1 / 9
プロローグ
しおりを挟む
「いらっしゃい」
薄暗い店内に、店番の男と、一人の客。
店内に並ぶのは、一般的に言う「ガラクタ」から、果ては異世界からのよく解らない漂流物……。
いわゆる「ジャンクショップ」であるその店主は、読んでいた本から目線をあげて、胡散臭げにその客を見上げた。
中肉中背……よりは、やや細めの体躯の若い男。暗い色の長い髪を、ゆるく編んで垂らしている。
小奇麗な格好をしており、店内に「ガラクタ」を持ち込んで日銭を稼いでいる輩では、間違いなくないだろう。
「何か?」
店主の言葉に、男はニコリと笑った。子どものように無邪気な笑顔だが、対照的に、実に大人びた、丁寧で落ち着いた口調で、店主に問う。
「何か、「面白そうなモノ」は、ありませんか?」
随分と漠然とした問いに、店主はムッと口を尖らせる。
「あぁ、気を悪くしないでください。ええっとですねぇ……その、自分は異界人の技師でして……何か、故郷のモノが、流れ着いていないかなぁと……」
「なんだい、アンタ異界人か」
金はあるんだろうな……。舌打ちしながら店主が重い腰を上げる。
「もちろんです! その、こっちでの生活、結構長いので……」
異界人……とは、その名の通り、異界からの異邦人。「事故」や、「神隠し」等で時空の裂け目に落ち、運よく「こちら側」に、たどり着いた「無能力者」。
「そこらへんのが、大体異界のモノだよ。何に使うものなのか、さっぱりわからないから、手入れも何もしていないけどな」
店主の言葉に、「ありがとうございます」と、特に気にしたそぶりもなく、男はニコリと笑い、物色をはじめた。
店主が再び、本に目線を下したとき。
「あーッ! いたッ!」
突然、店の外から大声が響く。
「何やってるんですかッ! 陛下ッ!」
店内に飛び込んできた人影に、店主はぎょっと目を見開いた。
褐色の肌に、暗い青の髪。そして、背には半鳥族にしては、やや大きな銀灰色の翼……特徴だけなら、「砂漠の鷹」……此処トルクメキア国内にて、最も有名な、傭兵に瓜二つ。
もっとも、「砂漠の鷹」は、二年前、既に戦死したと聞いているので、別人なのだろうが。
「じぇ……ジェイド……早かったですねぇ」
「早かったですねぇ……じゃ、ないですよ! こんな汚くて治安の悪いところを、一人でまたぷらぷらして!」
さりげなく汚いだの治安が悪いだの失礼な物言いの男にムッとしつつも、ふと、男の言葉が耳に引っかかる。
今、この「無能力者」のことを、「陛下」と、言わなかっただろうか。
「こういうところの方が、「正規ルート」より面白いモノがあるんですよ」
「とかいってこの間暴漢に刺された挙句、持ってた有り金全部盗られてナスカにゲンコツ落とされてたの誰でしたっけ?」
「いいじゃないですか。ちゃんと犯人逮捕されましたし」
いやぁ。この国の役人は実に優秀だ。他人事のように笑う男に対して、店主は目を白黒しながら一連の流れを見守る。
先代……初代トルクメキア皇帝が、とある異界人の技術者をいたく気に入り、側近に加えた上に、後継者に指名して亡くなってから、軽く十年は経つ。これは、この国に住む者なら、誰もが知っている話。
突如現れた胡散臭げな男に国を任せるなんて……と、誰もが最初は思った。が、大陸を平定しようと攻め込んでくる強大なクシアラータを、ありとあらゆる知識や技術を駆使して返り討ちにし続け、東のラディアータや小公国が滅ぶ中、トルクメキアの面積は、彼が即位当時からほぼ変わっていない。
さらに、眉唾レベルのウワサではあるが、毒を受け付けず、刺客による暗殺もことごとく失敗……相手を退け続けているという。
この男……。
「まさか……ジュラン・エトー閣下」
「あ、この辺のもの、まるっと一式、城まで持ってきてください。言い値で買いますから」
「陛下ーッ!」
どう考えても、自力で暗殺者を退けるなんて無理だろ……半鳥族 にズルズルと引きずられて店の外に連れ出される男のまるで無い緊張感に、店主はあっけにとられ、しばらくポカンと見送ることしかできなかった。
薄暗い店内に、店番の男と、一人の客。
店内に並ぶのは、一般的に言う「ガラクタ」から、果ては異世界からのよく解らない漂流物……。
