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03. 予期せぬ結婚の申込
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それから三ヶ月後。
予定通り、異母姉であるアメリアはフェレロ侯爵家へと嫁いで行った。
教会で催された挙式は、侯爵家が全面的に費用を出してくれたとあって非常に豪華なものであった。
アメリアに首ったけのドミニクは「美しい花嫁を着飾らせたい!」と張り切り、ドレスやアクセサリー、ティアラにも贅の限りを尽くしたらしい。
これにはアメリアも大喜びで、夫や列席者に満面の笑みを振り撒き、その美貌に皆が感嘆のため息を吐いたそうだ。
なお、『らしい』、『そうだ』と伝聞系の語りなのは、リースベットがその挙式に参列していないからである。
せっかくの晴れがましい日にリースベットの顔など見たくないと義母とアメリアが主張したため、屋敷でいつも通りの日常を過ごしていた。
リースベットがその話を知ったのは、帰って来た父や義母が、いかに素晴らしい挙式だったかを誇らしげに使用人たちへ語って聞かせていた時だった。
……お父様やお義母様は上機嫌ね。しばらくは屋敷の雰囲気も穏やかになりそうだわ。
そんな感想を抱き、ほっと胸をなで下ろす。
リースベットにとっては、異母姉の挙式の詳細よりも、両親の機嫌の方がよほど重要だ。
なにしろ自身の生活に直結するのだから。
そしてその見通しはピタリとあたった。
翌日からの屋敷は、義母が声を荒げることもなく、使用人に理不尽に当たることもなく、これまでになく平和であった。
しかし、そんなささやかな平和は残念ながら長くは続かなかった。
数日後に予想外の出来事が起こったからだ。
そう、あの書状――シャロック公爵家からの結婚の申込だ。
「お前も心当たりはないのだな?」
「は、はい……」
突然興奮状態で押しかけてきた父を前に、リースベットは書状を握りしめたまま、困惑した顔で小さく頷く。
心当たりなど、あろうはずがない。
夜会でアメリアがシャロック公爵にアプローチをしている際に見かけた程度だ。
言葉を交わしていたのはアメリアだけで、自分は傍で静かに控えていただけ。
その時も、チラリと視線を向けられたことはあるが、眉をしかめてすぐ逸らされた。
地味な自分は見苦しかったのだろうとリースベットは感じていた。
「ふむ。ならば、公爵閣下はお前とアメリアを間違えていらっしゃるのかもしれないな。いや、そうに違いない。」
「………」
「よもやあのシャロック公爵家からアメリアに結婚打診が来るとは。フェレロ侯爵家との婚姻は早まったかもしれんな」
「………」
「ああ、非常に惜しい。惜しすぎる。アメリアの婚姻前であれば是が非でもお受けするのだが。侯爵家とは比べものにならん結納金も期待できただろうに」
父はリースベットの存在など忘れたかのように独りごちる。
リースベットもここで不用意に言葉を発すると父の不興を買うことを理解していたため、口を閉ざしてじっとしていた。
やがてなにかしらの結論を導き出したのか、父は一つ頷くと、リースベットの手から書状を荒々しく奪い取った。
「本日昼過ぎにこの件で公爵閣下が屋敷に来訪される。書状にはお前にも挨拶したいとあるが、お前は不要だ。アメリアと間違っておられるのだから、閣下のお目汚しになる」
「……はい」
「いつも通り、ここで静かにしていろ。決して閣下の前に姿を現すなよ。分かったな?」
強めの口調でそう言い残すと、踵を返し、父はさっさと立ち去って行った。
こんな小汚い小屋には長居したくないと言わんばかりの速足だった。
まるで嵐のような出来事に、リースベットはしばしの間、我を忘れてポカンとしてしまった。
……な、なんだったのかしら……?
父が去ってしばらくの後、ハッとしたリースベットは作業途中だった裁縫を再開し出す。
リネンのほつれを補修しているところだったのだ。
ただ、手を動かしながらも、やはりどうしても先程の事が気に掛かる。
ついつい物思いに耽ってしまい、その度に手が止まってしまう。
……あのシャロック公爵家が、お姉様と私を間違えて書状を送ってくるなんてこと、ありえるかしら……?
