精霊機伝説

南雲遊火

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つかの間の平穏編

第十八章 リハビリテーション

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「なんで、貴方が此処に居るんですか」
「むしろ、なんでこーゆーことに、なっとるんかのぉ……」

 ふくれっ面で座り込むユーディンを囲み、ルクレツィアに呼び出されたチェーザレと、プラーナ邸から帰ってきたモルガカイが苦笑を浮かべながら見下ろした。

「あ、あのぉ……離していただけませんか?」
「やだッ!」

 ユーディンはモリオンを抱きしめて離さないし、カイが兄の前でボロをだすのではないかと、内心はらはらしながらルクレツィアは見守る。

「……なんで、貴様まで居る」

 声には出さないが、カイがルクレツィアを睨み、そう、口を動かした。
 ──とりあえずルクレツィアはそれを見なかったことにして、素知らぬ顔で居座り続ける。

「えぇっと、話をまとめると、ウチのねーちゃんが、陛下のかーちゃんに、そっくりじゃ……って事でええかの?」
「言い方はアレだが、まぁ、そういうことだ」

 ユーディンの母──前皇帝の皇后ライラが、ユーディンをかばい、暗殺されたことをチェーザレに教えてもらった事は、融合したモルガの記憶から、カイは把握している。

 さらに、そのライラが、チェーザレとルクレツィアの父親の従妹であることも、確か聞いたような……。

「えぇっと、そんな凄い方と、似てますか……ね?」

 困り顔のモリオンに、チェーザレとルクレツィアが声を合わせた。

『瓜二つだな』

 はわわわわ……と、モリオンが慌てた。

「……しかし、陛下。大丈夫・・・なのですか? その方も女性ですけど」
「母上だから、大丈夫!」

 ニッコリと笑い、モリオンを抱きしめる手に力が入る。
 一同、「違う、そうじゃない」と首を横に振るが、ユーディンの頭の中では、『モリオン=母親』と認識が固定されてしまったようで、何の事だか理解できておらず、口を尖らせた。

「埒が明きませんが……兄上、ある意味、陛下が女性を克服する好機では……?」

 ひそひそと、ルクレツィアとチェーザレ、モルガカイが顔を近づけ、小声で話す。

「ふむ……確かにそうではあるが……」
「ねーちゃん、婚約者おるぞ」

 何ッ! ──チェーザレが、モルガカイに問う。

「相手はどこのどいつだ」
「わ、ワシも詳しくは知らん。……けど、なんか、そがーな話を、兄貴がしとったような……」

 破談になったとも聞いとらんし、たぶん、現在進行形……と、チェーザレにホールドアップでカイが答えた・・・・・・

 ハタから見ると、カイではなく本当にモルガのようではあるのだが、本来の『シャダイ・エル・カイ』の性格や能力を知っているルクレツィアは、先ほどから背筋に冷たいものが走るし、胃がキリリと痛む。

 ルクレツィアの心配など知る由もなく、チェーザレは腕を組み、しばし考える。

 そして。

「陛下、すみません。『お母上』を、お借りしても、よろしいでしょうか?」


  ◆◇◆


「そんで、受けてきたん?」

 人が良いんだから……と、カイヤが苦笑を浮かべた。

 ルクレツィアの兄と名乗った黒髪の騎士の提案──否、折衷案は、『陛下の新しい義足を新調すること』。

 ユーディンに、「今後もちゃんと会いに来る」事を理解させ、約束したことで、モリオンは、ようやく、その場を解放された。 

 皇帝陛下ユーディンが義足であることは、一部の者にしか知られていない事なので、大々的に工房の広告にはならないだろうが、報酬は破格のものであったし、モリオンからしても、十分、やりがいのある依頼と言えた。

「でも、騎士様ルクレツィア様の腕も、あるんじゃろ?」
「ああ。そっちは大丈夫」

 大丈夫? 姉の言葉に、カイヤは疑問を浮かべる。

 思い出して、クスクスとモリオンの顔に、笑みがこぼれた。

「帰りに、モルガに、ちょっと……ね」


  ◆◇◆


「……何故だ。何故に、今日はこうもバレる……」

 百歩譲ってルクレツィアの時は、「人間には必ず睡眠が必要である」ということを重要視していなかった自分のミスと言えよう。

 しかし、細心の注意を払い、久しぶりに会ったモリオン。
 なんとか乗り切れると思っていたのに、二人きりになった途端、ものの見事に、「ところで、どちらさま?」と言われる始末。

「姉弟、だからでは?」
「しかし、モルガの記憶によると、五年も会っていなかったのだぞ!」

 貴様に何がわかるッ! と、ルクレツィアに怒鳴ると、カイが自棄を起こしたように、今回はきちんと整えられた寝台に、頭から突っ込んで伏せた。

 まったく、人格も最後まで融合していれば、きっと、こんなことにはならなかったのに……。

「人間とは、実に不便極まりない!」

 お前のせいだッ! と、起き上がるカイに、「人のせいにするな!」と、ルクレツィアが怒鳴り返した。

「むしろ、お前がモルガに憑くからこんなことに……」

 ふと、気になっていたことを、ルクレツィアはどストレートに切り出した。

「お前……いや、エロヒム含めてだが……お前は、一体なのだ?」
「あぁ? 我は、シャダイ・エル・カイだ。……何と突然言われても……」

 カイは眉間にしわを寄せながら、しっくりくる『言葉』を探す。

「そうだな。強引であり、ではあるが、無理やり言葉を当てはめるなら、おまえたちが、『精霊機』と呼ぶ、あれの『意識』や『魂』といったところだな……」
「ミカたちと、どう違うんだ」

 一緒にするな。と、不快極まりそうに、カイはルクレツィアを睨んだ。

「アレらは、我らの力の『封印プロテクト』だ。『制御装置』とも言うな」
「要するに、貴様らが好き勝手しないように、監視されている……ということか」

 忌々しそうに眉間にしわを寄せていたが、ルクレツィアの言葉が、言い得て妙だったようで。

「そういうことだ。今は『操者の体』をに、ルツの監視を振り切って、かなり突っ走らせてもらってはいるがな」

 やっぱりコイツを早くなんとかして、モルガを元に戻さなければ……カイの邪悪な笑みに、ルクレツィアは、小さくため息を吐いた。


  ◆◇◆


 ルクレツィアを部屋に返し、少し、時が経ち。

 真夜中、むくりとモルガ・・・は寝台から起き上がり、窓を開けた。

「では、弟に伝えてください」

 モルガに宿る、他人カイの存在を一目で見抜いた姉は、彼を通してモルガに伝える。

「後で、工房ウチにいらっしゃい。あなた・・・に、義手の作り方を、教えてあげる」

 カイを通して断ったのだが、姉は、頑として聞かなかった。
 性格はおっとりとしているのだが、昔から意外と、頑固で譲らないところがある。

 モルガは、上半身だけ裸になって、深く、息を吸った。

(精神統一……落ち着いておれば、なんとかなりそう……なんじゃがのぉ……)

 瞳の色は、赤のまま。しかし、銀の髪の毛は長く波打ち、金の鱗は月の光を柔らかく反射して──そして、銀色に輝く六枚の翼を、闇夜にはためかせる。

 シャダイ・エル・カイとの、知識や記憶、能力の共有──唯一お互い独立しているのは、『人格』のみ。

 上着を持って、帝都の空を、モルガは飛んだ。

 地面に立つと、翼と鱗がバラバラと地面に散らばる。ズボンの中にも鱗が落ちて、モルガが歩くたび、鈴のような音を立ててこぼれた。
 髪は今切るわけにはいかないので、頭に巻いたバンダナを一度ほどき、後ろで一つに結ぶ。

 工房は、夜にも関わらず明かりがついており、モルガは、上着を着ると、そのドアを開けた。

「ねーちゃん……」
「ようこそ。私の工房へ。モルガ。歓迎するわ」

 近づく姉に、「ストップ!」と、モルガが止める。

 急に近づかれ、少し気が動転したせいか、振れていたドアがサラサラと崩れ、大きな穴が開く。

 モリオンが驚き、口を手で押さえた。

「……ごめん、ねーちゃん。さっきもカイ・・が、うとったと思うけど……近づかんといて。ほんまに、危ないけぇ……」

 弟の本当に辛そうな表情に、モリオンは「わかりました」と、うなずいた。

「道具と材料は一応準備したけれど……その様子だと、予備が必要かもね」
「なるべく、余計なモンは壊さんよぅ、気をつける……」

 よろしい。と、姉は先生の──もっとも、VDの先生ソルと比べたら、ずいぶんと甘い顔ではあるのだが──顔をして、にっこりと笑った。

 昼間、皇帝陛下ユーディンの女性恐怖症克服の協力を受けたけれど。
 モルガにとっても、これは、一種のリハビリテーション。

「モルガ。カイヤの手伝いで、確か義肢の修理はできるのよね? なら、道具の使い方はとりあえずは省略。とりあえず、やってみましょうか」

 こうして、ルクレツィアの義手の制作は、始まった。
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