精霊機伝説

南雲遊火

文字の大きさ
29 / 110
眠る地の騎士と風の神の受難編

第二十八章 指輪

しおりを挟む
 人の気配に、ふと、ルクレツィアは目を覚ます。

 月明りが窓から差し込んではいるが、夜明けまで時間があるのか、室内はまだ薄暗い。

「誰だッ!」

 影が動き、ルクレツィアは飛び起きた。

 目に見えて、誰かがいる様子はない。
 ゆっくりと、ルクレツィアは体を起こし、そして、おそるおそる、寝台から足を降ろす。

「!」

 ざらりとした足裏の感触に、思わず驚き、引っ込めた。

 明かりをつけ、そして足元を確認する。

「砂……?」

 なんで、こんなところに……と、ルクレツィアは呟く。
 絨毯の上に、こんもりと──それなりに、結構な量の白い砂が、一山ほど、広がっていた。

 一瞬、モルガの部屋の引き出しのを思い出し、ぶるりと震える。
 そういえば、アレ、どうなったのだろうか……確認してなかったことを、少し悔やんだ。

 と、そうではなくて。

 今から掃除をするか、それともとりあえず朝までもう少し寝るか……少々悩み、とりあえず、今回はそのまま、眠ることにした。

 そして、日が昇り……。

 再び目覚めたルクレツィアは床を見て驚く。
 そこには、砂どころか、塵一つ何も無い、綺麗な絨毯の床が、広がっていた。

 夢、だったのだろうか……?

 眉間にしわを寄せながら、ルクレツィアは着替え始める。

 ふと、制服のズボンのポケットに、硬いものが入っていることに気がついた。

「……? これ、は……」

 出てきたのは、不透明に近い黒い石と、淡いピンク色の石がついた、銀の台座の、小さな指輪が一つ。

 ルクレツィアには見覚えが無かったが、不思議と、送り主の顔が脳裏をよぎり、そして、急いでルクレツィアは、地下神殿へ向かった。


  ◆◇◆


「確かに、貴様に此処の警備を任せる意図があったことは認めよう。が、誰も殺せ・・とは、言っていない」

 複数の死体に、チェーザレが渋い顔を浮かべながら、アレスフィードを見上げた。

 死体の検分と処理のため、関係のない複数の騎士が地下神殿に出入りしているので、アックスが姿を見せることは無かったが、あくびをかみ殺したような声がアレスから聴こえ、さらにチェーザレを苛立たせる。

「……ゴメン、隊長。確か、火宮軍ウチ二等騎士ラング・アークの加護、光だったと思う……」
「よし、よくやった!」

 ステラの言葉に、コロリと変わるチェーザレの態度。それを見て、「なんじゃらほい……」と、アックスがため息を吐く。

 まったく、嘆かわしい事ですわ……と、サフィニアも思わず、頭を抱えた。

「精霊機の操者に憧れる騎士がいることは存じておりますし、地下神殿に忍び込む輩の存在も、予測できなかったわけではないですが……操者が決まったことを公表していないアレスならともかく、既に決まっている既存の精霊機の横取り・・・を狙う騎士が、よもや居ようとは……」
「この騒ぎは、一体……」

 ルクレツィアは、目を丸くする。重臣会議にはまだ時間があり、普通なら、皆、朝食の時間であるはずなのだが……。

「あ、ルーちゃん! おはよう!」

 普段通り、にっこり笑うステラに、「何かあったのか?」と、ルクレツィアは問う。
 チラリとヘルメガータを見上げたが、繭に目立った変化は見られない。

「いやー、すごいわね闇宮軍。花丸あげちゃうわ」
「地下神殿の警備を外した途端、侵入者続出でな。加減を知らぬ馬鹿・・・・・・・・が侵入者を片っ端から殺すものだから、編成前の風宮軍と、貴様の闇宮軍を除いたすべての軍から死人が出ているのだ」