あの書状は正式なものであった。
しかも結婚の申込という、家の今後を左右しかねない、極めて重要な内容だ。
そんな大事な書状で公爵家当主がミスを犯すとは思えない。
……でも、そういうこともあるかもしれないわ。やっぱりお父様のおっしゃる通りなのかもしれないわよね……?
リースベットがこうして頭を悩ませている理由は、結婚打診を受けた人物が自分だからである。
だからこそ確信が持てない。
これが自分でなければ、自信を持って「公爵家が間違うはずがない」と断定するのに。
……仮にあの書状が間違っていなかったとして、なぜ公爵様からの結婚打診が私に……?
この点を解き明かそうとすると、ますます謎が深まる。
嘘偽りなく、本当に、本当に、分からない。
それゆえにどうしても気になってしまう。
この日珍しく、「知りたい」という欲求を抑えられなかったリースベットは、人生で初めて父の命令にそむく行動に出た。
シャロック公爵が訪ねてきた際、小屋から離れて、屋敷にそっと足を踏み入れたのだ。
さすがに姿を現すことまではしなかった。
だが、応接間の扉の隙間から、中の様子をこっそり窺い、会話に耳を澄ませた。
「この度は、当家まで御足労いただき御礼申し上げます」
「多忙な身の上のため、急な先触れになり申し訳ない」
「なにをおっしゃいますか! 確かに驚きましたが、公爵閣下の訪れでしたらどんな時でも我がエイムズ伯爵家は歓迎いたします」
「そう言ってもらえるのは助かる」
屋敷の中で一番お金をかけた調度品が置かれた応接間にいるのは、エイムズ伯爵夫妻とシャロック公爵、そしてその従者一人の合計四人だ。
伯爵夫妻と公爵は向かい合ってソファーに掛けており、公爵の背後には一人の従者が控えている。
父と義母は、決してリースベットには向けることのない、上機嫌な笑顔を浮かべていた。
対してシャロック公爵は、王宮で開催される重大な会議に臨むかのように真剣な面持ちである。
艶めく紺藍色の髪、ほんのりと色気が潜むミステリアスな灰色の瞳を持つシャロック公爵は、怖いくらいに目鼻立ちが整った涼やかな印象の美形だ。
凛々しい眉、切れ長の目、スッと伸びた鼻筋、形のよい唇。どのパーツもまるで一級品の彫刻のようだ。
この端正な顔を前にして、義母は夢見る乙女のようなうっとりとした表情になっている。
「書状で伝えた通り、結婚申込の件について話し合いたいというのが本日の用件だ。……ところで、ご令嬢の姿が見えないようだが?」
余計な雑談をするつもりがないのか、双方の挨拶が済むとシャロック公爵はさっそく本題を切り出した。
若くして爵位を継承し、当主として公爵家を切り盛りしているだけあって、その冷静沈着な立ち振る舞いは目を見張るものがある。
やはり高位貴族は格が違うなと内心感嘆のため息を漏らしながら、伯爵は返答を口にする。
「はい、その件についてですが、実は我が娘のアメリアはつい数日前にフェレロ侯爵家へ嫁いでしまったのです。せっかく閣下から光栄なお申し出を頂きましたのに……大変心苦しく思っております」
「アメリアも公爵様に憧れておりましたのよ。このお話が数ヶ月前であればと遺憾でございますわ」
伯爵夫妻は、公爵の要望に沿えず申し訳ない気持ちを目一杯表現しつつ言葉を繰り出した。
公爵家と縁付ける機会を逃すなんて、惜しくてしょうがないという思いでいっぱいだ。
とはいえ、アメリアがすでに嫁いでしまった以上、もはやどうすることもできないと悔しさを滲ませた。
しかし、その言葉を受けてシャロック公爵は軽く首を傾げて眉をひそめる。
そして怪訝そうに伯爵夫妻に尋ねた。
「アメリア? 私が結婚を申し込んでいるのはリースベット嬢だが? 書状でも記していたはずだ」
「ア、アメリアではなくリースベット……?」
