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第6話 ~大姐大~
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「……ぁあああああぁぁぁああああぁあぁああ!」
ライヨウの絶叫が、エントランスに響く。瞬く間にその場は彼の血で染まった。
「ライッ!」
目を見開き、ビクビクと痙攣をおこすライヨウを、ジュッドは支えた。
額の銃創から、どくどくと血が噴き出すが、その勢いは徐々におさまり、傷も薄くなってゆく。
(相変わらず、なんつー回復力だ……)
ジュッドが感心したのもつかの間……。
「!!!」
突然、ジュッドの首を、ライヨウの右手が締め上げた。
「な、何を!」
首に当たるライヨウの指に、力がこもる。じんわりと熱さを感じた途端、がっくりと力が抜ける感覚に、ジュッドは渾身の力で、ライヨウの手を払いのけた。
精気を抜かれたジュッドが、その場に力なく座り込む。ライヨウはライヨウで、右腕の骨が砕けたか外れたか……振り払った際に嫌な音がしたが、加減のできる状況ではなかった。
傷は完全に塞がったにもかかわらず、ライヨウの焦点はまるで合っていない。
「おい、ライ! どうした……」
ジュッドの言葉に、ライヨウの反応はない。彼の口からは、意思の感じられない、声にもならない「音」が漏れ続けるだけ。
パンッ!
再度、エントランスに銃声が響き、ライヨウの体勢が崩れた。じんわりと彼の背中に、赤い染みが広がってゆく。
ゆっくりと、ライヨウが後ろを振り返った。
彼の背後には、頭を撃たれ、心臓を撃たれても動いているライヨウを凝視して、男が、震える手で銃を構えている。
「マズい……」
危害を加えたことで、ライヨウの標的が男に変わったことをジュッドは察する。しかし、立ち上がろうにも、思うように力が入らない。
「逃げろッ!」
ジュッドの言葉と同時に、ライヨウが男に向かって駆け出した。パンッパンッと銃声が響き、そのたびにライヨウの肩に、腹にと当たるのだが、ライヨウの足を止めることは叶わず、次第にそれはカチッカチッと、彼にとって、絶望の音となる。
「うぁ……あぁあぁぁ……」
「ば……化物ッ!」
ライヨウの「音」と、男の「声」が重なる。
ライヨウが、先ほどジュッドにしたように、男の首を左手で掴んだ。
「ひぃッ……」
しかし、男とライヨウの間に、突然大柄な男が割って入り、ライヨウの体が軽々と吹っ飛んだ。
(な……一体、どこから現れた……?)
ジュッドは慌てて手を伸ばし、すんでのところでライヨウを抱きとめる。
「驚いたねぇ……」
ジュッドが顔を上げると、二階の階段の手すりから、二人の男女が見下ろしていた。
「久しいじゃないか」
瀟洒な細工が施された杖をついた老婆が、しわくちゃの目を細めて、懐かしそうに二人を見つめた。
もちろん、ジュッドはこちらの世界にいる人間とは面識が無いので、彼女が「久しい」と称しているのは、ライヨウの事なのだろう。
「大姐大。不法侵入者の制圧、ほぼ完了いたしました」
いつの間に移動したのか、ライヨウを投げ飛ばしたあの大柄な……短い金髪の若い黒服の男が、恭しく老婆の手をとる。彼と、もう一人の男……相対するように、白い衣服に身を包んだ小柄な男に支えられ、老婆は階段を降りてきた。
「う……あ……」
ライヨウが、うめくような声をあげる。焦点は相変わらず定まってないが、手を伸ばし、何か言いたげに、パクパクと口を動かした。
「あーあ。なんだい。アタシの顔も、わからなくなっちまったのかい?」
言葉は冷たく、そっけないが、その表情は慈愛に満ちたもので、ライヨウと老婆、この二人が、親しい仲であったことが窺える。
「修司! 獅子丸!」
老婆の言葉に、ライヨウが、明らかに反応した。バネのように素早く起き上がり、小柄な、白い男に襲いかかる。
小柄な男……年齢は、六十代半ばくらいであろうか……は、ライヨウの動作をそのまましなやかに受け流し、逆にライヨウを組み伏せた。
「ちょっと遊んでやりな!」
「御意」
老婆の言葉に、男たちはうなずく。老婆はそのままジュッドに近づき、「大丈夫かい?」と、手を差し伸べた。
「まぁ、そんなに身構えないでおくれよ」
固まるジュッドに、老婆はニンマリと笑い、そして、急に神妙な表情をして、短く問う。
「……「弾」は、どうなった?」
「あ……」
ジュッドは合点がいったように、短く呟く。
ライヨウが撃たれたあの時、自分は彼のすぐ後ろに立っていた。
