリビエの声にその顔がくるりとこちらを向いた。

「そうだけど、なんか問題でもある?」

オリビエは驚いた。
あんなに笑顔だったルイの顔はオリビエと二人きりになった瞬間驚くほど不愛想になっていた。
不機嫌そうにひそめられた眉がオリビエと話したくないという気持ちを前面に表しているようだった。
驚きのあまり言葉が出なくなったオリビエに、ルイはあからさまなため息を吐いた。

「あのさ、どこのお嬢様か知らないけど……この店は僕一人で十分だからすぐに辞めてくれない?……全く、レナードさんもなんでこんな子連れてきたんだろ……」

「……」

人というのはこんなに態度が変わるものなのか。
それは悲しいという気持ちを通り越して最早関心していた。

「申し訳ありませんが、それはできませんわ」

「……は?」

傷ついて辞めたがることを期待していたルイは、オリビエの言葉に思わず間の抜けた声を出す。


「私はレナード様に誘われてここに来ました。それはレナード様が少なからず私の働きに期待してくれているということです。それを裏切って辞めることはできません」

「……なにそれ、むかつくんだけど」

ルイは鋭い目つきでこちらを睨む。
だけれど、オリビエにはそんなこと慣れっこであった。

「それよりも、早く部屋に案内してくれませんか?」

「……後悔しても遅いからね」

捨て台詞のようにルイはそう吐き捨てると、面倒くさそうに二階に続く階段を上り始める。オリビエは緊張でわずかに早くなった鼓動を感じながら、その後ろをついていった。

案内された部屋は物置部屋かと思うほどに散らかっていた。
ぱっと見ただけでもしばらく掃除がなされていないことが分かる。

「……あの、こちらが私の部屋ですか?」

「そうだけど?何か問題ある?」

ルイは意地悪そうな顔で笑うと、「じゃあ、一階に行ってるから」と言ってさっさと部屋の外へと出て行ってしまった。
一人ぽつんと残されるオリビエ。




「……これは、お掃除の頑張りがいがありますわね!」

気合をいれるようにオリビエはそう呟くと、比較的に汚れのなかったベッドの上に荷物を置いた。






「ルイ。オリビエは部屋を気にいってくれたかい?」


店に戻るとレナードさんがこちらに向かって笑いかけてくる。
僕は「ええとっても」と返事をしながらカウンターの中に入った。

「新しい子が来た時のためにと、ルイに掃除をお願いしておいて良かった」

レナードさんは美しい瞳の色を輝かせながら、いつもどおりの綺麗な顔で僕に話かけてくる。

ーーま、掃除してないけどね。

僕は二階でおろおろしているであろう女の姿を想像して内心笑いそうになっていた。

ーーこのお店は僕一人で十分なんだから、他の人間なんて必要ない。


「ルイ、オリビエは降りてくるのに時間がかかりそうかい?」

「ああ、なんか荷物の整理があるみたいですよ」

「そっか、ちょっと話したい事があるからオリビエのところに行ってくるよ」

「え」


二人きりはまずい。

万が一さっきの態度をばらされたら、レナードさんに嫌われてしまう。

レナードさんを引き留めようとした時だった。

階段を下りてくる音がしたかと思うと、店の奥からオリビエが姿を現す。
荷物を置いてきたのか、その手には何も握られていない。


「オリビエ、新しい部屋はどうかな?気に入ってくれたかな?」

「ええ、とても気に入りました。掃除のしがいがあります」

「…掃除?」

レナードさんの顔が不思議そうな顔をする。

「あ、し、しばらく使っていなかったから埃がたまっているみたいでしたね…!」

オリビエが何か話し始める前に、僕は口を開く。

「?そうか……」

幸いレナードさんは不思議そうな顔をするだけど、それ以上何かを追求することはなかった。

「オリビエ、僕は店にいないこともあるけど何かあったらいつでも相談してくるかい。僕は君の味方だから」

その代わり、レナードさんはあろうことかオリビエの手を握るとその手の甲に小さくキスを落とした。

「……!!??」

オリビエの動きが止まる。
その顔は心のなしか赤くなっているように見えた。

……なんか、むかつく。

「それじゃあ、僕は仕事の関係でこれから外に出るよ。オリビエは今日明日は荷物の整理で忙しいだろうから店に出なくてもいいよ。明後日から少しずつ店の仕事を覚えてくれ。分からないことは僕やルイに遠慮なく聞いてね」

「は、はい」

「じゃあルイもあとは頼んだよ」


レナードさんはそう言うと店の外へと出ていった。


残された僕とオリビエはしばらくレナードさんの出ていった店の入り口を見ていた。
それから、思い出したかのように互いに視線がぶつかり合う。

「……」

「……」

互いに無言のまま、ふいと視線を逸らした。
























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