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第五章 天使と勇者と相棒と

番外編 勇者司は

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「…ツカ…ツカサ…」

…ん?
何だ?拓也か…
もう少し寝させてくれよ。
頼むから。
こんなフカフカのベッドで寝られるのは久しぶりだったんだから…

「ツカサ様っ!!」
「うおっ!?」

俺を呼んでいたのは、ディリーだったらしい。
寝間着のまま俺を揺すっていたディリー。
髪が寝癖でボサボサになっていた。

「おはようございます、ツカサ様…ふぁあ。す、すみません…まだ眠たくって」
「当たり前だよ。…まだ、4時だし」

そうなのだ。
天使の騒動があった後拓也と別れてディリーと合流した。
宿を一晩借りたのだが、その日の疲れもあったのか…はたまた魔力を消費し過ぎたのか。
ディリーはあっという間に眠り込んでしまった。
…ディリーの称号は「巫女」だから、回復魔法を王宮で使って王家に仕えるっていうのが本当の役割なのだが、俺と一緒に旅に出るために大分無理をしたみたいだ。
…でも。
ディリーは時々、何かを悟られまいと俺につきまとっている。
それが拓也の事なのか、はたまた別の事なのかは分からないが…
俺が単独で行動しようとすると真っ先に止めに入るのだ。
…今回は爆発が起きてディリーが気絶したから街の人にディリーを預けられたけど……
「巫女」に戦うすべは無い。
いつも俺を無我夢中で回復してくれている。が、もう少し自分の体を気遣って欲しい。
そう言うと、ディリーは「私の体はツカサ様の為に。「巫女」である私の指名なのです」ときっぱり言われてしまった。

「………ツカサ様、うなされてましたよ?」
「!?そうなのか…?」
「ええ。ご自分の体を見てください。汗だらけですよ…」

確かに、自分の体は冷や汗でびっしょりと湿っていた。
…悪夢を見たのか?
にしては、夢の内容を全く覚えていない。

「起こして悪かったな、ディリー」
「い、いえ…では、もう少し寝ましょう。次の目的地はエルフの村です」
「エルフ!」

確か、拓也が行くって言ってた所だ。

「はい。そこに伝説の装備「自然の首飾り」があるという噂です」
「そうなのか」
「あくまで噂ですよ?噂はそう期待したものではありません」

では、とディリーはベッドに潜り込んでしまった。
…早いな。もう寝息をたてている。
魔法でもかけて寝たのか?
…そういえば、魔力が回復している。

「体が痛くない…」

グッパッと手を握ったり開いたりして感触を確かめた。

「………」

とっさにディリーを見た。
…中級回復魔法、「エクスヒール」。
それを使ってくれたのかもしれない。
確か、初級はかすり傷を癒やし、中級は骨折程度なら治して体の疲れも回復。上級は重傷を回復。例え体の一部がとれてもくっつけられるとか。超上級は完全復活とでも言うのか。死人も行き帰り、四肢が無くなっても五体満足の状態に出来るのだそう。
…ただ、そんな超上級を使えるのはこの世界で確認されているのはたった4人。
なんせ、物凄い魔力がもってかれる凄い魔法だからな。

「………」

ディリーを見る。
目が覚めるような青色の髪を見つめた。
…そういえば、どこかでこの色を見たような。
どこだったか…?
あ、思い出した。
確か天使と戦ってた魔法剣士だ。
…にしてもよく似ている。

「ううん…アモネス…」

そう、ディリーが寝言でつぶやいた。
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