にもかかわらず、自分に弾は当たっていない。
「たぶん、体内に……」
一番最初に直撃した弾が、脳の蘇生を阻害している……? ジュッドのたどり着いた結論に、忌々しげに老婆はうなずく。
「……貫通しとけば、うまい具合に治ったんだろうけどねぇ」
そうそう、事はうまく運ばぬな……と、老婆は肩をすくめた。そして、大声で叫ぶ。
「野郎ども! この建物にある、ありったけのMANA持ってきなッ!」
MANA……探し求めてきたその名称を聞き、ジュッドは目を見開いた。数人の男たちが、ゴロゴロと複数のドラム缶を転がしてくる。
そして、そのまま横倒しのままのドラム缶の蓋を開けた。
「アンタとアイツは、コレを見たくて、此処に来たんだろう?」
「な……」
なんで知っている……! 驚くジュッドをよそに、「ちょっと失礼」と、老婆はライヨウが持っていた……今は入り口にぶちまけられたままになっているカバンの中から、件のタブレットを取り出した。
「あぁ……確かに、夏に天津で失くした試作型だね……あの爆発で、よく壊れなかったモンだ……」
慣れた手つきで、タブレットを起動。そして、アプリを選択。
「いいかい? ツキコにキャナル! ちゃんとよぉーく、計測しておくんだよ」
老婆が、ジュッドにニヤリと、口角を上げて笑った。アルファベット・ナンバーズ……それも、固有のAIの名前まで言い当てられ、ジュッドはもう、何が何だかわからない。
「コレが、電書魔術ってヤツだ」
ぽうッ……と、老婆の持つタブレットの周り……内蔵されたSIMと、それに反応してMANAが、輝きはじめる。
「火尖鎗ッ!」
老婆の言葉とともに、大きな複数の炎の鎗が形成された。
「ゆけッ!」
炎の鎗は、老婆に従順に従い、ライヨウと二人の男に突っ込んだ。
「大姐大! やりすぎですッ!」
少しは加減してくださいッ! と、炎の鎗をなんとか避けた男……白い服の方が、非難めいた声をあげる。
直撃した黒服の大男とライヨウは吹き飛ばされ、盛大に壁に叩きつけられた。少々服が焼けこげ、破れてはいるものの、大男は何事もなかったかのようにむくりと起き上がるが、ライヨウは目を廻したのか、ぐったりと動かなくなった。
そんな男たちに対し、老婆は「安心しな」と、実に生き生きとした表情で叫ぶ。
「この程度でくたばるモンか! アタシが産んだ愛しい息子がね!」
ライヨウの絶叫が、エントランスに響く。瞬く間にその場は彼の血で染まった。
「ライッ!」
目を見開き、ビクビクと痙攣をおこすライヨウを、ジュッドは支えた。
額の銃創から、どくどくと血が噴き出すが、その勢いは徐々におさまり、傷も薄くなってゆく。
(相変わらず、なんつー回復力だ……)
ジュッドが感心したのもつかの間……。
「!!!」
突然、ジュッドの首を、ライヨウの右手が締め上げた。
「な、何を!」
首に当たるライヨウの指に、力がこもる。じんわりと熱さを感じた途端、がっくりと力が抜ける感覚に、ジュッドは渾身の力で、ライヨウの手を払いのけた。
精気を抜かれたジュッドが、その場に力なく座り込む。ライヨウはライヨウで、右腕の骨が砕けたか外れたか……振り払った際に嫌な音がしたが、加減のできる状況ではなかった。
傷は完全に塞がったにもかかわらず、ライヨウの焦点はまるで合っていない。
「おい、ライ! どうした……」
ジュッドの言葉に、ライヨウの反応はない。彼の口からは、意思の感じられない、声にもならない「音」が漏れ続けるだけ。
パンッ!
再度、エントランスに銃声が響き、ライヨウの体勢が崩れた。じんわりと彼の背中に、赤い染みが広がってゆく。
ゆっくりと、ライヨウが後ろを振り返った。
彼の背後には、頭を撃たれ、心臓を撃たれても動いているライヨウを凝視して、男が、震える手で銃を構えている。
「マズい……」
危害を加えたことで、ライヨウの標的が男に変わったことをジュッドは察する。しかし、立ち上がろうにも、思うように力が入らない。
「逃げろッ!」
ジュッドの言葉と同時に、ライヨウが男に向かって駆け出した。パンッパンッと銃声が響き、そのたびにライヨウの肩に、腹にと当たるのだが、ライヨウの足を止めることは叶わず、次第にそれはカチッカチッと、彼にとって、絶望の音となる。
「うぁ……あぁあぁぁ……」
「ば……化物ッ!」
ライヨウの「音」と、男の「声」が重なる。
ライヨウが、先ほどジュッドにしたように、男の首を左手で掴んだ。
「ひぃッ……」
しかし、男とライヨウの間に、突然大柄な男が割って入り、ライヨウの体が軽々と吹っ飛んだ。
(な……一体、どこから現れた……?)
