精霊機伝説

南雲遊火

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裏切りの騎士編

第五十一章 疑惑の試作機

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「で、なんでしょうかね班長殿……」

 ソルに呼び出されたギードは、「休ませてくれや」と言いたげな態度で、やる気なく勝手に、どっかりと椅子に座る。

 ギードの露骨な態度に、眉間にシワを寄せつつも、ソルは本題をきりだした。

「貴様、この機体に見覚えは無いか?」

 何度もつぎ足されて、机におさまりきらないほどの大きさになった、薄手の巨大な紙を数枚、ソルは執務机の上に、重ねるように広げる。

 まじまじと、ギードはそれを見つめた。

 紙はヴァイオレント・ドールVDの、設計図。

「あぁ、一番最初・・・・に交戦した中に一機、いましたね」

 アレイオラの機体にしては、やたら細っこかったんで、憶えてます──ギードの言葉を聴くたびに、険しくなるソルの表情に、今度はギードが怪訝そうな表情を浮かべた。

「それが、何か?」
「貴様……なぜ、その機体の設計図が此処・・にあるか、疑問に思わないのか」

 あ……と、何か気づいたギードが、あんぐりと口をあけた。

「まさか……」
「機体銘『ウラニア』」

 ゴトリ……机の影から金属の塊を、重そうにソルは机の上に置いた。
 塊には高温で溶けた形跡があり、砂の塊が纏わりついていて、さながらそれは──遺跡から発掘したばかりの出土品のようであった。

 ソルは目を細め、そして唇を噛みながら、悔しそうに言葉を紡いだ。

「オレが設計した──そして、世界にまだ三機しか存在していない、正真正銘、我が国の最新機・・・だ」


  ◆◇◆


「ラング・ビリジャン! ご無事でしたか!」

 深き森の奥、密林に囲まれたメタリアの帝都。

 砂漠の帝国フェリンランシャオも暑いが、メタリアは湿度が高く、違うベクトルの、蒸し蒸しじっとりとした暑さが、ルクレツィアに纏わりつく。

 帝都のほぼ中央に位置する、神殿を兼ねた城。
 サフィニアは元々この国の出身で慣れているのか、何時ものニコニコとした笑顔で、ルクレツィアたちを広間に迎え入れた。

「ジェダイ様の事、お悔やみ申し上げます」

 ルクレツィアの言葉に、一瞬、サフィニアの表情に影が差す。しかし、すぐに、彼女は首を横に振った。

 元の微笑みを顔に貼りつけ──しかし、ルクレツィアに、いつもよりハッキリとした口調で言う。

「とても、勇敢な子でした。あの子も、戦士として死に、本望であったことでしょう」

 だから……と、今度は反してぽつりと、呟くように、口を開いた。

「今度はわたくしが、あの子の残した、家族たちを──母を、妹を……そしてこの国を、守らなければ……」

 言うが早いが、サフィニアはルクレツィアの鳩尾みぞおちに、拳を打ち込む。
 そのままダメ押しとばかりに首に手刀を叩き込まれ、ドサリと床に転がるルクレツィアを、ポカンとした表情で後ろに続く騎士たちが見つめていたが、それを合図に、メタリアの兵士にぐるりと囲まれ、ハッと我に返る。

 騎士の一人が、糾弾するよう、サフィニアに叫んだ。

「乱心されたか! ラング・ビリジャン!」
「乱心? いいえ……。これは、わたくしの、意思……」

 いつもの微笑みをたたえ、サフィニアは自身の腹部を撫でる。

「えぇ。わたくしの、意思・・です」

 血であふれた広間に背を向け、サフィニアは城の奥へと、歩を進めた。


  ◆◇◆


 ドックで待機していたデカルトが、ふと顔をあげると、見知らぬ男が立っていた。

 巨大な体躯に、古い絵物語でしか見たことがない、古めかしい衣装。
 半裸の体はこれでもかというほど鍛えあげられ、四肢には、蔦のような文様の刺青が刻まれる。
 白い髪は、意外と手入れが行き届いているのか、女性のように細くサラサラで──しかし、相対するよう鋭い金の瞳が、ギロリとデカルトを見下ろした。

「ど……どなた様でしょうか?」

 恐る恐る問いかける。

 そんなデカルトに、男は一際きつく睨んだ。苛立たしげな低い声が、デカルトの耳──否、脳に、直接響く。

『我が名は、ヨシュア。アドナイ・ツァバオト我が神の命により、貴様を主と定める』

 アドナイ・ツァバオト? 主?