「ま、まさか……。おほほほ。公爵閣下はご、ご冗談がお上手ですのね」
思わぬ言葉に虚を衝かれた伯爵夫妻は激しく動転した。
目を白黒しながらなんとか言葉を紡ぐが、完全にしどろもどろだ。
信じたくない、きっと聞き間違いだろうという思いも燻っていた。
だが、そんな伯爵夫妻に対してシャロック公爵は再びはっきりと告げる。
「このような場で冗談など言わない。もう一度繰り返すが、私が結婚を申し込んだのはリースベット・エイムズ伯爵令嬢だ。それで彼女は今どちらに?」
スムーズに話が進まないことに不快さを募らせているらしい公爵の声には若干の苛立ちが滲んでいた。
じとりとした目を向けられ、伯爵夫妻は一気に顔色を悪くする。
こっこり盗み聞きしていたリースベットも思わずビクッと肩を震わせた。
……書状は間違いではなかったのね。でもこうなると本当に分からないわ。なぜ公爵様が私を……?
この点は当然のことながら伯爵夫妻も疑問に思ったらしい。
「あ、あの、恐れながら、なぜリースベットなのでしょう……?」
「残念ながら、あの子は公爵様に見初めていただけるような器量ではございませんわ。結婚などすれば公爵様の品位が落ちてしまいかねないですわ……」
リースベットに代わって二人がシャロック公爵に問いかける。
義母の方はこんな時までリースベットを落とす言葉を捩じ込んでおり、ある意味さすがだ。
本気で理由が分からないという顔をした伯爵夫妻に対して、公爵は当たり前のことを問われるのは心外だとでもいうふうに小さく呆れ混じりのため息を零した。
そして二人の目をまっすぐ見据えて、一言こう述べた。
「リースベット・エイムズ伯爵令嬢との子が欲しいからだ」
予定通り、異母姉であるアメリアはフェレロ侯爵家へと嫁いで行った。
教会で催された挙式は、侯爵家が全面的に費用を出してくれたとあって非常に豪華なものであった。
アメリアに首ったけのドミニクは「美しい花嫁を着飾らせたい!」と張り切り、ドレスやアクセサリー、ティアラにも贅の限りを尽くしたらしい。
これにはアメリアも大喜びで、夫や列席者に満面の笑みを振り撒き、その美貌に皆が感嘆のため息を吐いたそうだ。
なお、『らしい』、『そうだ』と伝聞系の語りなのは、リースベットがその挙式に参列していないからである。
せっかくの晴れがましい日にリースベットの顔など見たくないと義母とアメリアが主張したため、屋敷でいつも通りの日常を過ごしていた。
リースベットがその話を知ったのは、帰って来た父や義母が、いかに素晴らしい挙式だったかを誇らしげに使用人たちへ語って聞かせていた時だった。
……お父様やお義母様は上機嫌ね。しばらくは屋敷の雰囲気も穏やかになりそうだわ。
そんな感想を抱き、ほっと胸をなで下ろす。
リースベットにとっては、異母姉の挙式の詳細よりも、両親の機嫌の方がよほど重要だ。
なにしろ自身の生活に直結するのだから。
そしてその見通しはピタリとあたった。
翌日からの屋敷は、義母が声を荒げることもなく、使用人に理不尽に当たることもなく、これまでになく平和であった。
しかし、そんなささやかな平和は残念ながら長くは続かなかった。
数日後に予想外の出来事が起こったからだ。
そう、あの書状――シャロック公爵家からの結婚の申込だ。
「お前も心当たりはないのだな?」
「は、はい……」
突然興奮状態で押しかけてきた父を前に、リースベットは書状を握りしめたまま、困惑した顔で小さく頷く。
心当たりなど、あろうはずがない。
夜会でアメリアがシャロック公爵にアプローチをしている際に見かけた程度だ。
言葉を交わしていたのはアメリアだけで、自分は傍で静かに控えていただけ。
その時も、チラリと視線を向けられたことはあるが、眉をしかめてすぐ逸らされた。
