精霊機伝説

南雲遊火

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トラファルガー噴火編

第五章 処分

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「君らの妹たちは、なかなか面白い情報を持ってきたね」

 ランタンの明かり一つの薄暗い部屋の中、興味深い……と、報告してきた白い服の元素騎士に、青年は無邪気に、にっこりと笑う。

「ところで、二等騎士ラング・ザインの精霊機適正は、どのくらいだったかな?」
「適正値CマイナスC-……操者として、ギリギリのラインですね。ちなみに、三等騎士リイヤ・プラーナおよび三等騎士リイヤ・オブシディアンともに適正値はB。私と二等騎士ラング・ビリジャンが、ともに適正値BプラスB+です」

 アイツ、そんなレベルでよく選ばれたな……と、元素騎士の隣で、赤い目と髪の男が、呆れた表情で頭を抱え、ため息を吐いた。

「まー、あらかたどうせ、ウチの従兄伯父おじうえ影響せいでしょーけどね」

 自嘲気味に笑う男に、報告を受ける側の青年が、一緒に笑う。

「エゴ丸出しの人間側が連れてきた操者のあまりの出来の悪さに、精霊機が怒って、自分で操者を選んじゃった……ってトコかな。うーん、他人事じゃないけど、妙に情けない前例作っちゃたなぁ……」

 話す内容は年相応だが、言動や仕草が相反して幼い。そんな青年の様子に、大抵の者は、ちぐはぐな印象を抱く。

 君も性格悪いから、精霊機に嫌われないようにね……。妙に心配そうな青年の言葉に、ゴホンッ……と、元素騎士は咳払いをした。

「お言葉ながら、リイヤ・プラーナとリイヤ・オブシディアンの報告が正確だとすれば……その新しい地の元素騎士・・・・・・・・・の適正値は……A3プラスA+++ということになります。千年に一度の伝説級ですね」

 例外そんなのと、一緒にしないでいただきたい……と、元素騎士は黒の瞳でギロリと睨んだ。

 怖い怖い……と茶化すように青年は両手を手をあげる。

 相当気分を害したか、いまだに睨みつつも、職務的に「如何なさいますか?」問う元素騎士に、んー……と、青年は腕を組んだ。
 しかし、それはポーズだけ。答えは既に決まっているようで、あっさり口にした。

「一応ボク、『陛下』って立場になってるワケだからさ。……やっぱ会ってみたいよね」

 青年は朱色の瞳を細め、にっこりと笑う。

「連れてきてよ。その伝説級」


  ◆◇◆


「と、言うわけだ。連れてこい」

 あっさり言ってのける通信相手に、ステラは開いた口がふさがらない。

「陛下といい隊長リーダーといい、たまーにですけど、結構酷い無茶言ってくれますよねぇ」
「無茶ではないだろう。とにかく、連れて来いというのだから連れてこい。手段は問うな。家族を人質にとるなり殺すなり、町を焼くなり方法は問わん」

 それを、無茶と言わず、何を無茶と言うのか……あっけにとられるステラなど、気にした様子もなく、隊長──光の精霊機デウスヘーラーの操者、チェーザレ=オブシディアンは、好き放題、言うだけ言って、ぶっつりと通信を切った。

 もちろん、隊長も本気でマルーンを焼き討ちするつもりなんて、さらさら無いのだろうケド、なんてこったい……ステラは頭を抱え、ヘパイストの心臓コックピットの床に突っ伏す。

「へパのあんちゃん」──と、精霊機に宿る「精霊」を見るあの男モルガは言っていたか……。

 そんな存在など、ステラはまったくもって気づきもしなかったが、もし、そんな存在が、本当に存在していたなら……『彼』は一体、どんな顔で、この通信を聞いているのだろう。

「ゴメンね……へパちゃん。とりあえず、私は絶対、そんな酷い手は使わないから!」

 ──とは、いうものの。
 打つ手は今のところ、まったくもってナシ。

「やれやれ……どうやって、「説得」しましょうかねぇ……」

 うんうんとうなりながら、ステラは愛機を降りた。


  ◆◇◆


(どうした、もんかのぅ……)

 気まずい沈黙に、モルガは頭を抱える。

 チラリと視線をあげると、机を挟み、ギロリと睨む黒い瞳。

 再び伏せて、はぁ……と、モルガはため息を吐いた。

主様マスター、大丈夫ですか?』

 幼い少女が、モルガに囁く。
 モルガは、ため息とともに、小声で答えた。

「ルツか……ちぃと、たいぎぃしんどいのぉ……」

 地の精霊機ヘルメガータ──に宿る、「精霊」と思わしき、幼い少女。
『ルツ』と、彼女はモルガに名乗った。
 彼女は精霊機から離れ、心配そうに、軟禁状態のモルガに付き添っている。