 規律を破った騎士に、弁明の余地も同情の余地も無いが……と、ぶつくさと兄がぼやく。

「おまえの闇宮軍の中に、不埒者はいなかったので、呼ばなかったのだが……どうした?」
「いえ……少し」

 その……と、小声で兄に囁く。

「アックスと話がしたかったのですが、今、大丈夫でしょうか」

 兄は、ぐるりと見まわす。
 騎士たちは皆、忙しそうにせわしなく動いている。

「例の、心臓コックピット同士を繋げるアレでなら、大丈夫なのではないか?」

 ただし、目立たないように。と、兄から釘を刺され、ルクレツィアは、深くうなずいた。


  ◆◇◆


「兄ちゃん?」

 アックスはルクレツィアを見上げ、首を横に振った。
 
 彼は心臓コックピットの床に座り込み、ルクレツィアの持ってきた簡易食レーションを、「不味い」と言いながら、パクパクと食べている。

 そういえば、食事はどうしているのだろう──と気になって持ってきたのだが、やはり、食べていなかったようだ。
 自分も朝食はまだなので、アックスと一緒にかきこむ。

「まー、エヘイエーと融合してから、人間としての睡眠と同じく、食事も必ずしも必要なモノではないんじゃがの。でも、やっぱりワシは、今のところは、『人間』でおりたい」

 見た目は完全に、ヒトからは、かけ離れてしもーたがの……と、ケラケラと笑う。

「今の、ところ……?」
「……まぁ、その話は、おいおい……ということで」

 視線をそらしながら、アックスが何かをはぐらかそうとしていることは目に見えてわかったのだが、「そんな事より、兄ちゃんの事じゃろ?」と言われ、ルクレツィアは思わず、こくりと首を縦に振った。

「御覧の通り。相変わらずヘルメガータは繭の中。九天コックピット……精霊機の心臓の損傷が、一日二日で治るとは、到底思えんし、そもそも、アィーアツブス化反転した兄ちゃん自体も、現状、どうなっとるかわからん。もちろん、ワシも気になっとるけぇ、エノクに命じて、ずっと監視はしとるけど……」
『こちらも。何度かアクセスする信号を送ってみたのだが、反応が無い』

 エロヒムもアックスに同意する形で会話に参加する。

「実は……」

 ルクレツィアは、夜中にあったこと、そして、朝見つけた指輪を手に取って見せた。

「ほほう……兄ちゃんもなかなか。隅に置けんのぉ……」
『ナルホド……』
『あらあらまぁまぁ……』

 アックスとエロヒムの二人が、何やらニマニマと笑った。もちろん、エロヒムは声だけなのだが。
 そして、ミカとエノクも自然に会話に参加してくる。

「な、何なのだ……」

 訳が分からない……と訴えるルクレツィアに、唯一、エノクだけが、同情的な視線を向けた。

「まぁ、気になるところは多々あるんじゃが、兄ちゃんで間違いはないじゃろ。……それも、受け取っといて、良いと思うぞ」

 地属性が強すぎて、精霊機で戦闘するときは、邪魔になるかもしれんが……と、一言、アックスが付け加える。

「ホレ。そろそろ会議の時間じゃろ? 怖ぁーい宰相さんに、ワシがやってしもーた事、なんとか誤魔化しといてつかぁーさい!」

 頼んます! アックスの言葉に、「できるかな……」と、ルクレツィアは苦笑いをし、そして、手を振って戻っていった。


  ◆◇◆


 さて……と、ルクレツィアを見送ったアックスは、再度、ハデスヘルに接続する。

愛しい人・・・・指輪を贈る・・・・・習慣は、もう何千年……イシャンバルやリーゼガリアスが滅びる、もっと前・・・・に、廃れてしもうた風習じゃけど……」
『シャダイ・エル・カイと操者モルガ、以前、人格以外・・・・は共有していると言ってはいたが……果たして……』

 ルクレツィアの前に現れたのは──彼女に指輪を贈ったのは、モルガナイト=ヘリオドール人間か、シャダイ・エル・カイか……。

 しかし、色々と疑念は残る。九天コックピットは損傷して反応はなく、繭も割れた様子はない。
 もちろん、モルガカイの姿など見ていないし、アックスエヘイエーとエロヒムの二柱が目を光らせているこの状況で、見逃すわけがない。

 何より気になるのは、送られた指輪──その指輪をつけるべき、『左手の薬指』。
 今のルクレツィアには無い・・モノ。
 それは、モルガ自身・・・・・が、能力の暴走を起こし、消してしまったからではないか……。

「普通なら、お互いにトラウマ思い出して、まっ先に『選ばない』、あり得ない贈り物。部分的な記憶喪失の可能性……結構、重症かも、しれんのぉ……」
『お前のように、人格含め、完全に融合した・・・・・・・ということも考えられるが……不確定要素も多い……』

 アックスは頭を抱える。

「やっぱり、兄ちゃんが起きてみないと、解らん!」

 アックスは「お手上げ」と、言葉通り、両手をあげた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

処理中です...