電書魔術プロジェクト タブレットマギウス ~ジュラン閣下のやんごとなき道楽~

南雲遊火

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「いらっしゃい」
 薄暗い店内に、店番の男と、一人の客。
 店内に並ぶのは、一般的に言う「ガラクタ」から、果ては異世界からのよく解らない漂流物……。
 いわゆる「ジャンクショップ」であるその店主は、読んでいた本から目線をあげて、胡散臭げにその客を見上げた。
 中肉中背……よりは、やや細めの体躯の若い男。暗い色の長い髪を、ゆるく編んで垂らしている。
 小奇麗な格好をしており、店内に「ガラクタ」を持ち込んで日銭を稼いでいる輩では、間違いなくないだろう。
「何か?」
 店主の言葉に、男はニコリと笑った。子どものように無邪気な笑顔だが、対照的に、実に大人びた、丁寧で落ち着いた口調で、店主に問う。
「何か、「面白そうなモノ」は、ありませんか?」
 随分と漠然とした問いに、店主はムッと口を尖らせる。
「あぁ、気を悪くしないでください。ええっとですねぇ……その、自分は異界人アベリオンの技師でして……何か、故郷のモノが、流れ着いていないかなぁと……」
「なんだい、アンタ異界人アベリオンか」
 金はあるんだろうな……。舌打ちしながら店主が重い腰を上げる。
「もちろんです! その、こっちでの生活、結構長いので……」
 異界人アベリオン……とは、その名の通り、異界からの異邦人。「事故」や、「神隠し」等で時空の裂け目に落ち、運よく「こちら側」に、たどり着いた「無能力者」。
「そこらへんのが、大体異界のモノだよ。何に使うものなのか、さっぱりわからないから、手入れも何もしていないけどな」
 店主の言葉に、「ありがとうございます」と、特に気にしたそぶりもなく、男はニコリと笑い、物色をはじめた。
 店主が再び、本に目線を下したとき。
「あーッ! いたッ!」
 突然、店の外から大声が響く。
「何やってるんですかッ! 陛下ッ!」
 店内に飛び込んできた人影に、店主はぎょっと目を見開いた。
 褐色の肌に、暗い青の髪。そして、背には半鳥族アプサラスにしては、やや大きな銀灰色の翼……特徴だけなら、「砂漠の鷹」……此処トルクメキア国内にて、最も有名な、傭兵に瓜二つ。
 もっとも、「砂漠の鷹」は、二年前、既に戦死したと聞いているので、別人なのだろうが。
「じぇ……ジェイド……早かったですねぇ」
「早かったですねぇ……じゃ、ないですよ! こんな汚くて治安の悪いところを、一人でまたぷらぷらして!」
 さりげなく汚いだの治安が悪いだの失礼な物言いの男にムッとしつつも、ふと、男の言葉が耳に引っかかる。
 今、この「無能力者」のことを、「陛下」と、言わなかっただろうか。
「こういうところの方が、「正規ルート」より面白いモノがあるんですよ」
「とかいってこの間暴漢に刺された挙句、持ってた有り金全部盗られてナスカにゲンコツ落とされてたの誰でしたっけ?」
「いいじゃないですか。ちゃんと犯人逮捕されましたし」
 いやぁ。この国の役人は実に優秀だ。他人事のように笑う男に対して、店主は目を白黒しながら一連の流れを見守る。
 先代……初代トルクメキア皇帝が、とある異界人アベリオンの技術者をいたく気に入り、側近に加えた上に、後継者に指名して亡くなってから、軽く十年は経つ。これは、この国に住む者なら、誰もが知っている話。
 突如現れた胡散臭げな男に国を任せるなんて……と、誰もが最初は思った。が、大陸を平定しようと攻め込んでくる強大なクシアラータを、ありとあらゆる知識や技術を駆使して返り討ちにし続け、東のラディアータや小公国が滅ぶ中、トルクメキアの面積は、彼が即位当時からほぼ変わっていない。
 さらに、眉唾レベルのウワサではあるが、毒を受け付けず、刺客による暗殺もことごとく失敗……相手を退け続けているという。
 この男……。
「まさか……ジュラン・エトー閣下」
「あ、この辺のもの、まるっと一式、ウチまで持ってきてください。言い値で買いますから」
「陛下ーッ!」
 どう考えても、自力で暗殺者を退けるなんて無理だろ……半鳥族アプサラス にズルズルと引きずられて店の外に連れ出される男のまるで無い緊張感に、店主はあっけにとられ、しばらくポカンと見送ることしかできなかった。
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