地味な自分は見苦しかったのだろうとリースベットは感じていた。
「ふむ。ならば、公爵閣下はお前とアメリアを間違えていらっしゃるのかもしれないな。いや、そうに違いない。」
「………」
「よもやあのシャロック公爵家からアメリアに結婚打診が来るとは。フェレロ侯爵家との婚姻は早まったかもしれんな」
「………」
「ああ、非常に惜しい。惜しすぎる。アメリアの婚姻前であれば是が非でもお受けするのだが。侯爵家とは比べものにならん結納金も期待できただろうに」
父はリースベットの存在など忘れたかのように独りごちる。
リースベットもここで不用意に言葉を発すると父の不興を買うことを理解していたため、口を閉ざしてじっとしていた。
やがてなにかしらの結論を導き出したのか、父は一つ頷くと、リースベットの手から書状を荒々しく奪い取った。
「本日昼過ぎにこの件で公爵閣下が屋敷に来訪される。書状にはお前にも挨拶したいとあるが、お前は不要だ。アメリアと間違っておられるのだから、閣下のお目汚しになる」
「……はい」
「いつも通り、ここで静かにしていろ。決して閣下の前に姿を現すなよ。分かったな?」
強めの口調でそう言い残すと、踵を返し、父はさっさと立ち去って行った。
こんな小汚い小屋には長居したくないと言わんばかりの速足だった。
まるで嵐のような出来事に、リースベットはしばしの間、我を忘れてポカンとしてしまった。
……な、なんだったのかしら……?
父が去ってしばらくの後、ハッとしたリースベットは作業途中だった裁縫を再開し出す。
リネンのほつれを補修しているところだったのだ。
ただ、手を動かしながらも、やはりどうしても先程の事が気に掛かる。
ついつい物思いに耽ってしまい、その度に手が止まってしまう。
……あのシャロック公爵家が、お姉様と私を間違えて書状を送ってくるなんてこと、ありえるかしら……?
あの書状は正式なものであった。
しかも結婚の申込という、家の今後を左右しかねない、極めて重要な内容だ。
そんな大事な書状で公爵家当主がミスを犯すとは思えない。
……でも、そういうこともあるかもしれないわ。やっぱりお父様のおっしゃる通りなのかもしれないわよね……?
リースベットがこうして頭を悩ませている理由は、結婚打診を受けた人物が自分だからである。
だからこそ確信が持てない。
これが自分でなければ、自信を持って「公爵家が間違うはずがない」と断定するのに。
……仮にあの書状が間違っていなかったとして、なぜ公爵様からの結婚打診が私に……?
この点を解き明かそうとすると、ますます謎が深まる。
嘘偽りなく、本当に、本当に、分からない。
それゆえにどうしても気になってしまう。
この日珍しく、「知りたい」という欲求を抑えられなかったリースベットは、人生で初めて父の命令にそむく行動に出た。
シャロック公爵が訪ねてきた際、小屋から離れて、屋敷にそっと足を踏み入れたのだ。
さすがに姿を現すことまではしなかった。
だが、応接間の扉の隙間から、中の様子をこっそり窺い、会話に耳を澄ませた。
「この度は、当家まで御足労いただき御礼申し上げます」
「多忙な身の上のため、急な先触れになり申し訳ない」
「なにをおっしゃいますか! 確かに驚きましたが、公爵閣下の訪れでしたらどんな時でも我がエイムズ伯爵家は歓迎いたします」
「そう言ってもらえるのは助かる」
屋敷の中で一番お金をかけた調度品が置かれた応接間にいるのは、エイムズ伯爵夫妻とシャロック公爵、そしてその従者一人の合計四人だ。
伯爵夫妻と公爵は向かい合ってソファーに掛けており、公爵の背後には一人の従者が控えている。
父と義母は、決してリースベットには向けることのない、上機嫌な笑顔を浮かべていた。
対してシャロック公爵は、王宮で開催される重大な会議に臨むかのように真剣な面持ちである。
艶めく紺藍色の髪、ほんのりと色気が潜むミステリアスな灰色の瞳を持つシャロック公爵は、怖いくらいに目鼻立ちが整った涼やかな印象の美形だ。
凛々しい眉、切れ長の目、スッと伸びた鼻筋、形のよい唇。どのパーツもまるで一級品の彫刻のようだ。
この端正な顔を前にして、義母は夢見る乙女のようなうっとりとした表情になっている。
「書状で伝えた通り、結婚申込の件について話し合いたいというのが本日の用件だ。……ところで、ご令嬢の姿が見えないようだが?」
余計な雑談をするつもりがないのか、双方の挨拶が済むとシャロック公爵はさっそく本題を切り出した。
若くして爵位を継承し、当主として公爵家を切り盛りしているだけあって、その冷静沈着な立ち振る舞いは目を見張るものがある。
やはり高位貴族は格が違うなと内心感嘆のため息を漏らしながら、伯爵は返答を口にする。
「はい、その件についてですが、実は我が娘のアメリアはつい数日前にフェレロ侯爵家へ嫁いでしまったのです。せっかく閣下から光栄なお申し出を頂きましたのに……大変心苦しく思っております」
「アメリアも公爵様に憧れておりましたのよ。このお話が数ヶ月前であればと遺憾でございますわ」
伯爵夫妻は、公爵の要望に沿えず申し訳ない気持ちを目一杯表現しつつ言葉を繰り出した。
公爵家と縁付ける機会を逃すなんて、惜しくてしょうがないという思いでいっぱいだ。
とはいえ、アメリアがすでに嫁いでしまった以上、もはやどうすることもできないと悔しさを滲ませた。
しかし、その言葉を受けてシャロック公爵は軽く首を傾げて眉をひそめる。
そして怪訝そうに伯爵夫妻に尋ねた。
「アメリア? 私が結婚を申し込んでいるのはリースベット嬢だが? 書状でも記していたはずだ」
「ア、アメリアではなくリースベット……?」
「ま、まさか……。おほほほ。公爵閣下はご、ご冗談がお上手ですのね」
思わぬ言葉に虚を衝かれた伯爵夫妻は激しく動転した。
目を白黒しながらなんとか言葉を紡ぐが、完全にしどろもどろだ。
信じたくない、きっと聞き間違いだろうという思いも燻っていた。
だが、そんな伯爵夫妻に対してシャロック公爵は再びはっきりと告げる。
「このような場で冗談など言わない。もう一度繰り返すが、私が結婚を申し込んだのはリースベット・エイムズ伯爵令嬢だ。それで彼女は今どちらに?」
スムーズに話が進まないことに不快さを募らせているらしい公爵の声には若干の苛立ちが滲んでいた。
じとりとした目を向けられ、伯爵夫妻は一気に顔色を悪くする。
こっこり盗み聞きしていたリースベットも思わずビクッと肩を震わせた。
……書状は間違いではなかったのね。でもこうなると本当に分からないわ。なぜ公爵様が私を……?
この点は当然のことながら伯爵夫妻も疑問に思ったらしい。
「あ、あの、恐れながら、なぜリースベットなのでしょう……?」
「残念ながら、あの子は公爵様に見初めていただけるような器量ではございませんわ。結婚などすれば公爵様の品位が落ちてしまいかねないですわ……」
リースベットに代わって二人がシャロック公爵に問いかける。
義母の方はこんな時までリースベットを落とす言葉を捩じ込んでおり、ある意味さすがだ。
本気で理由が分からないという顔をした伯爵夫妻に対して、公爵は当たり前のことを問われるのは心外だとでもいうふうに小さく呆れ混じりのため息を零した。
そして二人の目をまっすぐ見据えて、一言こう述べた。
「リースベット・エイムズ伯爵令嬢との子が欲しいからだ」
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