いわゆる「ジャンクショップ」であるその店主は、読んでいた本から目線をあげて、胡散臭げにその客を見上げた。
中肉中背……よりは、やや細めの体躯の若い男。暗い色の長い髪を、ゆるく編んで垂らしている。
小奇麗な格好をしており、店内に「ガラクタ」を持ち込んで日銭を稼いでいる輩では、間違いなくないだろう。
「何か?」
店主の言葉に、男はニコリと笑った。子どものように無邪気な笑顔だが、対照的に、実に大人びた、丁寧で落ち着いた口調で、店主に問う。
「何か、「面白そうなモノ」は、ありませんか?」
随分と漠然とした問いに、店主はムッと口を尖らせる。
「あぁ、気を悪くしないでください。ええっとですねぇ……その、自分は異界人の技師でして……何か、故郷のモノが、流れ着いていないかなぁと……」
「なんだい、アンタ異界人か」
金はあるんだろうな……。舌打ちしながら店主が重い腰を上げる。
「もちろんです! その、こっちでの生活、結構長いので……」
異界人……とは、その名の通り、異界からの異邦人。「事故」や、「神隠し」等で時空の裂け目に落ち、運よく「こちら側」に、たどり着いた「無能力者」。
「そこらへんのが、大体異界のモノだよ。何に使うものなのか、さっぱりわからないから、手入れも何もしていないけどな」
店主の言葉に、「ありがとうございます」と、特に気にしたそぶりもなく、男はニコリと笑い、物色をはじめた。
店主が再び、本に目線を下したとき。
「あーッ! いたッ!」
突然、店の外から大声が響く。
「何やってるんですかッ! 陛下ッ!」
店内に飛び込んできた人影に、店主はぎょっと目を見開いた。
褐色の肌に、暗い青の髪。そして、背には半鳥族にしては、やや大きな銀灰色の翼……特徴だけなら、「砂漠の鷹」……此処トルクメキア国内にて、最も有名な、傭兵に瓜二つ。
もっとも、「砂漠の鷹」は、二年前、既に戦死したと聞いているので、別人なのだろうが。
「じぇ……ジェイド……早かったですねぇ」
「早かったですねぇ……じゃ、ないですよ! こんな汚くて治安の悪いところを、一人でまたぷらぷらして!」
さりげなく汚いだの治安が悪いだの失礼な物言いの男にムッとしつつも、ふと、男の言葉が耳に引っかかる。
今、この「無能力者」のことを、「陛下」と、言わなかっただろうか。
「こういうところの方が、「正規ルート」より面白いモノがあるんですよ」
「とかいってこの間暴漢に刺された挙句、持ってた有り金全部盗られてナスカにゲンコツ落とされてたの誰でしたっけ?」
「いいじゃないですか。ちゃんと犯人逮捕されましたし」
いやぁ。この国の役人は実に優秀だ。他人事のように笑う男に対して、店主は目を白黒しながら一連の流れを見守る。
先代……初代トルクメキア皇帝が、とある異界人の技術者をいたく気に入り、側近に加えた上に、後継者に指名して亡くなってから、軽く十年は経つ。これは、この国に住む者なら、誰もが知っている話。
突如現れた胡散臭げな男に国を任せるなんて……と、誰もが最初は思った。が、大陸を平定しようと攻め込んでくる強大なクシアラータを、ありとあらゆる知識や技術を駆使して返り討ちにし続け、東のラディアータや小公国が滅ぶ中、トルクメキアの面積は、彼が即位当時からほぼ変わっていない。
さらに、眉唾レベルのウワサではあるが、毒を受け付けず、刺客による暗殺もことごとく失敗……相手を退け続けているという。
この男……。
「まさか……ジュラン・エトー閣下」
「あ、この辺のもの、まるっと一式、城まで持ってきてください。言い値で買いますから」
「陛下ーッ!」
どう考えても、自力で暗殺者を退けるなんて無理だろ……半鳥族 にズルズルと引きずられて店の外に連れ出される男のまるで無い緊張感に、店主はあっけにとられ、しばらくポカンと見送ることしかできなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
包帯妻の素顔は。
サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる