精霊機伝説

南雲遊火

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激闘アレスフィード編

第二十七章 アキシナイト

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 その日、『彼』は、夜勤だった。

 アリアートナディアルで壊れたヴァイオレント・ドールVDの修復もあらかた終わり、他の同僚たちと入れ替わりで、休憩に入ろうとしていた、まさにその時。

 不意に、暗闇の中に、人影が動いたような気がした。

「誰だッ!」

 第五整備班の班長、ソル=プラーナ。当代一の変人……もとい、天才VD技師。
 その面倒くさ……じゃなかった、厄介な性格ゆえに、無駄に他班の班長たちに嫌われてしまい、時々、嫌がらせのための不審者および無断侵入者が現れる。

 今日も、そんな類の輩だと、『彼』は思っていた。

 手に持つ明かりを向けると、ゆらり──と、見間違えることなく、影が動く。

「コラッ! 待て!」

『彼』が、追いかけた。影はゆっくりと人が歩く速度で進むが、何故か、大元の姿が見えない。

「どこだ!」

 数多くのVDが保管されている区画にたどり着き、VDとVDの隙間に、明かりを当てる。

「何者だ!」

『タレイア』と『カリオペイア』の間に、人影が見えた。
 急いで近づき、明かりを当てる。

 しかし。

「ひッ!」

 人間の大きさや、大まかな形を模してはいるのだが──人型ヒトガタと呼ぶには少しいびつな、白い土の塊。

 それが、ゆっくりと動きながら、じぃっと、『カリオペイア』を見上げている。

 ふいに、ドサリと土人形の形が、一気に崩れた。その場にそのまま、サラサラとした、砂の山が出来上がる。

「ば……バケモノッ!」

『彼』は後ずさり、そして、逃げるようにその場を後にした。


  ◆◇◆


 地下神殿での乱闘から、翌朝。

『一晩きっちり休んだのだから、もう大丈夫であろう? で、エヘイエーが消えたとは、一体どういうことか、きっちり一から十まで、説明してもらおうではないか』

 ハデスヘルの心臓コックピットに、元素騎士とアックス、そしてオマケのユーディンが集まり、皆で座り込んだ。
 いくら精霊機の心臓コックピットが広いとはいえ、さすがにこの人数だと、結構狭く感じる。

 ルクレツィアと同じエロヒムの声に、一同 は驚くが、ルクレツィアが「とりあえず今は……」と、話を促す。

「あーもー、たいぎぃめんどくさいのぉ……エロヒムよ。年増のヒステリーは嫌われるぞ」

 アックスが、頭や耳から生えた翼を、面倒くさそうにパタパタと動かした。

『誰が年増でヒステリーだッ!』

 エロヒムを怒らせ、モルガカイの時と同様、闇がその体にまとわりついて、今回はそのまま吊るされてしまったことはさておき……。
 その状態で仕方なく、アックスは事情説明を始めた。

「ほじゃぁ、まぁ。……ルクレツィアのねーちゃんが、アレスフィードを持って帰ったあの日の夜、ワシゃーそこのクソガキに此処に連れてこられての。「操者に選ばれた」っちゅーて」
『エヘイエー様が、おっしゃったんです。『あの時、セトを守れなかったのは──シャダイ・エル・カイに負けたのは、我に肉体が無かったからだ』と』

 昨日の様子とはまるで違う、おとなしく落ち込んだ様子のエノクが、正座でガックリうなだれながら、アックスと一緒に、皆に説明をする。

『なので、一番エヘイエー様に適応しそうな人間を探して、連れてきたんです……エヘイエー様の、器にするために・・・・・・・
「ホントにひっでー話じゃろ……コレ……」

 ワシ被害者! だから降ろして! と吊るされたままのアックスを、エロヒムは無視する。

『それで、エヘイエーの奴は、一体、どうしたというのだ?』
「それがのー、どう言葉にしていいものか、悩ましくはあるんじゃが……どうも、エヘイエーは、かなり『疲れていた』みたいでのー」

 はぁ……と、アックスがため息を吐く。

信仰の枯渇・・・・・も、もちろんじゃが……アレスフィードは操者を殺し・・・・・過ぎている・・・・・
「? どういうことだ? 戦争だから、相手が死ぬのは……」

 ねーちゃん、そうじゃない……と、アックスがルクレツィアを遮った。

「エヘイエーが言う操者は、アレスフィード・・・・・・・の操者の事じゃ」

 つまり──。

「アレスはの。精霊機一の運動性と機動力、スピードを誇る機体じゃが、いかんせん、他と比べて装甲が薄すぎる・・・・・・・。なのに、得意とする武器と、その戦法は近距離戦ときた。自身が守るべき国と国民を失い、さらに自身を駆る操者すら守れぬ『神』。……と、まぁ、ここまで言えば、エヘイエーの状況気持ちが、多少はわかるかの……」

 幼い少年の遺体が、ルクレツィアの脳裏をよぎる。
 追い詰められた状況で、彼の神エヘイエーの悲しみは、いかほどであったか……。

「『神』として、自身の限界を感じていたものの、かといって、『神』故に、その責任すべて・・・途中放棄丸投げすることもできんかった。信仰の枯渇はその身を苦しめたが、かといってバチカルになって反転してなるものかと、神としてのプライドも、それなりにあったしの……。っちゅーワケで、ギリギリの理性で、ウチの兄ちゃんとシャダイ・エル・カイの事を知り、自分の記憶と役目を、自分ではない誰か・・に、引き継いでもらうことにして、自分は身を引いた……っというワケじゃ……もっとも」

 引き継ぐ側のワシに、選択肢・・・、全然なかったけどのぉ。と、アックスは悲しそうに付け足す。

「まー、そんな理由で、ワシの事は、二代目・・・エヘイエーとでも思ってくれりゃーいい。兄ちゃんたちシャダイ・エル・カイとは違って、存在としては、完全に融合しとるしのぉ。……で、エロヒムよぉ……」

 そろそろ、降ろしてつかぁーさい……と、情けない声をあげるアックスに、ため息を吐きながら、エロヒムは解放した。
 アックスはそのまま、バサバサと背中の大きな五対の翼と、手足の小さな複数の翼を動かし、空中で態勢を整える。

「問題は……ワシ、どうやって元の姿アックスにもどりゃいいんか、わからんっちゅー事なんじゃが……コレ、どうしたもんかのぉ……」
「……」 

 全身、目と翼まみれの体──言うほど本人に深く気にしている様子は無いのだが、そのまま出歩くと、その異様な不気味さで確実に騒ぎになるのは目に見えている。

「とりあえず、ウチの初代の風の元素騎士は君で決定だよね! おめでとう!」
「ただし、貴様はしばらく此処で待機! 警備の人間もしばらくは外しておくから、元に戻れるようになるまで、人前に出るんじゃない!」

 ユーディンは能天気に笑い、チェーザレが珍しく、顔をしかめた。


  ◆◇◆


 カタン──隣の部屋の物音に、ふと、作業中のモリオンは顔をあげた。
 傾かけた柔らかい日の光が、窓の外から部屋の中に差し込んでいる。

「モルガ?」

 モリオンは急いで機械を止め、隣の部屋の作業台へ向かう。

 しかし、そこには、誰もいない。

 変ねぇ……と思いながら、部屋の中を見回し、そして、あることに気づき、目を細めた。

「……気になるのなら、早く、帰っていらっしゃい」

 作りかけの、ルクレツィアのための義手──それを収めた箱の周りに、小さな白い砂の山と、漆黒の大粒の美しい石が転がっていた。


  ◆◇◆


「やーれやれ。あの隊長さん、結構人使いが荒いのぉ……」

「警備の人間をしばらく外す」──その話、一体、どこから聞いたのやら。
 さっそく当日夜から地下神殿に、不法侵入者が後を絶たない状況であった。

「ば……バケモノッ……」

 姿を現したアックスを見て、一同、口をそろえてそう言う。
 不法侵入者──黒い制服を着た騎士は、アックスに向かって、二発、三発と銃を撃った。
 
 アックスの体から赤い血が噴き出し、金色の翼を赤く染める。

「まー、要するに、ワシが代わりに警備しろって意味で、受け取っていいと思うんじゃけど……」

 アックスが腕を振ると、疾風が騎士を、言葉通り切り刻んだ。
 転がる死体を見向きもせず、アックスは自身の受けた傷に、数多あまたの目を細める。

 血のふき出した傷と、血に濡れた翼が、人の悪意・・・・を受けて、じんわりと黒く染まる。

精霊機我ら神は、人に都合よく使われるだけの奴隷・・ではない。エヘイエーの反転バチカルシャダイ・エル・カイの反転アィーアツブスも……ヒトとの同化を可能とする『鼎』も……創造主・・・が意図を持て我らに与えた権限機能なり」

 ……なぁーんて、のぉ。と、アックスはクスリと笑う。

「エノク! おるか?」

 びくり──と、朱髪の少年が震えながら姿を現した。

「ワシゃー、九天コックピットで少し寝る。不法侵入者が来たら、アレスフィードちぃと動かして、びびらせちゃれ。場合によっては、暴れても構わん」

 ああ……と、心臓コックピットに足を踏み入れながら、アックスは振りかえる。

兄ちゃん・・・・が起きたら、まっ先に起こしてくれ」

 ややくすんだ金色の糸が、アックスの躰を包み込む。
 アックスはじっと、糸が、視界を遮るまで、正面の繭を見つめながら、眠りについた。

 巨大な繭ヘルメガータの反応は、今日も、変わらず……。
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