ジュッドは慌てて手を伸ばし、すんでのところでライヨウを抱きとめる。
「驚いたねぇ……」
ジュッドが顔を上げると、二階の階段の手すりから、二人の男女が見下ろしていた。
「久しいじゃないか」
瀟洒な細工が施された杖をついた老婆が、しわくちゃの目を細めて、懐かしそうに二人を見つめた。
もちろん、ジュッドはこちらの世界にいる人間とは面識が無いので、彼女が「久しい」と称しているのは、ライヨウの事なのだろう。
「大姐大。不法侵入者の制圧、ほぼ完了いたしました」
いつの間に移動したのか、ライヨウを投げ飛ばしたあの大柄な……短い金髪の若い黒服の男が、恭しく老婆の手をとる。彼と、もう一人の男……相対するように、白い衣服に身を包んだ小柄な男に支えられ、老婆は階段を降りてきた。
「う……あ……」
ライヨウが、うめくような声をあげる。焦点は相変わらず定まってないが、手を伸ばし、何か言いたげに、パクパクと口を動かした。
「あーあ。なんだい。アタシの顔も、わからなくなっちまったのかい?」
言葉は冷たく、そっけないが、その表情は慈愛に満ちたもので、ライヨウと老婆、この二人が、親しい仲であったことが窺える。
「修司! 獅子丸!」
老婆の言葉に、ライヨウが、明らかに反応した。バネのように素早く起き上がり、小柄な、白い男に襲いかかる。
小柄な男……年齢は、六十代半ばくらいであろうか……は、ライヨウの動作をそのまましなやかに受け流し、逆にライヨウを組み伏せた。
「ちょっと遊んでやりな!」
「御意」
老婆の言葉に、男たちはうなずく。老婆はそのままジュッドに近づき、「大丈夫かい?」と、手を差し伸べた。
「まぁ、そんなに身構えないでおくれよ」
固まるジュッドに、老婆はニンマリと笑い、そして、急に神妙な表情をして、短く問う。
「……「弾」は、どうなった?」
「あ……」
ジュッドは合点がいったように、短く呟く。
ライヨウが撃たれたあの時、自分は彼のすぐ後ろに立っていた。
にもかかわらず、自分に弾は当たっていない。
「たぶん、体内に……」
一番最初に直撃した弾が、脳の蘇生を阻害している……? ジュッドのたどり着いた結論に、忌々しげに老婆はうなずく。
「……貫通しとけば、うまい具合に治ったんだろうけどねぇ」
そうそう、事はうまく運ばぬな……と、老婆は肩をすくめた。そして、大声で叫ぶ。
「野郎ども! この建物にある、ありったけのMANA持ってきなッ!」
MANA……探し求めてきたその名称を聞き、ジュッドは目を見開いた。数人の男たちが、ゴロゴロと複数のドラム缶を転がしてくる。
そして、そのまま横倒しのままのドラム缶の蓋を開けた。
「アンタとアイツは、コレを見たくて、此処に来たんだろう?」
「な……」
なんで知っている……! 驚くジュッドをよそに、「ちょっと失礼」と、老婆はライヨウが持っていた……今は入り口にぶちまけられたままになっているカバンの中から、件のタブレットを取り出した。
「あぁ……確かに、夏に天津で失くした試作型だね……あの爆発で、よく壊れなかったモンだ……」
慣れた手つきで、タブレットを起動。そして、アプリを選択。
「いいかい? ツキコにキャナル! ちゃんとよぉーく、計測しておくんだよ」
老婆が、ジュッドにニヤリと、口角を上げて笑った。アルファベット・ナンバーズ……それも、固有のAIの名前まで言い当てられ、ジュッドはもう、何が何だかわからない。
「コレが、電書魔術ってヤツだ」
ぽうッ……と、老婆の持つタブレットの周り……内蔵されたSIMと、それに反応してMANAが、輝きはじめる。
「火尖鎗ッ!」
老婆の言葉とともに、大きな複数の炎の鎗が形成された。
「ゆけッ!」
炎の鎗は、老婆に従順に従い、ライヨウと二人の男に突っ込んだ。
「大姐大! やりすぎですッ!」
少しは加減してくださいッ! と、炎の鎗をなんとか避けた男……白い服の方が、非難めいた声をあげる。
直撃した黒服の大男とライヨウは吹き飛ばされ、盛大に壁に叩きつけられた。少々服が焼けこげ、破れてはいるものの、大男は何事もなかったかのようにむくりと起き上がるが、ライヨウは目を廻したのか、ぐったりと動かなくなった。
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