 モルガが彼女に手を引かれ、精霊機に乗って。
 そこで、彼女から、火山を鎮める「提案」を受けた。

 複数の精霊機の協力を得ることで、「そういうこと」ができることも。
 ルツを介して、二機の精霊機に宿る精霊に交渉し、協力を得たことも。

 モルガは最善を尽くすことができたし、自分の行動は間違ってはいないと、胸を張って言える。

 ──とは、いうものの。

(ワシもちぃと、言い過ぎたしのぉ)

 攻撃を受け、ギードの言葉につい、頭に血が上って、暴言を吐いた自覚はある。

「肝心なときに役に立たん、『コイツルツの声』に耳もかさん、『精霊機の使い方』も知らないド三流サンピン……聞き分けの悪い、騎士様どもじゃのぉ!」

 冷静になった今なら言える。先ほどルクレツィアも、ハデスヘルの操者でありながら、「ハデスさん」を「見えない」と、言っていたではないか……。

「耳もかさない」のではなく、彼らはどういうわけか、精霊ルツたちの声が聞こえない……。

 はぁぁぁ……。何度目かもわからない、モルガが深いため息を吐いたその時。

「やっだぁー。なんだか辛気臭いわね!」

 あっけらかんとした少女の声に、モルガとルクレツィア、双方が顔をあげた。

「ごっめん! ルーちゃん。遅くなって。連絡はすぐ終わったんだけど、その後隊長リーダーに無茶振りされちゃってさぁ」
「兄う……ラング・オブシディアンからの指示は?」

 ルクレツィアの言葉に、ステラは「ちょっと待って」と、ルクレツィアを止め、彼女の隣に座り、モルガに向かい合った。

「……というわけで、まずはそっちの伝説級の新人君の処分から」
「はい?」
「はぁ?」

 ナニソレ……といった表情で、ルクレツィアとモルガが同時にステラを見つめた。

「仲、良いじゃない」
「そんなことは無い!」
「そがぁなこたぁない!」

 やはり、同時に否定し、ステラはクスクスと笑った。

「あなたたちが気が合うことは、よーく、わかりましたって」

 思わず赤面しつつ、モルガとルクレツィアはお互い視線をそらした。
 これ以上同じ言葉を重ねたくなかったので、二人とも沈黙。

 やっぱり、息ぴったりじゃない……と、ステラは思ったが、話が進まないので、とりあえず、この話は置いておくことにする。

「とりあえず、今回の件は「こちら側の不手際」であることは認めます」

 ステラはニッコリと笑った。

「異例の状況ではあるけれど、ラング・ザインは諸々の状況から降格および、『地の元素騎士エレメンタルナイツ』から除籍。代わりに、モルガナイト=ヘリオドール。君を、地の元素騎士として迎え入れる……というのが、『上』の決定みたいです! おめでとう! モル君!」
「はぁ?」

 それは困る! と、モルガは立ち上がった。

「え? モル君呼びは嫌?」
「そげな話じゃない! ワシは、VD技師になりたいんじゃ!」

 きょとん……と、小さな精霊がモルガを見上げた。

主様マスターは、私が、嫌い?』
「いや。待て。ルツ。お前さんが嫌なワケじゃないんじゃが……」

 涙目のルツに、おろおろとモルガは口ごもる。
 が、とりあえず「今はこっちじゃ」と、騎士二人に向かい合った。

「さっきもゆーたように、ありゃぁ非常事態っちゅうか、苦肉の策っちゅうか……とにかく、ワシゃー、騎士じゃなくVD技師になりたくて、帝都に行ったんじゃ!」
「あぁ、その件だけど……」

 パンパンッ! と、ステラは手を叩いた。

「入ってきて!」

 ステラの合図とともに、室内になだれ込んできたのは、モルガの兄弟たちだった。
 皆、異様なテンションに、思わずモルガは後ずさり、驚いたルツも、彼の後ろに隠れてしまう。

「モルガ兄ちゃん! 操者に選ばれたんじゃと! おめでとう! ええのぉ精霊機! 男なら憧れるぜッ!」
「兄ちゃん! 助けてくれてありがと! カッコよかったよ!」

 お、おう……と、モルガは手を握る弟二人に答える。
 しかし、兄と姉の台詞に、モルガは言葉を失った。

「いやぁ……親父の夢じゃった「ヘリオドール」の工房を、まさか自分の代で帝都に構えることができるようになろうとは……モルガのおかげじゃ! 本当に、モルガは親孝行じゃのぉ!」
「ウチも……とうとう脱! 修理士……憧れの専業主婦……場合によっては玉の輿……」
「おい!」

 思わずモルガはステラの肩を掴む。

「どういうことじゃ!」
「モル君! ビジネスの話を取引しましょう! あなたにとっても、決して悪い話じゃないわ! もし貴方が精霊機の操者になってくれたら、帝都一番のVD技師を紹介してあげる!」

「酷い手は使わない」と言い切った少女が打った手は、「買収」であった。

 ……確かに、遥かにマシではあるのだが──隣で同僚ルクレツィアが言葉を失ったまま唖然と見上げ、ヘパイストの精霊──人の好さそうな赤眼朱髪の青年が、苦笑を浮かべながら様子を見ていたことは、言うまでもない。
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