 聴いたことのない固有名詞に、首をかしげるデカルトに苛立ったのか、声を荒げてヨシュアは叫ぶ。

『いいから呼ぶがよい。アドナイ・ツァバオト我が主を!』
「え……じゃ、じゃぁ、アドナイ・ツァバオト……さん?」

 コレでいい? と、ヨシュアを見上げた途端、突然、ドックがガタガタと揺れた。
 音を立てて割れた窓の外を見て、ぎょっと目を見開く。

「せ……精霊機……」

 デカルトが言い切るより素早く、ヨシュアは、精霊機デメテリウスのむき出しになった心臓コックピットに、デカルトを勢いよく叩き込んだ。

「な──! ちょっと、ちょっと待って! 一体どういうこと?」
『どうもこうもない。先ほど説明した。我らは、貴様を主と定めた』

 心臓コックピットの床にへばりつくデカルト。見上げるヨシュアは淡々と、デカルトに言う。

 とりあえず、デカルトは一旦深呼吸し、そして、その間に、頭の中を整理する。
 ──まずは。

「本来の操者である、ラング・ビリジャンはどうした?」

 まさか、戦死されたのか?

 不安げに問いかけるデカルトに、『否』と、ヨシュアは首を振った。

『生きている。しかし。あの者は「資格」を、失った』

 故に。ヨシュアはギロリと、デカルトに厳しい視線を向ける。

『我は反対したが、アドナイ・ツァバオトは貴様を選んだ。光栄に思え。人間・・よ』


  ◆◇◆


 ギードはごくり。と、唾を呑み込む。

 やっちまったか・・・・・・・友軍・・を攻撃……一瞬、最悪のミスが脳裏をよぎったギードだが、すぐにぶるぶるとかぶりを振る。

 友軍に一致しない識別信号に加え、二千もの大群が出てきたタイミングを考えると、それは間違いなく無い・・だろう。

「……でもよ。班長殿!」

 ギードはいつにもなく真面目な表情かおで、ソルを見る。
 間違いなく、アレは、アレイオラ軍の先遣隊だった・・・

「なんで、そんな機体が、連中の中に……」

 ソルは設計図をたたみながら──ため息をはきつつ、口を開いた。

「……試作の三体のうち、一体は本国の帝都にある。残りの二体は、実戦データの収集を目的とし、サフィニアに預けた」

 もちろん、陛下の許可はもらって。と、ソルは付け加える。

「じゃあ、奪われちまったってのか? その試作機二体とも!」
「それは判らない。だが、一機は確実に、戦闘か、休息中に不意を突かれたか……何らかの方法で奪われ、貴様らの前に、現れた」

 しかし、あるいは……と、苦々しい表情で、ソルは赤い目を細める。

 アレスフィードアックスの協力を得て引き出した、ヘルメガータの戦闘時の映像データ。
 加えて、ギードのエラトの戦闘時の映像データの履歴も確認した。

 暗闇の中の戦闘なので、装甲の傷等、細かい部分は解らなかったが、映像に映る姿を見る限り、敵の手に落ちた試作型は、ほぼ無傷・・であることは確実。

 濁す言葉の先を、唇を噛みながら、ソルは続けた。

「サフィニアが裏切り、アレイオラに献上・・したか」
「はぁッ?」

 素っ頓狂な声を上げ、ギードが目を見開き、椅子からずり落ちて尻餅をついた。
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